米国特許商標庁(USPTO)は、2024年2月12日、人工知能(AI)が関与する特許の発明者に関する詳細なガイダンスを公表し、翌13日に連邦官報(Federal register)へ掲載しました。このガイダンスは、AIが発明の創作に関与した場合に、発明者をどのように決定すべきかを示しています。
- 2024.02.13 A Notice by the Patent and Trademark Office (Federal register): Inventorship Guidance for AI-Assisted Inventions
1.ガイダンスの概要
このガイダンスでは、Thaler事件(Thaler v. Vidal, 43 F.4th 1207 (Fed. Cir. 2022))で判示されたように(2022.09.25記事参照: “Inventors” must be human beings. 発明者AI(”DABUS”)の特許出願を拒絶した米国特許商標庁の判断を米国連邦巡回区控訴裁判所も支持 Thaler氏は大法廷での再審理申立てへ)、AIが発明の創作に寄与しても、発明者として指名できるのは自然人のみであることが再確認されているほか、AIが創作に関与した発明(AI支援発明)における発明者であることの判断において、共同発明者性に関する判例(Pannu v Iolab Corp., 155 F.3d 1344, 1351 (Fed. Cir. 1998))で明示された「Pannu factors」として知られている3つの要件を満たしている必要があると言及しています。
しかし、ガイダンスは、「AI支援発明における自然人の貢献が重要であるかどうかの判断は困難な場合があり、明確なテストは存在しない(”Determining whether a natural person’s contribution in AI-assisted inventions is significant may be difficult to ascertain, and there is no bright-line test.”)」とも述べています。
そこで、ガイダンスは、出願人及びUSPTO審査官が適切な発明者であるか否かを判断する際の助けとなるよう、AI支援発明におけるPannu factorsの適用に役立つ原則の非網羅的なリストを以下のとおり示しています(日本語は仮訳)。
1. A natural person’s use of an AI system in creating an AI-assisted invention does not negate the person’s contributions as an inventor. The natural person can be listed as the inventor or joint inventor if the natural person contributes significantly to the AI-assisted invention. 自然人がAI支援発明の創作にAIシステムを利用しても、発明者としての貢献が否定されるわけではない。自然人がAI支援発明に大きく貢献した場合、自然人を発明者または共同発明者として記載することができる。
2. Merely recognizing a problem or having a general goal or research plan to pursue does not rise to the level of conception. A natural person who only presents a problem to an AI system may not be a proper inventor or joint inventor of an invention identified from the output of the AI system. However, a significant contribution could be shown by the way the person constructs the prompt in view of a specific problem to elicit a particular solution from the AI system. 問題を認識したり、追求すべき一般的な目標や研究計画を持つだけでは、着想のレベルには達しない。 AIシステムに問題を提示しただけの自然人は、AIシステムの出力から特定される発明の適切な発明者または共同発明者ではないかもしれない。しかし、AIシステムから特定の解決策を引き出すために、その人が特定の問題を考慮してプロンプトを構成する方法によって、重要な貢献が示される可能性はある。
3. Reducing an invention to practice alone is not a significant contribution that rises to the level of inventorship. Therefore, a natural person who merely recognizes and appreciates the output of an AI system as an invention, particularly when the properties and utility of the output are apparent to those of ordinary skill, is not necessarily an inventor. However, a person who takes the output of an AI system and makes a significant contribution to the output to create an invention may be a proper inventor. Alternatively, in certain situations, a person who conducts a successful experiment using the AI system’s output could demonstrate that the person provided a significant contribution to the invention even if that person is unable to establish conception until the invention has been reduced to practice. 発明を実施に移すだけでは、発明者であることを示すほどの重要な貢献にはならない。 したがって、AIシステムの出力を発明として認識・評価するだけの自然人は、特に、その出力の特性や有用性が当業者にとって明らかである場合には、必ずしも発明者ではない。 しかし、AIシステムの出力を利用し、その出力に多大な貢献をして発明を創出した者は、適切な発明者となり得る。あるいは、特定の状況においては、AIシステムの出力を用いて実験を成功させた者は、発明が実施に移されるまでその者が着想を立証できなくても、その発明に対して多大な貢献をしたことを証明することができる。
4. A natural person who develops an essential building block from which the claimed invention is derived may be considered to have provided a significant contribution to the conception of the claimed invention even though the person was not present for or a participant in each activity that led to the conception of the claimed invention. In some situations, the natural person(s) who designs, builds, or trains an AI system in view of a specific problem to elicit a particular solution could be an inventor, where the designing, building, or training of the AI system is a significant contribution to the invention created with the AI system. クレイムされた発明が導かれる重要な構成要素を開発した自然人は、クレイムされた発明の着想に至った各活動に立ち会ったり、参加したりしなかったとしても、クレイムされた発明の着想に重要な貢献をしたとみなされる場合がある。 状況によっては、特定の解決策を引き出すための特定の問題を考慮してAIシステムを設計、構築、または訓練する自然人が発明者になる可能性があり、その場合、AIシステムの設計、構築、または訓練は、AIシステムを用いて創出された発明に対する重要な貢献となる。
5. Maintaining “intellectual domination” over an AI system does not, on its own, make a person an inventor of any inventions created through the use of the AI system. Therefore, a person simply owning or overseeing an AI system that is used in the creation of an invention, without providing a significant contribution to the conception of the invention, does not make that person an inventor. AIシステムに対する「知的支配力」を維持することは、それ自体で、そのAIシステムを使用して創作された発明の発明者になるわけではない。 したがって、発明の着想に多大な貢献をすることなく、単に発明の創造に使用されるAIシステムを所有または監督しているだけでは、その者を発明者とすることはできない。
2.仮想事例
USPTOは、このガイダンスの公表とともに、審査官や出願人の理解をさらに助けるために、ガイダンスがどのように適用されるかの仮想事例を掲載しています。
その仮想事例のひとつとして、Developing a Therapeutic Compound for Treating Cancer (Example 2)が示されています。
これは、医薬品分野においてAI活用により創作される方法発明や化合物発明の発明者の認定において参考になると思われます。
大発明の発明者になって、有名になって、チヤホヤされたい人生だったよ
いつも私がピポ先輩のことヨイショしてるじゃないですか~
・・・
コメント