経口そう痒症改善剤レミッチ®の後発医薬品(ナルフラフィン塩酸塩OD錠)を製造販売する沢井製薬および扶桑薬品工業に対して、ナルフラフィンの用途発明に係る延長された特許権を侵害していると主張して、東レが提起した訴訟で、知財高裁は、当該後発医薬品の製造販売の差止仮処分命令を発出したようです。
1.東レからのプレスリリース
2022年10月7日の東レのプレスリリースによると、同日、知財高裁から沢井製薬および扶桑薬品工業に対して、経口そう痒症改善剤レミッチ®OD錠の後発医薬品の製造販売差止仮処分命令が発出されたとのことです。
- 2022.10.07 東レ press release: 沢井製薬株式会社および扶桑薬品工業株式会社に対するレミッチ®OD錠後発医薬品の製造販売差止仮処分命令について
本件仮処分手続は、東レが製造販売承認を取得している経口そう痒症改善剤「レミッチ®カプセル2.5µg」および「レミッチ®OD錠2.5µg」(一般名:ナルフラフィン塩酸塩)に関する用途発明に係る特許権(特許第3531170号、延長登録:特願2017-700154号及び特願2017-700310号)に基づき、本剤の後発医薬品である「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『サワイ』」および「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『フソ-』」の製造販売差止を求めたもの(令和4年(ウ)第10097号および令和4年(ウ)第10099号)とのことです。
本件仮処分命令により、沢井製薬および扶桑薬品工業は、上記用途発明に係る特許権の存続期間中の上記後発医薬品の製造販売停止を命じられているとのことです。
- 用途を「血液透析患者、慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」とするものについては、2022年11月16日が経過するまでの間。
- 用途を「透析患者(血液透析患者を除く)におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」とするものについては、2022年11月21日が経過するまでの間。
また、本件仮処分命令に関連して、東レは2018年12月13日に沢井製薬および扶桑薬品工業に対して特許権侵害訴訟を提起しており、現在、同訴訟は知財高裁に係属しているとのことです。
なお、「東レは、既に、ナルフラフィン塩酸塩製剤を必要とされる患者様に確実にお届けできるよう、本剤の在庫により十分賄える体制を整えております。」とのことです。
2.これまでの経緯
東レが同特許権に基づき沢井製薬および扶桑薬品工業に対して提起した特許権侵害訴訟において、東京地裁(民事第47部)は、2021年3月30日、東レの請求をいずれも棄却していました。
その理由は、本件発明の構成要件である「有効成分」という用語の意義を狭く解釈し、沢井製薬および扶桑薬品(被告ら)の後発医薬品は構成要件を充足しないというものでした。
他方、その「有効成分」という用語の意義については、同特許権に係る延長登録出願拒絶審決および延長登録無効審決の取消しを求めて東レが提起した計4つの審決取消訴訟でも争点となり、知財高裁(第2部)は、「有効成分」という用語の意義を東京地裁と同様に狭く解釈した特許庁審決を誤りであるとして、それら審決を全て取り消すという、東レに有利な判決を言渡していました。
詳細は以下の記事参照:
上記特許権侵害訴訟における東京地裁判決を不服として東レが知財高裁に控訴したと報じられ(2021.06.17 日本経済新聞「東レ、知財高裁に控訴 かゆみ改善薬の特許侵害として」)、延長登録要件の判断ではあるものの「有効成分」の意義を狭く解釈した特許庁審決の判断を否定して審決を取消した知財高裁が、特許権侵害訴訟において「有効成分」の意義を狭く解釈して属否判断をした東京地裁判決をどのように判断するのか、その判決が待たれていました。
今回、差止仮処分命令が発出されたことから、知財高裁は、最終判断ではないとはいえ、沢井製薬および扶桑薬品工業の後発医薬品の製造販売行為が東レの特許権を侵害していると判断していると考えられます。
もし、審決取消判決と同様に知財高裁が「有効成分」の意義を柔軟に解釈し、被告ら行為を侵害と認めた場合、用途発明に係る延長された特許権の効力はどのように判断した(する)のかは、将来起こり得る延長特許権の効力を巡る事件における判断にも重大な影響を与えることになると考えられることから、たいへん大きな関心事となります。
コメント
差止仮処分の判決より1月ほど後に延長分含め特許満了となったようですが,
結局差止はなされたのでしょうか.
もしご存じでしたらお教えください.
沢井製薬と扶桑薬品工業がナルフラフィン塩酸塩OD錠の製造販売を停止したのかどうかは、現在の各社ホームページ上の公開情報を見る限り、不明ですね・・・。