スポンサーリンク

不正競争防止法等の一部を改正する法律案が国会で可決成立 - 裁定関係書類の閲覧制限についての改正 -

2023年6月7日、不正競争防止法等の一部を改正する法律案が国会で可決成立しました。

「知的財産の適切な保護及び知的財産制度の利便性の向上並びに国内外における事業者間の公正な競争の確保を図るため、他人の商品の形態の模倣となる対象行為の拡充及び商標権者の同意に基づく類似する商標の登録制度の創設を行うとともに、意匠の新規性喪失の例外の適用に係る証明手続の簡素化及び特許等の国際出願に係る優先権主張の手続の電子化を行うほか、外国公務員贈賄罪の罰金額の上限の引上げ等の措置を講ずる必要がある。」(内閣法制局HPより

これが、この法律案を提出した主な理由ですが、この法律案の中には、特許法等において、裁定手続における営業秘密を含む書類の閲覧制限を可能とする改正も含まれており、同法律案の国会での可決成立をもって、裁定関係書類の閲覧制限についての改正も行われることとなりました。

この法律は、一部の規定を除き、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとなりますが、特許庁の「方式審査便覧」改訂案に対する意見募集のお知らせによると、裁定関係書類の閲覧制限を可能とする改正部分については、令和5(2023)年7月1日の施行を予定しているようです。

本記事では、裁定関係書類の閲覧制限についての法改正の経緯を振り返ります。

スポンサーリンク

1.裁定関係書類の閲覧制限についての法改正の経緯

裁定制度とは、一定の要件が満たされた場合に、特許庁長官又は経済産業大臣の裁定によって、他人の特許発明等を、その特許権者等の同意を得ることなく、あるいは意に反して、第三者が実施する権利(強制実施権)を設定することができる制度です。我が国では、特許法、実用新案法及び意匠法において、以下の 3 つの場合の裁定を規定しています。

(1)不実施の場合の通常実施権の設定の裁定
(2)利用関係の場合の通常実施権の設定の裁定
(3)公共の利益のための通常実施権の設定の裁定

裁定の手続においては、特許発明等の実施事実・計画の立証及び反証のために、営業秘密を含む企業情報や技術情報が記載された書類の提出が必要となり得ますが、営業秘密は、公にされることにより企業の保護すべき利益を損なうおそれがあります。

しかし、現行制度では、裁定手続に係る書類に営業秘密等が記載されていても、閲覧等を制限することができないため、営業秘密の漏えいの懸念から、裁定請求人や特許権者等が立証及び反証のために必要な書類の提出を控え、結果として適切な裁定判断ができないおそれがありました。

産業構造審議会知的財産分科会 第48回特許制度小委員会(令和4年11月21日)配布資料 資料1より

そこで、無効審判・判定の書類であって営業秘密を含むものが現行法の閲覧制限対象であることも考えると、営業秘密を含む裁定関係書類を閲覧制限対象とすることは許容されることから、特許法、実用新案法および意匠法について、一定の場合に特許権者の意思によらず他者に実施権を認める裁定手続において、提出書類に営業秘密が記載された場合に閲覧制限を可能とするように法改正がされることとなりました。

これまでの法改正議論の経緯:

裁定関係書類の閲覧制限についての改正法律案(特許法の一部抜粋):

不正競争防止法等の一部を改正する法律案(一部抜粋)

(特許法の一部改正)

第百八十六条第一項中第六号を第七号とし、第三号から第五号までを一号ずつ繰り下げ、第二号の次に次の一号を加える。

(証明等の請求)
第百八十六条 何人も、特許庁長官に対し、特許に関し、証明、書類の謄本若しくは抄本の交付、書類の閲覧若しくは謄写又は特許原簿のうち磁気テープをもつて調製した部分に記録されている事項を記載した書類の交付を請求することができる。ただし、次に掲げる書類については、特許庁長官が秘密を保持する必要があると認めるときは、この限りでない。

(略)

三 裁定に係る書類であつて、当事者、当事者以外の者であつてその特許に関し登録した権利を有するもの又は第八十四条の二の規定により意見を述べた通常実施権者からこれらの者の保有する営業秘密が記載された旨の申出があつたもの

(略)

スポンサーリンク

2.裁定関係書類の閲覧制限についての法改正の経緯(個別の事情)

裁定の請求は稀ですが、2021年7月13日、理研・ヘリオス・大阪大学の「網膜色素上皮細胞の製造方法」特許に公共の利益のための通常実施権の設定を求めてビジョンケアが裁定を請求(裁定請求2021-1)したこと(2021.10.03記事参照)により、2021年12月2日に工業所有権審議会 発明実施部会が開催され、審理されることとなりました(2021.12.17記事参照)。

その発明実施部会は現時点で15回も開催されています。

過去にあった裁定請求の事例はいずれも取り下げ又は却下されたようで、今回、裁定の判断に至れば初のケースになるといわれています。

もし、今回の法改正を待たずに裁定に至っていたら、裁定手続に係る書類に営業秘密等が記載されていても、閲覧等を制限することができないため、営業秘密の漏えいの懸念がありました。

裁定請求されてからもう2年が経とうとしています。

発明実施部会の審理が長引いて、未だに裁定に至っていない理由も、この法改正を待っていたと想像されます。

この改正法が施行されれば、同裁定請求事件に対しても適用されると思われ、施行された後、それほど待たずに裁定に至る(結果が公開される)のではないかないかと期待されます。

参考:

理研・ヘリオス・大阪大学の「網膜色素上皮細胞の製造方法」特許に公共の利益のための通常実施権の設定を求めてビジョンケアが裁定を請求・・・iPS細胞を用いた世界初の臨床応用からなかなか進まないヘリオス・大日本住友による加齢黄斑変性に対する再生医療の治験
1.はじめに 理研・ヘリオス・大阪大学が特許権者である発明の名称を「網膜色素上皮細胞の製造方法」とする特許第6518878号に係る特許権を含む網膜色素上皮細胞を用いた再生医療についての独占ライセンス契約が理研-ヘリオス-大日本住友製薬の間で締結されているという状況のもと、2021年7月13日に、第三者であるビジョンケアらが、同特許権について公共の利益のための通常実施権の許諾を求める裁定の請求を行い...
公共の利益のための通常実施権の許諾を求める裁定の請求2021-1 工業所有権審議会 発明実施部会(第1回)が開催
2021年12月2日、工業所有権審議会 発明実施部会(第1回)が開催されたとのことです。議事録や議事要旨については非公開となります。裁定請求2021-1については第2回以降も引き続き議論することになったとのことです。 裁定請求2021-1については、過去記事「理研・ヘリオス・大阪大学の「網膜色素上皮細胞の製造方法」特許に公共の利益のための通常実施権の設定を求めてビジョンケアが裁定を請求・・・iPS...

コメント

  1. Fubuki Fubuki より:

    不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年6月14日法律第51号)
    令和5年3月10日に閣議決定された、「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」は令和5年6月7日に可決・成立し、6月14日に法律第51号として公布されました。
    https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/hokaisei/sangyozaisan/fuseikyousou_2306.html

  2. Fubuki Fubuki より:

    2023.06.27 経済産業省: 「不正競争防止法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」が閣議決定されました
    https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230627003/20230627003.html

    2023年6月27日、第211回通常国会において成立した「不正競争防止法等の一部を改正する法律」の一部の施行期日を定める政令が閣議決定されました。附則第1条第1号において定める施行期日は、令和5年7月3日となります。

    裁定手続で提出される書類に営業秘密が記載された場合に閲覧制限を可能にします。【特許法・実用新案法・意匠法】(施行期日:令和5年7月3日)

  3. Fubuki Fubuki より:

    2023.06.30 特許庁: 不正競争防止法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(令和5年6月30日政令第230号)
    https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/seireikaisei/sangyozaisan/230630_fuseikyosho-boshi.html
    2023年6月30日、「不正競争防止法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」が公布されました。本政令は、不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年法律第51号)の一部の施行に伴い、裁定における営業秘密関係書類の閲覧制限、国際郵便引受停止等に伴う公示送達の見直しの施行期日を定めるものです。

    本政令により、当該施行期日を令和5年7月3日と定めます。

    閣議決定日 令和5年6月27日(火曜日)
    公布日 令和5年6月30日(金曜日)

    2023.06.30 特許庁: 特許法施行規則の一部を改正する省令(令和5年6月30日経済産業省令第137号)
    https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/syoreikaisei/tokkyo/tokkyohou_20230630.html
    「不正競争防止法等の一部を改正する法律」の一部の施行に伴い、裁定に係る書類を提出した者が、当該書類に営業秘密が記載された旨を申し出るための具体的な様式を規定するため、特許法施行規則第44条の2を新設し、営業秘密に関する申出の様式として様式第60の2を追加する等、所要の改正を行うものです。

    公布:令和5年6月30日
    施行:令和5年7月3日

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました