1.LEQEMBI(レカネマブ)をFDAが迅速承認
2023年1月6日、米国食品医薬品局(FDA)は、可溶性(プロトフィブリル)および不溶性アミロイドβ(Aβ)凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体レカネマブ(lecanemab-irmb、米国ブランド名:LEQEMBITM 注射100mg/mL溶液、以下「LEQEMBI」)を、アルツハイマー病の治療薬として、迅速承認しました。
エーザイおよびBiogen社のプレスリリースによると、LEQEMBIは2023年1月23日の週までに新発売する予定で、フル承認に向けた生物製剤承認一部変更申請(Supplemental Biologics License Application(sBLA))をFDAに対して速やかに行うとのことです。
参考:
- 2023.01.07 エーザイおよびBiogen社 press release: LEQEMBITM(レカネマブ)、アルツハイマー病に対する治療薬として米国FDAより迅速承認を取得; FDA Approves LEQEMBITM (lecanemab-irmb) Under the Accelerated Approval Pathway for the Treatment of Alzheimer’s Disease
- Label for BLA 761269
- Letter for BLA 761269
- Summary Review for BLA 761269
2.レカネマブに関する独占的ライセンス契約
レカネマブの開発、薬事申請はエーザイがグローバルに主導しており、エーザイの最終意思決定権のもとでBiogen社と共同開発を行っています。両社は、レカネマブに関する経済的権利及び義務を等しく有し、エーザイは全売上を計上し、損益は両社で折半します。また、バイオジェンは、スイスのソロトゥルンの工場でレカネマブの原薬を製造し、全世界に安定供給します。
レカネマブ(開発品コード「BAN2401」)の起源は、ウプサラ大学(Uppsala University)教授のランフェルト氏(Professor Lars Lannfelt)のアルツハイマー病に関する研究成果の産業応用を目指して設立されたスウェーデンのバイオベンチャー企業バイオアークティック・ニューロサイエンス社(現BioArctic社)とエーザイとの間で、アルツハイマー病の創薬研究に関する契約が締結された2005年にまで遡ります。
その後、エーザイは、2007年12月3日、レカネマブ(BAN2401)の全世界におけるアルツハイマー病を対象とした研究・開発、製造・販売に関する独占的ライセンス契約をBioArctic社と締結しました。
契約期間は、契約締結日より国ごとに販売開始後15年が経過する日まで、対価として契約一時金他一定料率のロイヤルティが定められています。
参考:
- 2022.03.15 エーザイ press release: バイオジェンとエーザイはアルツハイマー病治療薬の提携契約を変更
- 2023.01.07 BioArctic press release: BioArctic’s partner Eisai submits supplemental Biologics License Application to FDA for traditional approval of LEQEMBITM (lecanemab-irmb) for the treatment of Alzheimer’s disease
- 2007.12.04 エーザイ press release: アルツハイマー病の原因因子に対する新規モノクローナル抗体 BAN2401のライセンス契約をバイオアークティック社と締結
- 2007.12.05 BioArctic press release: BioArctic Neuroscience and Eisai Enter Into Licensing Agreement
- エーザイ110期(2022年3月期)有価証券報告書
3.BioArctic社のレカネマブを保護する特許権
BioArctic社のAnnual report 2021(2022.04.11)によると、レカネマブ(BAN2401)をスペシフィックに保護する物質特許権の満了は、2027年3月または存続期間延長によりさらに5年間を取得できる国では2032年を想定している旨が記されています。
“The patent protection for BioArctic’s most advanced drug candidate – lecanemab, for the treatment of early Alzheimer’s disease – runs through 2032, including patent term extensions in territories where they are available.”
“Alzheimer’s disease – compound 1 Specific protection for lecanemab … Granted: The US, Canada, Europe, Japan, China as well as other … Protection until: March 2027/2032…Assuming a five-year patent extension is granted where available.”
そのレカネマブ(BAN2401)をスペシフィックに保護する特許権とは、2007年3月23日に特許出願(国際出願番号: PCT/SE2007/000292; 国際公開番号: WO2007/108756)されたファミリーに係る特許権と考えられます。
2027年3月が20年の特許権存続期間満了日(2007年3月が出願日)となるBioArctic社またはランフェルト氏が出願人/発明者の特許(出願)はこの1ファミリーだけであること(Espacenet調べ)、同特許出願明細書(FIG.14)には抗体名としてレカネマブの開発品コードである”BAN2401″との記載があることから、このファミリーに係る特許権が上述のレカネマブ(BAN2401)をスペシフィックに保護する特許権であると推測できます。
米国では、US8,025,878B2およびUS9,034,334B2として登録されています。
なお、日本では、特許第5033868号として登録されています。
米国では、先発バイオ医薬品については、その承認から12年の間、データ保護期間としてのmarket exclusivityが付与されることから、最長でも2032年まで存続するBioArctic社の前記米国特許の存在に関係なく、今回のLEQEMBI(レカネマブ)のFDA承認となった本年から12年、すなわち2035年までは、market exclusivityのおかげでそのバイオシミラーが米国市場に参入することは無いと考えられます(レカネマブに関連して2035年を超えて存続する特許権が存在するのかどうかは調べておりません)。
4.日本での商品名?
LEQEMBITM(レカネマブ)の承認されたLabel(添付文書)によると、米国ブランド名「LEQEMBI」は、「leh-kem’-bee」と発音するようです。
このブランドネームは、日本語の「健美」に由来するようです。
Leqembi — the brand name, Mr. Cheung said, is based on “qembi” in Japanese, which “roughly translates into beautiful, healthy, elegant” — (Jan. 6, 2023 The New York Timesより)
日本では、エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社を権利者として、以下の商標(指定商品はいずれも第5類 薬剤(農薬に当たるものを除く。))が既に登録されています。
日本でも承認に至った場合には、日本での商品名は「レケンビ」になるのかもしれません。
コメント
2023.07.06 FDA news release: FDA Converts Novel Alzheimer’s Disease Treatment to Traditional Approval
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-converts-novel-alzheimers-disease-treatment-traditional-approval
2023.07.07 エーザイ press release: 「LEQEMBI®」(レカネマブ)、アルツハイマー病治療薬として、米国FDAよりフル承認を取得
https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202349.html
https://www.eisai.co.jp/news/2023/pdf/news202349pdf.pdf
2023.09.25 エーザイ press release: 「レケンビ®点滴静注」(一般名:レカネマブ)について、日本においてアルツハイマー病治療薬として製造販売承認を取得
https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202359.html