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2024.11.07 「再生未来・再生ファーマ v. 神戸医療産業都市推進機構」 大阪地裁令和4年(ワ)9696・令和4年(ワ)10968 ― 委受託研究契約「協議し決定するものとする」条項で起きた顛末 ―

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1.背景

本件(令和4年(ワ)9696 損害賠償請求事件(甲事件)・令和4年(ワ)10968 特許権移転登録手続請求事件(乙事件))は、公益財団法人神戸医療産業都市推進機構(以下「被告」)に研究を委託する契約を締結した医療法人再生未来(以下「原告再生未来」)が、被告の研究者P3により発明された本件発明が本件契約に基づく研究により得られた成果物であることを前提として、

  • 原告再生未来が、P3が本件発明を単独で特許出願したことが契約義務違反等に当たる旨主張して、被告に対し、損害賠償金等の支払を求め(甲事件)、
  • 原告再生未来及び再生ファーマ株式会社(以下「原告再生ファーマ」)が、本件発明につき原告再生未来の理事長であるP1及び徳島大学教授であり原告再生ファーマの取締役でもあるP2が共同発明者であることを前提として特許法71条1項に基づく本件特許権の持分3分の1の各移転登録手続きを求めた(乙事件)

事案である。

甲事件は、神戸地裁での審理後、大阪高裁で第一審判決が取消され、大阪地裁へ移送されたという経緯がある(ブログ記事: 2022.09.30 「再生未来 v. 神戸医療産業都市推進機構」 大阪高裁令和4年(ネ)1273 損害賠償請求控訴事件 管轄違いで原判決取消し・・・受託研究成果物?その発明は誰のもの?)。

2022.09.30 「再生未来 v. 神戸医療産業都市推進機構」 大阪高裁令和4年(ネ)1273 損害賠償請求控訴事件 管轄違いで原判決取消し・・・受託研究成果物?その発明は誰のもの?
Summary 本件は、公益財団法人神戸医療産業都市推進機構(被控訴人)に研究を委託する契約を締結した医療法人再生未来(控訴人)が、被控訴人の研究者により発明された本件発明が本件契約に基づく研究により得られた成果物であることを前提として、当該研究者個人が本件発明を単独で特許出願したことが契約義務違反等に当たる旨主張して、被控訴人に対し、損害賠償金等の支払を求めた事案である。原審(神戸地裁)は控訴人...
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2.裁判所の判断

本件において、大阪地方裁判所第26民事部は、以下のとおり判断し、甲事件の原告再生未来の請求、乙事件の原告らの請求はいずれも理由がないとして、原告らの請求を棄却した。

(1)甲事件

本件発明が本件契約の対象となるかにつき対象と認められるが、被告の義務違反行為につきいずれも認められず債務不履行ないし不法行為を構成しない。したがって、その余の争点を判断するまでもなく、原告再生未来の請求は理由がない。

(2)乙事件

P1が本件発明の共同発明者であるかにつき共同発明者であると認められないが、P2が本件発明の共同発明者であるかにつき共同発明者と認められる。

しかし、P2の特許を受ける権利が原告再生ファーマに帰属するかにかかわらず、本件発明の完成後、被告が本件各出願を単独でする旨の合意があったかについて、これを認めることができるので、結局、P1、P2が共同発明者であることを理由とする原告らの各移転登録請求(主位的請求)はいずれも理由がない。

本件契約において、原告再生未来に本件特許権を譲渡するとの黙示の合意がされたか、原告再生未来が、本件契約14条2項に基づき本件特許権の持分を取得できるかについては、いずれも認められず、かつ、引換給付請求の可否及び相当対価の支払との同時履行の抗弁のうち、引換給付請求が許されないことに関する被告の主張には理由があるものと認められるので原告再生未来の予備的請求はいずれも理由がない。

また、以上のとおり、被告に違法行為がないこと、P1は共同発明者ではないこと及びP2は特許を受ける権利を放棄していることから、P3ないし被告によってP1及びP2並びに原告再生未来の発明者名誉権が侵害されたことはなく、原告再生未来に慰謝料請求権が発生することもない。

なお、原告再生未来固有の発明者名誉権なるものは、発明者が自然人に限られること(特許法36条1項2号)に鑑み、発明者性に関する判断の如何を問わず、認められない。

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3.コメント

特許第6718561号より

本件は、委受託研究契約に基づいて得られた知的財産の取扱いを巡り、委託者と受託者の間で意見が対立し、「協議して決定するものとする」という契約条項が機能しなかった典型的な事例である。

委託者である原告再生未来が、委託研究の成果として得られた発明に関する知的財産について、何の利益も得られない結果となった点は、やや厳しい判断のようにも感じられる。

しかし、契約書第14条(知的財産権の帰属)には、知的財産の取扱いについて「甲(原告再生未来)および乙(被告)が協議して決定するものとする」という曖昧な規定しか存在していなかった。

このような重要な事項を明確に定めていなかったため、協議が不調に終わった場合に、今回のような結果に至ってしまったといえる。

原告らが委託した研究成果に基づいて取得されてしまった被告の本件特許権の存在により、原告らの事業実施に支障は生じていないのだろうか。

本件特許権は、発明の名称を「活性型GcMAFの製造方法」とする特許第6718561号に関する。

原告再生未来は、本件特許の無効審判を請求(無効2020-800099)したが、特許庁が特許権者による訂正を認め、当該請求は成り立たないとする審決をし、その審決は確定している。

本件訂正後の各請求項は以下のとおり。

【請求項1】
Vitamin D Binding Protein発現ベクターを導入したCHO細胞を、無血清培地中で浮遊培養する工程を含み、糖鎖切断のための酵素処理工程を含まない、活性型のGc protein-derived macrophage activating factor(GcMAF)の製造方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ビタミンDアフィニティカラムによる精製工程を含む、請求項1に記載の活性型GcMAFの製造方法。

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