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モデルナがファイザー/バイオンテックを提訴 COVID-19ワクチン(Comirnaty®)がmRNAを細胞に送達するための脂質ナノ粒子(LNP)の基盤技術に関するモデルナの特許権を侵害と主張

Summary
  • モデルナ社は、ファイザー社とバイオンテック社のCOVID-19ワクチン「Comirnaty®」がモデルナ社の特許権を侵害していると主張して、2022年3月8日以降の損害賠償を求め米国とドイツで訴訟を提起したと発表した。
  • 対象となっている特許権は、モデルナ社のmRNA COVID-19ワクチン「Spikevax®」の開発にも不可欠だったという、mRNAを細胞に送達するための脂質ナノ粒子(LNP)の基盤技術に関して2010年から2016年にかけてモデルナ社が出願したもの。
  • モデルナ社は、Comirnaty®の市場からの撤収、将来の販売差し止めを求めていない。
  • モデルナ社は、GAVI COVAX Advance Market Commitment(AMC)の低・中所得国92カ国でのComirnaty®の販売について損害賠償を求めるつもりはない。
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1.モデルナ社のプレスリリース

2022年8月26日、モデルナ(Moderna)社は、ファイザー(Pfizer)社とバイオンテック(BioNTech)社のmRNA COVID-19ワクチン「Comirnaty®(コミナティ®)」が、モデルナ社のmRNA COVID-19ワクチン「Spikevax®(スパイクバックス®)」の開発にも不可欠だったという基盤技術に関するモデルナ社の特許権を侵害していると主張して、ファイザー社とバイオンテック社に対して、米国マサチューセッツ地区連邦地方裁判所とドイツデュッセルドルフ地域裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したことを発表しました。

モデルナ社は、Comirnaty®(コミナティ®)の市場からの撤収は求めておらず、将来の販売を阻止する差止命令も要求していません。

2020年10月8日、モデルナ社は、パンデミックが続く間、COVID-19の特許権を行使しないことを宣言しましたが(STATEMENT BY MODERNA ON INTELLECTUAL PROPERTY MATTERS DURING THE COVID-19 PANDEMIC)、2022年3月7日、世界の多くの地域でワクチンの供給がアクセスへの障害ではなくなったことからその宣言をアップデートしました。

アップデートされた宣言では、モデルナ社は、GAVI COVAX Advance Market Commitment(AMC)の92の低・中所得国で使用されるCOVID-19ワクチンについては特許権を行使しないとしながらも、それ以外の国では、COVID-19ワクチンに関するモデルナ社の技術を使用する者に対して、知的財産を尊重することを期待し、商業的に合理的な条件でライセンスする意思があり、これにより、新しいワクチンの開発、次のパンデミックへの備え、その他アンメットメディカルニーズの差し迫った分野に対応するための研究への投資を継続することができると述べています。

モデルナ社の発表によれば、この宣言に従い、モデルナ社は、今回提起された訴訟においてファイザー社のAMC92諸国への販売に関する損害賠償を要求しておらず、また、2022年3月8日より前の活動に対する損害賠償も請求していません。また、米国政府が損害賠償の責任を負うことになるファイザー社の販売に関する損害賠償も要求していないとのことです。

なお、モデルナ社が行使を求めている特許権はいずれも、モデルナ社が米国立衛生研究所(NIH)と協力した際に生まれた知的財産に関連するものではないと述べています。

モデルナ社 COVID-19ワクチンのmRNA配列に関する米国特許出願 NIHとの協議のため一旦放棄
モデルナ社が行ったCOVID-19ワクチンのmRNA配列に関する米国特許出願について、モデルナ社と米国国立衛生研究所(NIH)との間で共同発明者を巡り主張が対立していた問題(参考記事: モデルナ社 COVID-19ワクチンのmRNA配列 NIHの科学者が共同発明者であるとの主張を受け入れず、モデルナ社の科学者だけが発明者である旨を表明)で、2021年12月17日、モデルナ社は、現在の状況下でmRN...
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2.モデルナ社の特許

モデルナ社の発表によると、COVID-19が最初に発見される何年も前、中東呼吸器症候群(MERS)の原因となるコロナウイルス用のワクチンを作ったときにモデルナ社の科学者が開発したアプローチを、ファイザー社とバイオンテック社が真似したのだと述べています。


引用: Ulrich Storz, Nature Biotechnology volume 40, pages1001–1004 (2022): The COVID-19 vaccine patent race Fig.1


米国マサチューセッツ地区連邦地方裁判所で提起された訴訟(Case 1:22-cv-11378)で主張されているモデルナ社の米国特許は、2010年~2016年の間に出願された10,898,574(’574特許)、10,702,600(’600特許)及び10,933,127(’127特許)です。

いずれも、mRNAを細胞に送達するための脂質ナノ粒子(LNP)に関する発明をクレームしています。

US10,898,574(’574特許)のクレーム

1. A method of producing a polypeptide of interest in a cell in a subject in need thereof, comprising administering to the subject a pharmaceutical composition comprising a modified messenger RNA (mmRNA) such that the mmRNA is introduced into the cell, wherein the mmRNA comprises a translatable region encoding the polypeptide of interest and comprises the modified nucleoside 1-methyl-pseudouridine, and wherein the pharmaceutical composition comprises an effective amount of the mmRNA providing for increased polypeptide production and substantially reduced innate immune response in the cell, as compared to a composition comprising a corresponding unmodified mRNA.

2. A pharmaceutical composition comprising:
a plurality of lipid nanoparticles comprising a cationic lipid, a sterol, and a PEG-lipid,
wherein the lipid nanoparticles comprise an mRNA encoding a polypeptide, wherein the mRNA comprises one or more uridines, one or more cytidines, one or more adenosines, and one or more guanosines and wherein substantially all uridines are modified uridines.

US10,702,600(’600特許)のクレーム

1. A composition, comprising: a messenger ribonucleic acid (mRNA) comprising an open reading frame encoding a betacoronavirus (BetaCoV) S protein or S protein subunit formulated in a lipid nanoparticle.

US10,933,127(’127特許)のクレーム

1. A method comprising administering to a subject a messenger ribonucleic acid (mRNA) comprising an open reading frame encoding a betacoronavirus (BetaCoV) S protein or S protein subunit formulated in a lipid nanoparticle in an effective amount to induce in the subject an immune response to the BetaCoV S protein or S protein subunit, wherein the lipid nanoparticle comprises 20-60 mol % ionizable cationic lipid, 5-25 mol % neutral lipid, 25-55 mol % cholesterol, and 0.5-15 mol % PEG-modified lipid.

また、以下は、モデルナ社がそのホームページ上(https://www.modernatx.com/patents)で公開しているSpikevax® (mRNA-1273 COVID-19 VACCINE)に関する特許リストです(2022年8月27時点)。

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3.ファイザー社/バイオンテック社のCOVID-19ワクチン「Comirnaty®」

コロナウイルスは4つの構造タンパク質をコードするプラス鎖一本鎖のRNAをウイルスゲノムとして有するエンベロープウイルスです。これらの4つの構造タンパク質のうち、ヒト細胞表面に存在するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)レセプターと結合するスパイク糖タンパク質(Sタンパク質)がワクチン開発の重要な標的となります。

引用: 神奈川県HP URL: https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/about/vaccination.html

Comirnaty®(コミナティ®)は、コロナワクチンに属するSARS-CoV-2のSタンパク質をコードするmRNAを有効成分とするワクチンです。

コードされたSタンパク質を持続的かつ効率的に翻訳するためにmRNAの塩基配列が最適化され、また、生体内でのRNA分解を抑制してmRNAの細胞内へのトランスフェクションを可能とするため、そのmRNAは脂質ナノ粒子(LNP)に封入されています。

SARS-CoV-2 による感染症の予防を目的として、バイオンテック社及びファイザー社によって開発されました。

SARS-CoV-2のSタンパク質をコードするmRNAを脂質ナノ粒子(LNP)に封入したワクチンとして、バイオンテック社/ファイザー社のComirnaty®(コミナティ®)と、バイオンテック社のSpikevax®(スパイクバックス®)は共通しています。

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4.mRNAワクチンを取り巻く特許の藪

SARS-CoV-2のSタンパク質をコードするmRNAを脂質ナノ粒子(LNP)に封入したCOVID-19ワクチンに関連する技術に係る特許権を保有するプレーヤーは多岐にわたり、互いにライセンス関係を築いている場合と今回のニュースのように緊張関係にあるものなど、複雑に絡み合っています。

引用: Nature Biotechnology volume 39, pages546–548 (2021), Fig.1

第一線で画期的COVID-19ワクチンの開発を推進し、世の中に送り出してくれたモデルナ社とファイザー社/バイオンテック社に感謝。ポストコロナとなりつつある今、今回のニュースは、プレーヤーどうしのイノベーション創出のための協業フェーズから、ライバル間のビジネス折衝フェーズへ移ったことがわかる大きな動きだね。

参考:

コメント

  1. Fubuki Fubuki より:

    ファイザー社/バイオンテック社(Pfizer/BioNTech)と、モデルナ社(Morderna)との間で起きているmRNAワクチン技術に関する特許係争のうち、欧州特許に進展あり・・・

  2. Fubuki Fubuki より:

    2024.04.12 ファイザーは、モデルナのCOVID-19特許訴訟(ModernaTX Inc v. Pfizer Inc, U.S. District Court for the District of Massachusetts, 1:22-cv-11378)で一時停止を勝ち取りました。ファイザーとBioNTechがモデルナのワクチン技術をコピーしたと主張する訴訟は、米国特許商標庁が審査中のモデルナの特許のうち2つの有効性を判断するまで保留されます。米国特許商標庁での決定がこの特許権侵害訴訟の審理を簡素化すると判断されたようです。
    モデナは昨年、同社のワクチンSpikevaxで67億ドルの売上を上げ、ファイザーは同社のワクチンComirnatyの売上で112億ドルを稼ぎました。
    参考: https://www.reuters.com/legal/litigation/pfizer-wins-pause-modernas-covid-19-patent-lawsuit-2024-04-12/

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