Summary
本件は、後発メーカーのサムスンが、バイオ後続品が本件特許権を侵害するとして先発メーカーのバイエルが厚労省に情報提供した行為が不競法2条1項21号に定める不正競争に該当すると主張し、その告知行為の差止めの仮処分を求めた事案である。
東京地方裁判所は、バイエルの情報提供は虚偽の回答に該当するとしつつ、パテントリンケージ制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものではないと判断し、サムスンの申立てを却下した。
本件は、厚労省の課長通知レベルで運用される日本のパテントリンケージ制度に潜在する問題――判断過程や理由の非公開による透明性と公平性の欠如――が、不正競争防止法の虚偽告知該当性の観点から浮き彫りになった事例である。
1.背景
アフリベルセプト(Aflibercept)は、Regeneron社により創製されたヒトIgG1のFcドメインにヒトVEGF受容体の細胞外ドメインを結合させた組換え融合タンパク質である。日本では、2012年9月にアフリベルセプト製剤である、「アイリーア®硝子体内注射液 40mg/mL」(以下「アイリーア®」)が「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」を効能・効果として承認され、その後、「網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫」、「病的近視における脈絡膜新生血管」、「糖尿病黄斑浮腫」、「血管新生緑内障」及び「未熟児網膜症」の効能・効果が承認されている。製造販売元はバイエル薬品株式会社である。
サムスン バイオエピス カンパニー リミテッド(以下「サムスン」)は、アイリーア®のバイオ後続品「アフリベルセプト硝子体内注射液 40 mg/mL『GRP』」の製造販売申請を日本における製造販売業者であるグローバルレギュラトリーパートナーズ合同会社(以下「GRP」)を介して行ったが、パテントリンケージが発動され、厚労省の指摘を踏まえて、本件特許(特許第7320919号)を勘案して申請当初の適応症から「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」を削除したうえで承認を取得した(いわゆる「虫食い」)。なお、同製品については、現時点で薬価収載されておらず、販売は開始されていない。
日本のパテントリンケージ制度(いわゆる「二課長通知」による運用)において、先発メーカー側から厚労省及びPMDA(以下、併せて「厚労省等」)に提出される「医薬品特許情報報告票」は、厚労省等が「先発医薬品と後発医薬品との特許抵触の有無について確認」して後発医薬品(運用としてバイオ後続品も含む)を承認するか否かの判断材料とされており、先発メーカー側がこの提出とともに記載特許に関する見解を厚労省等に説明等することは妨げられていない。
本件(東京地裁令和6年(ヨ)30029)は、パテントリンケージの運用プロセスにおいて、アイリーア®のバイオ後続品が承認販売された場合には本件特許権を侵害する旨を厚労省等に情報提供していた先発メーカーであるバイエル・ヘルスケア・エルエルシー(以下「バイエル」)の行為(以下「本件告知」)は不競法2条1項21号所定の不正競争に当たり、これによってアイリーア®のバイオ後続品の製造販売により得られるはずのサムスンの営業上の利益が侵害されるおそれがあると主張して、不競法3条1項に基づく差止請求権を被保全権利として、サムスン(債権者)が、バイエル(債務者)に対し、厚労省等に「サムスンによるバイオ後続品(債権者製品)の製造販売行為が本件特許権を侵害する」旨の告知をする行為の差止めの仮処分を求めた事案である。
バイエルの厚労省等への告知内容は、サムスンがバイエルの見解の内容について厚労省に確認したことに対して、厚労省の担当者が、GRPに対し、一般論として「アイリーアBS(バイオ後続品)が承認され、製造販売されれば」という言い方で確認をした旨の前置きをした上で、バイエル側の回答として、次のようにメールで返答したことによって、サムスンの知るところとなったようだ。
「貴省から、先発企業のバイエル薬品を通じて、特許権者であるBayer HealthCare LLCに、特許権者の意見についてお問い合わせいただいたところ、当該特許権者から、貴省に対して、アイリーアBSを承認および製造販売すれば、有効な特許である特許7320919号を侵害するとの回答がなされた。アイリーアBSが製造販売されると、特許権者等とBSメーカーとの間で特許権侵害に係る法的紛争が生じることは必至です。そして、その紛争において裁判所が差止めを認めれば、BSメーカーに安定供給義務違反が生じます。そのような事態を避けるうえでも、特許8の存続期間満了まで特許権の存在には十分留意されるべきです。」
2.裁判所の判断
東京地方裁判所民事第40部(以下「裁判所」と略す)は、パテントリンケージの下において、先発医薬品に係る特許権者等が先発医薬品に係る特許と後発医薬品との特許抵触がある旨の虚偽の回答をする行為が不正競争の一類型に含まれるか否かの「判断基準」を示した上で、本件告知は虚偽の回答をしたものと認めるのが相当であるが、本件に現れた諸事情を総合考慮すれば、パテントリンケージの趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くもの(特段の事情がある)ということはできず、バイエル(債務者)が本件告知をした行為は、不競法2条1項21号に掲げる不正競争に該当するものとはいえないと判断した。
したがって、裁判所は、その余の争点について判断するまでもなく、本件申立てには理由がないと判断し、サムスンの本件申立てを却下した。
(1)判断基準
裁判所が示した「判断基準」を以下にそのまま引用する。
「日本におけるパテントリンケージとは、厚労省の通知(別紙関係法令等の定めにいう「平成6年通知」及び「二課長通知」参照)に基づき、厚労省等が、後発医薬品の安定供給を確保する観点から、既承認の医療用医薬品の有効成分に係る物質特許又は用途特許についての情報の収集等を行い、後発医薬品の薬事法上の承認審査に当たり、後発医薬品につき、先発医薬品に係る特許との抵触の有無を確認するものである。
そして、上記通知によれば、上記物質特許若しくは用途特許に係る特許権者又は当該特許に係る成分を有効成分として医薬品の承認を取得している者(以下「特許権者等」という。)は、医薬品特許情報報告票に必要事項を記入しこれを任意で提出することとされている。その上で、上記通知によれば、薬事法上の承認審査に当たっては、先発医薬品の有効成分に特許が存在することによって、当該有効成分の製造そのものができない場合には、後発医薬品を承認しないとされ、また、先発医薬品の一部の効能・効果等に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとし、この場合、特許が存在する効能・効果等については、承認しない方針であるとされている。
このように、医薬品特許情報報告票は、後発医薬品の製造販売承認の申請の際に、厚労省等が後発医薬品の安定供給を確保し得るか否かの判断を行うための内部資料として、先発医薬品を製造販売する特許権者等から任意に提出されるものであり、その記載内容等に係る特段の制限はなく、上記特許権者等が先発医薬品に係る特許と後発医薬品との特許抵触の有無に関する自己の見解を記載すること自体を妨げるものではない。
他方、競争関係にある者が、競業者の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し又は流布する行為は、競業者を不利な立場に置き、自ら競争上有利な地位に立とうとするものであるから、事業者間の公正な競争を阻害することは明らかである。このような結果を防止し、事業者間の公正な競争を確保する観点から、不競法2条1項21号は、上記行為を不正競争の一類型と定めるものである。そして、先発医薬品に係る特許権者等と、後発医薬品の製造販売承認を申請する者との間には、当該医薬品市場において競争関係にあるところ、仮に、パテントリンケージの下で、上記特許権者等が、その後に確定した裁判所の判断とは異なり、先発医薬品に係る特許と後発医薬品との特許抵触がある旨の回答をする行為が、虚偽の事実を告知するものとして直ちに違法になるのであれば、上記特許権者等は、医薬品特許情報報告票に特許抵触の有無につき自己の見解を十分に記載することができなくなる。そのため、厚労省等が後発医薬品の安定供給を確保し得るか否かの判断を的確に行うことができず、ひいてはパテントリンケージの趣旨目的を阻害するおそれがある。
もっとも、パテントリンケージは、後発医薬品の安定供給を確保する観点から、後発医薬品の承認審査に当たり先発医薬品に係る特許と後発医薬品との特許抵触の有無を確認することを趣旨目的とするものであるから、先発医薬品に係る特許権者等に対し恣意的な情報提供を許容したり、これに広く免責を与えたりするものではないことは明らかである。
そうすると、パテントリンケージの下において、先発医薬品に係る特許権者等が先発医薬品に係る特許と後発医薬品との特許抵触がある旨の虚偽の回答をする行為が、外形的にはパテントリンケージの下における情報提供という形式をとりつつも、実質的には後発医薬品の製造販売承認を申請する者を不利な立場に置き、自ら競争上有利な地位に立とうとするものである場合には、上記行為は、事業者間の公正な競争を阻害するものとして、不競法2条1項21号の上記趣旨目的に鑑み、不正競争の一類型に含まれると解するのが相当である。
以上の観点からすると、先発医薬品に係る特許権者等がパテントリンケージにおいて先発医薬品に係る特許と後発医薬品との特許抵触がある旨の虚偽の回答をする行為は、パテントリンケージの趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと認められる特段の事情がある場合には、競争関係にある後発医薬品の製造販売承認を申請する者の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知するものとして、不競法2条1項21号に掲げる不正競争に該当すると解するのが相当である。」
(2)本件発明の実施該当性
裁判所は、以下のとおり、バイエルにおいて、債務者製品のバイオ後続品を製造販売すれば本件特許権を侵害する旨の回答をした行為(本件告知)は、虚偽の回答をしたものと認めるのが相当であると判断した。
「債権者製品は、そもそも債務者製品のバイオ後続品であり、本件承認申請時に提出された債権者製品の添付文書案には、適応症として「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」という記載があるにとどまり、【効能又は効果】及び【用法及び用量】の各欄においても、本件特定患者群に関する記載は一切認められず、本件特定患者群に投与することによって顕著な効果を有する趣旨をいう記載も一切認めることはできない。
上記認定事実によれば、債権者製品は、本件発明の構成要件A2、B、Cによって規定される患者群(本件特定患者群)に投与するものとして承認申請がされているものとはいえない。
そうすると、債権者が、本件承認申請とは異なる用途で債権者製品をあえて販売等する蓋然性が認められる特段の事情があれば格別、本件全疎明資料によっても、当該特段の事情を明らかに認めるに足りない。
これらの事情の下においては、債権者による債権者製品の製造販売等は、専ら本件特定患者群に投与するために抗 VEGF 剤を生産、使用、譲渡等をする行為とはいえず、本件特許権を侵害するものと認めるに足りない。
のみならず、仮に債権者製品が結果的に一定割合の本件特定患者群に投与される可能性を理由として、債権者製品の製造販売等が本件特許権を侵害するという債務者の見解に立ったとしても、前記前提事実によれば、債権者製品は、債務者製品のバイオ後続品であって、債務者製品と同等性、同質性を有するものであり、かつ、債務者製品は、本件優先日よりも前の時点において製造販売されていたのであるから、債務者製品についても、債権者製品と同様に、一定割合の本件特定患者群に投与されていたものと認められる。そうすると、債務者製品の製造販売は、特許法29条1項2号にいう公然実施に該当し、本件特許が無効にされるべきものであることは、自明である。」
(3)「特段の事情」該当性
しかし、裁判所は、以下のとおり、本件告知がパテントリンケージの趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものということはできず、前記「判断基準」の中の「特段の事情」を認めることはできないから、バイエルが本件告知をした行為は、不競法2条1項21号に掲げる不正競争に該当するものとはいえないと判断した。
「他方で、前記のとおり、パテントリンケージにおける医薬品特許情報報告票の提出は、厚労省等が後発医薬品の安定供給を確保し得るか否かの判断を行うための内部資料として提供するという位置付けのものであり、特許抵触の有無に係る裁判所の判断が確定する前にこれとは異なる回答をすることが直ちに違法になるものではないことは、前記において説示したとおりである。
そして、前記前提事実及び本件明細書の記載によれば、先行バイオ医薬(債務者製品)とバイオ後続品(債権者製品)が同一の適応症(wAMD)に係るものであり、かつ、先行バイオ医薬品とバイオ後続品に係る対象患者群は、いずれも本件発明の対象患者群(本件特定患者群)を必然的に包含する関係にあるから、債権者製品の少なくとも一部は、本件特定患者群に使用されることが認められる。
そうすると、仮に用途発明の構成要件充足性に係る債務者の見解に立った場合には、これが独自見解であったとしても、本件特許権の侵害をいうものとして主張としては一応成り立ち得るのであるから、これを直ちに排斥するような最高裁判例が未だ形成されていないことに鑑みると、債務者の上記見解が直ちに主張自体失当であるとまでいうことはできない。
仮に、債務者の充足性に係る見解に立った場合には、債務者は、本件優先日前の債務者製品に係る製造販売は本件特許の公然実施に該当しない一方、その後の技術常識の変遷により、債権者製品に係る製造販売は本件特許を充足するに至ったと主張するのであるから、この場合には、上記技術常識の変遷が一応の中核的争点になる。この点については、当業者の専門的知見を踏まえた審理判断が必要不可欠であり、本案において主張立証を尽くした上、専門委員などを選任し専門的知見も踏まえるなど十分な審理を尽くしていない段階において、債務者の上記主張が直ちに失当であるということはできない。のみならず、従前には、パテントリンケージにおける特許権者等の情報提供について、不競法の虚偽告知該当性が問題となった裁判例はなく、同種事例における裁判規範が示されていなかったのであり、しかも、本件特許権とそのバイオ後続品との関係については、世界各国において同種の特許権侵害訴訟が提起されており、本件もそのグローバルな紛争の一環として位置付けられるのであるから、債務者が、厚労省等に対し、自己の見解として本件告知をしたのにはやむを得ない側面があったともいえる。
これらの事情のほかに、本件に現れた諸事情を総合考慮すれば、債務者が本件告知をした行為は軽率の誹りを免れないものの、今後も本件告知を繰り返すような場合は格別、本件告知がパテントリンケージの趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものということはできず、前記特段の事情を認めることはできない。
したがって、債務者が本件告知をした行為は、不競法2条1項21号に5 掲げる不正競争に該当するものとはいえない。 」
3.コメント
法律に規定されていない厚労省の課長通知レベルで運用されている日本のパテントリンケージ制度には、多くの課題が指摘されている。
本件は、その中でも特に重要な問題点――二課長通知に基づく判断過程・判断理由は、公表されないだけでなく、当事者にも伝えられないため、透明性が欠如していること、公平性が担保されていないこと――が、特許権者等からの情報提供及び不正競争防止法の虚偽告知該当性という観点から顕在化した事例といえる(参照: 2023.09.18 ブログ記事「【アンケート】パテントリンケージとして運用されている二課長通知の問題点は何だと思いますか?」及び『医薬系特許的判例ブログ年報 2023』 Fubuki著 2024年5月発行, p262-266)。
パテントリンケージ制度の下では、特許権者が厚労省に対して意見を述べざるを得ない構造が存在する。
その根本には、特許権侵害を判断する専門家ではない厚労省が、特許法や判例に基づき高度な法的且つ技術的判断を公正に行えるとは限らないという問題がある。
このプロセスにおいては、後発医薬品の承認申請者である後発メーカーには説明の機会が与えられる一方で、先発メーカーには後発医薬品が承認申請された事実すら知らされない。その結果、先発メーカーは、後発医薬品がいつ承認されるのか、また厚労省により特許が適切に考慮されているのかを知るすべもなく、ただ成り行きを見守るしかない。このように、両者の意見提出機会の偏りが、公平性を欠いているのではないかと疑問視される制度の根幹的な問題となっている。
現在、厚労省は特許法の専門家による意見照会制度の導入を検討中である(参照: 2024.07.25 ブログ記事「【速報】厚生科学審議会(医薬品医療機器制度部会) パテントリンケージ制度の運用改善について議論 医薬品特許の専門家への意見照会制度の導入検討へ」)。しかし、専門家意見照会制度を導入したとしても、先発メーカーと後発メーカーの両者の意見を公平に吟味できないままであるならば、制度の公平性は担保されない。
医薬品の特許権侵害に関する判断は、特許権侵害事件の専属管轄を有する裁判所の判断を経るべきである。この判断は、社会や産業全体に大きな影響を及ぼすためである。
しかし、専門家意見照会制度を設置するのであれば、専門家の適格性を確保する仕組みが不可欠である。具体的には、専門家と呼ばれる者が本当に専門家といえるのか、その専門性がいかに担保されるのか、また先発メーカーや後発メーカーいずれとも利害関係を有さない中立性が確保されるのかといった点が、適切な制度運用の鍵となるだろう(税関における専門委員意見照会制度(関税法69条の5、69条の14等)のように法制化するのであれば、その前提となるパテントリンケージも法制化が必要であろう)。公平かつ透明性のある制度設計が求められるのは言うまでもない。
参照: パテントリンケージ制度に関する主な記事
コメント
早速のブログ作成ありがとうございます。いつも勉強になります。
言いたいことはたくさんある判決ですが、
まずは、先発企業は当局に対して「後発品は先発特許を侵害する」という虚偽の情報を提供している、ということに驚きました。
通常パテントリンケージで何が行われているかが明るみに出ることはありませんが、他にも同様の「虚偽情報」の提供が行われているではないかという気持ちを抑えられません。
厚労省(PMDA)が、虚偽情報を鵜呑みにして、本来は承認されるべき後発品を申請しないという、後発品への早期アクセスが阻害される事態が生じていないことを祈っています。
コメントありがとうございます!
仰るとおり、厚労省がしっかり判断できないことが根底の問題としてありますね。
なお、虚偽とされた点に関してですが、まず、裁判所は、本件発明の構成である特定患者群の記載と、バイオ後続品の添付文書の適応症、効能効果、用法用量の記載を形式的に比べただけで、バイオ後続品が製造販売されれば実質的に本件発明の技術的範囲に属することになるか否かを全く検討することなく、非侵害と判断しています。この判断は実質的な検討を全く欠いています。また、裁判所は、本件特許が公然実施に該当することにより無効にされるべきことが自明であると判断していますが、その前提となる当事者の主張も明らかではありません。これらの判断に至る裁判所の検討はいずれも乱暴に見えます。そして何よりも、裁判所は、虚偽回答であるとした認定の前提として非侵害判断をしたにもかかわらず、一方で、「特段の事情」該当性において、「侵害をいうものとして主張としては一応成り立ちうる」、「主張自体失当であるとまでいうことはできない」、「十分な審理を尽くしていない段階において、債務者の上記主張が直ちに失当であるということはできない」など、侵害の主張は成り立ちうる趣旨の見解を述べており、前記判断と全く矛盾することになってしまっています。以上、全体として、虚偽と判断した論理がちぐはぐな印象の判決内容であると感じました。
実質的に判断していないのに虚偽の回答だと認定された点については、実際にどのような表現で回答したのかは明らかになっていませんので、裁判所の実質的な判断(本案)を経ても非侵害であるとの判決が下されて確定するまでは何とも言えないかもしれません。
fubuki様
勉強させていただきました。宿題の判例解説のネタ探ししていたら、珍しく仮処分事件が公開されていて、何だろうと覗いてみてみて驚愕したところでした。先程立ち寄って、いつもながら既にfubuki様が詳細な分析をされていることを知り、勉強するとともに、ネタ被りになるのでやめとこうと思った次第です。・・・とはいえ、保全の必要性の観点からでもなく、一時期流行った違法性阻却の観点からでもなく、パテントリンケージの主旨からの虚偽事実の告知の成立要件に相当性を欠く特段の事情という新しい規範の定立と、今後の実務を考えると、凄い決定だと思います。前提で枝分かれしますが、実施にあたらないとの判断からも、公然実施として無効になる論理的帰結の判断からも、保全事件とはいえ、裁判所としての判断が示された以上、その後の実務にも引き継がれるのでしょうが、何となくですが、税関での保留の決定を思い出しました。
コメントありがとうございます!
判決内容については紹介にとどまり具体的な考察はしておりません(このあたりの土地勘がありません)ので、ぜひ、先生の評釈をお願いします。
なお、本件判決についての個人的感想は、先にコメント頂いた方への回答に記しておりますとおり、申立てを却下とした結論は良しとしても、判決に至る検討内容としてはあまり賛同できる判決ではないとの印象を持っております。
いつもこちらのブログで勉強させていただいております。
虫食い申請の場合虫食い用途にかかる用途発明の実施にあたるかという論点なのでしょうか?
確かに添付文書の内容だけで形式的に判断するのは何か違うような気もしますが、もっと実質的な審査をするとなると厚労省もパテントリンケージの作用範囲を判断するにあたってそのような微妙な判断をしなければならなくなるということでしょうか?単に虫食いだから技術的範囲に含まれない、という話も合理的には感じました。
コメントありがとうございます!
「虫食いだから技術的範囲に含まれない」と判断したわけではなく、債務者バイエルが厚労省に本件告知をしたことによって、対象適応症を削除(虫食い)せざるを得なかったという背景があると思います。裁判所が判断を示した本件における中核的争点は、裁判所が示した「判断基準」の「特段の事情」該当性になります。
ありがとうございます。読み直してみましたが、wAMDを虫食いにしたのは告知の後のようですね。「軽率の誹りを免れない」とまでいっておきながら「主張としては一応成り立ち得る」などという判示もあり、確かにちぐはぐな感じは否めませんね。