中外製薬のプレスリリース
2023年7月14日の中外製薬のプレスリリース(米国における特許権侵害訴訟の提起について)によると、
中外製薬(CHUGAI PHARMACEUTICAL CO., LTD.)、ロシュ社(HOFFMANN-LA
ROCHE, INC.)およびジェネンテック社(GENENTECH, INC.)(以下、まとめて「中外ら」という。)は、
米国においてアクテムラ® (Actemra®)(一般名: トシリズマブ (tocilizumab))に対するバイオ後続品の簡略生物製剤承認申請(abbreviated biologics license application (aBLA))を行ったBiogen MA Inc.ならびに当該バイオ後続品の開発等を行う Bio-Thera Solutions, Ltd.に対して、
当該承認申請にかかるバイオ後続品が、中外らが米国で保有する特許権を侵害しているとして、
米国生物製剤価格競争・革新法(Biologics Price Competition and Innovation Act:BPCIA)に基づく特許権侵害の確認を求める訴訟(いわゆるBPCIA訴訟)を米国マサチューセッツ州連邦地方裁判所に提起した
とのことです。
今後の見通しとしては、現時点で中外製薬の業績に及ぼす影響はないと伝えています。
アクテムラ®とは
アクテムラ®の有効成分であるトシリズマブは、日本で開発された IgG1サブクラスのヒト化抗ヒトインターロイキン6(IL-6)レセプターモノクローナル抗体です。遺伝子組換え技術により、可変領域の中でも特に抗原との親和性が高い相補性決定領域(CDR)をマウス型ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体とし、その他の部分をヒトIgG1としてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いて創製されました(アクテムラ® 医薬品インタビューフォームより)。
アクテムラ®は、日本発のグローバルな抗体医薬品で、世界初のIL-6阻害剤です。研究開発プロセスでは大阪大学をはじめとする大学、研究機関との共同研究が重要な役割を果たし、日本で最も早く臨床研究が進み上市されたこと等が、研究開発の特徴として挙げられます(革新的な医薬の探索開発過程の事例研究 : アクテムラ(一橋大学イノベーション研究センター(2014年10月))。
岸本忠三氏がリードしたIL-6の基礎研究とともに産学連携の成功例としても語られる医薬品として有名だな
アクテムラ®は、関節リウマチ等の治療薬として承認を受け(米国では2010年1月8日)、販売されており、2022年における全世界の売上は2,701mCHF(内USは1,196mCHF=約2000億円)です(Roche’s Full-Year 2022 Presentation with appendix)。
アクテムラ®のバイオシミラーの状況
2023年2月2日に開催された中外製薬の2022年12月期決算説明会にて、アクテムラ®のバイオシミラーの開発が進んでいるという情報を持っているか質問された奥田社長は、以下のように回答していました。
Fresenius Kabi社とは、アクテムラの特許に関して、和解契約を締結しております。守秘義務の関係がございますので、アクテムラのバイオシミラー、上市がいつされるかということは回答できません。
・・・
そしてもう一社進んでおりますのが、Biogen、バイオセラですね、バイオセラは中国の会社でございまして、中国国内ではバイオセラ社が2023年の1月16日、つい先日ですが、IV製剤の承認を取得という情報が出てきております。
Biogenが中国以外の権利を持っておりまして、2022年の9月30日にEMAからIV製剤に関する申請受理をした、12月9日にはFDAから申請受理をしたということが公表されています。
上市時期につきましては不明でございます。ただ2023年に上市したとしても、2023年のアクテムラの欧米売上に対する影響は限定的だと考えております。
想定の範囲内ということかな
訴訟の対象となる特許とは
訴訟の対象となる特許には、IV(静脈内注射)製剤に関連する用途特許ならびにトシリズマブ (tocilizumab) の製造方法に関する特許が含まれるとのことです。
Purple Book(パープルブック)には、アクテムラ® (Actemra®) のIV製剤(BLA number: 125276)について、以下の特許リストが現在掲載されています。
リストの特許は30件を超えてるな
報道等によれば、本件(Genentech, Inc. v. Biogen MA Inc., 1:23-cv-11573, (D. Mass.))の対象となっている米国特許は、7,332,289; 7,521,052; 8,398,980; 8,512,983; 8,574,869; 8,734,800; 9,714,293; 9,902,777; 10,017,732; 10,336,983; 10,501,769; 10,662,237; 10,676,710; 10,744,201; 10,829,732; 10,982,003; 11,021,728; 11,078,294; 11,136,610; 11,377,678(計20の特許)のようです。
例えば、米国特許7,332,289のクレーム1は以下のような内容です。
1) applying the antibody-containing sample to affinity chromatography on Protein A or Protein G;
2) eluting the antibody with an acidic aqueous solution of low conductivity having a molarity of 100 mM or less;
3) neutralizing the eluate from step (2) to form particles by addition of a buffer to raise the pH to 4 to 8, wherein the molarity of the neutralized eluate is 100 mM or less; and
4) removing the particles to thereby remove contaminant DNA from the antibody-containing sample.
また、米国特許7,521,052のクレーム1は以下のような内容です。
訴訟の対象特許は20件か。見守ろう・・・
ピポ先輩なら、20件くらいチョチョイのチョイですよね!
・・・
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