2023年5月19日から21日までの3日間、広島で「G7広島サミット」が開催されました。
G7広島サミット公式 HP URL: https://www.g7hiroshima.go.jp/
やはり、核兵器のない世界という目標に向けた軍縮・不拡散の取組を強化する協議や、ロシアの違法な侵略戦争に直面する中でのウクライナ情勢の問題についての議論が大きなニュースではありますが、その成果文書である「G7広島首脳コミュニケ(G7 Hiroshima Leaders’ Communiqué)」(原文/仮訳)によると、G7は、COVID-19のパンデミックが国際社会に前例のない影響を与えたことを認識し、将来の公衆衛生上の緊急事態に備えるため、世界保健機関(WHO)を中心にグローバルヘルス・アーキテクチャー(GHA)を発展させ、強化することへのコミットメントを新たにすることも表明しています。
グローバルヘルス分野については、成果として、具体的にどのようなコミットメントが表明されたのでしょうか?
具体的なコミットメントを以下に要約しました。
- パンデミックへの対応に関する新たな法的文書(WHO CA+)や国際保健規則(IHR)の部分改正、パンデミックの予防・備え・対応(PPR)に関する国連総会ハイレベル会合など、進行中の議論に留意しつつ、保健分野の緊急事態のための協調的で持続的な首脳級のガバナンスを確保する。
- WHOの主導的な役割を強調しつつ、持続的に資金を確保し、国際保健のための連携を強化するため、パンデミック基金(PF)の立ち上げやG20財務・保健合同タスクフォース(JFHTF)の活動を支援する。
- 国際規範と規則を強化し、公平性を指針として、パンデミックへの備えや保健上の脅威に関するデータの共有を透明かつ安全に行い、保健医療人材の強化や市民社会の役割を重視する。
- 危機管理のための強力な保健医療人材を確保し、脆弱な人々に支援を提供し、健康な未来のために協力するため、専門家のグローバルネットワークや研修の強化、労働条件の改善、医療従事者の保護などに取り組む。
WHO CA+(パンデミック条約)については、以前、記事「パンデミックの予防、準備、対応に関するWHO条約、協定、その他の国際文書「WHO CA+」の合意に向けた政府間交渉の基礎となるゼロ ドラフト」で紹介しましたね。
また、2030年までにユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成し、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3に向けた進展を加速することが重要であるとも強調されています。具体的には・・・
あ、ちょっと補足いーすか。「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」とは、すべての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態を指しますね。
- 2025年までにパンデミック前の水準を超える保健サービスの提供を改善し、各国がUHCを達成できるように、プライマリ・ヘルスケア(PHC)の支援や必須の保健サービスの発展を通じて、グローバルなパートナーと協力する。
- 医療費による貧困の予防や国際機関の支援、研究の推進、感染症や非感染性疾患などの保健課題への対応、グローバルヘルスのガバナンスの強化なども重要視する。
- 国内外からの資金貢献や民間セクターの参加を促進し、持続可能な資金調達のための取り組みを強調しています。
そして、以下のとおり、研究開発の強化・加速についてのコミットメントも表明されました。
- デジタルヘルスを含む革新的な取り組みは、グローバルヘルスアクションと普遍的健康保険の達成に鍵となることを再確認する。
- 安全かつ有効で品質が保証され、負担可能な感染症危機対応医薬品(MCM)の研究開発を強化し、公平なアクセスを促進することにコミットする。
- WHO、世界銀行、UNICEF、グローバルファンドなどの関連パートナーと協力し、MCMの製造多様化と最も脆弱なパートナーのニーズに対処する。
- MCMへの公平なアクセスとデリバリーに貢献するためのデリバリーパートナーシップを立ち上げる。
- 薬剤耐性(AMR)に対処するために抗菌薬の研究開発を加速し、適切な使用を促進する。
- 認知症ケアの政策と資金投入を推進し、認知症治療薬の開発を歓迎する。
薬剤耐性(AMR)については、先日、欧州委員会が、優先抗菌薬に対する譲渡可能な保護期間のバウチャー導入案も取り入れた規則改革案を発表した話題を記事「EUにおける医薬品関連規則の抜本的改革案 - 医薬品の薬事規制上のデータ保護(RDP)の改革はイノベーションのための効果的なインセンティブとなるか -」で紹介しましたね。
関連文書である「感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスのためのG7広島ビジョン」や、G7長崎保健大臣会合での「G7長崎保健大臣宣言」には、これら事項について、より詳細に記述されています。特に、「G7長崎保健大臣宣言」の項目「Ⅲ.様々な健康課題に対応するためのヘルス・イノベーションの促進」)には、イノベーションの重要性が強調されています。
G7でのコミットメントには、グローバルヘルスに関連して「知的財産」という表現こそありませんでしたが、将来の公衆衛生上の緊急事態に備えるため、しっかりと研究開発を強化、加速していくことやイノベーションを促進することについてもコミットメントがありました。今後、国際的な協議と議論をG7が正しい方向にリード、実行していくことを期待します。
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