1.第一三共のプレスリリース
2022年7月19日付の第一三共プレスリリース(当社ADC製品に関するSeagen社との特許係争に関するお知らせ)によると、第一三共が米国特許商標庁に請求していたSeagen社の米国特許 10,808,039(以下「‘039特許」)の有効性を審査する特許付与後レビュー(Post Grant Review、以下「PGR」)について、米国特許商標庁がSeagen社の再審理請求を認め、PGR手続きを進めないことを決定したとのことです。
なお、当該決定は、米国特許商標庁が’039 特許の有効性について判断したものではないとのことです。
第一三共は、米国特許商標庁がPGRを開始した後にSeagen社の再審理請求を認めたことに不服であり、米国特許商標庁がPGR手続きを完了するよう、今後あらゆる法的手段等を検討していくとのことです。
2.両社の間で起きている特許紛争
第一三共が創製した抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(trastuzumab deruxtecan)を有効成分とする抗悪性腫瘍剤Enhertu®とSeagen社が保有するADC技術に関する米国特許との関係で、両社の間で起きている特許紛争の現状は以下のとおり。
紛争は、米国テキサス州東部地区連邦地方裁判所、米国特許商標庁の特許審判部(PTAB)、American Arbitration Association(仲裁機関)の3つで同時進行です。
(1)特許権侵害訴訟
Seagen社は、第一三共による米国でのEnhertu®の販売行為が、Seagen社が保有するADC技術に関する米国特許(’039 特許)を侵害していると主張して、2020年10月19日に米国テキサス州東部地区連邦地方裁判所に提訴しています(No.2:20-cv-00337 (E.D.Tex.))。
2022年4月8日(現地時間)、同裁判所の陪審員は、Seagen社の主張を認め、第一三共による米国でのEnhertu®の販売行為が’039 特許の侵害に当たると評決しました。
Seagen社が請求しているロイヤルティおよび陪審員による故意侵害の認定を考慮した損害賠償額の裁判所の決定は今年末に見込まれています。
(2)特許付与後レビュー(PGR)
一方で、2020年12月23日、第一三共は、Seagen社の’039特許が無効であるとして米国特許商標庁に2件のPGRの開始を請求していました(PGR2021-00030, PGR2021-00042)。
米国特許商標庁の特許審判部(PTAB)は、PTABの結果とテキサス州東部地区連邦地方裁判所での結果が矛盾する可能性があるため、当初、これらのPGRの開始請求を認めない決定を下していましたが、リヒアリングの請願を受け入れ、2022年4月7日、’039特許の有効性を審査するため、これらのPGRの開始を決定していました。
しかし、上記第一三共のプレスリリースによると、米国特許商標庁は、Seagen社の請求を認め、PGR手続きを進めないことを決定したようです。
PGR2021-00030
DECISION
Granting Patent Owner’s Request on Rehearing
37 C.F.R. § 42.71(d)
Denying Institution of Post-Grant Review
35 U.S.C. § 324
(3)仲裁
特許侵害訴訟やPGRでの争いとは別に、Seagen社と第一三共との間では、第一三共がEnhertu®の有効成分であるトラスツズマブ デルクステカンおよび他のいくつかの医薬品候補に使用した特定のADC技術の帰属を巡って仲裁が進行中です。
- American Arbitration Association Case No. 01-19-004-0115 (Brown, Arb.)
- 2019.11.12 Seattle Genetics, Inc. press release: Seattle Genetics Submits Arbitration Demand Against Daiichi Sankyo Over Technology Ownership)。
この仲裁の決定は、2022年半ばまでに下されると見込まれています。
3.参考
参考記事:
コメント
いつも興味深い記事をありがとうございます。
メルクがSeagenを買収しそうですが、訴訟にも影響あるでしょうか?
コメントありがとうございます。買収が訴訟進行に影響するとは思いませんが、逆に訴訟や仲裁の結果によってはSeagenの価値という点で買収額に影響あるかもしれませんね。
この件、進展があったようですね。PGRが再開されるようです。
この件だけでなく、侵害訴訟とPGR/IPRが重なった場合にPTABがPGR/IPRの開始を拒否できるという裁量権に問題があったようで、見直しが入ったようなことが掛かれていました。どうなりますかね。
素人のgoogle検索ななめ読みですので不確かな理解かもしれませんが。
情報ありがとうございます。
以下に関連情報へのリンクを貼りました。
2023.02.17 第一三共 press release: 当社ADC製品に関するSeagen社との特許係争に関するお知らせ
https://www.daiichisankyo.co.jp/files/news/pressrelease/pdf/202302/20230217_J.pdf
PGR2021-00030
Filing date: 2023.02.14
Document name: Institution Decision: Granting Petitioners Request on Rehearing 37 C.F.R. sec.42.71d Granting Institution of Post-Grant Review 35 U.S.C. sec.324
https://ptacts.uspto.gov/ptacts/public-informations/petitions/1545102/download-documents?artifactId=170528422
第一三共株式会社(本社:東京都中央区、以下「当社」)は、当社が米国特許商標庁に請求していたSeagen Inc.(本社:米国ワシントン州ボセル、以下「Seagen社」)の米国特許10,808,039(以下「’039特許」)の有効性を審査する特許付与後レビュー(Post Grant Review、以下「PGR」)において、米国特許商標庁が’039特許は無効であるとの決定(以下「本決定」)を下しました
だそうです。これで結論?
情報ありがとうございます
‘039特許が無効となれば大逆転。第一三共の完全勝利になるかもしれませんね。上訴されCAFCで審理されるのではないでしょうか。
過去の参考記事:
米国でのSeagen社ADC特許侵害訴訟、Enhertu®販売の第一三共に損害賠償とロイヤルティ支払いを命じる地裁判決
https://www.tokkyoteki.com/2023/10/seagen-adc-enhertu.html