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2021.12.27 「大塚製薬 v. ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10078; 10082・・・エビリファイ®用途特許一部無効審決を取り消す(判決②)

関連判決①から続く

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1.背景

ジェネリックメーカー各社(共和薬品工業、ニプロ、東和薬品及びMeiji Seikaファルマ)が抗精神病薬エビリファイ®の医薬用途特許(第4178032号)に対して各々請求した特許無効審判事件において、特許庁は、エビリファイ®の「うつ病・うつ状態」の効能・効果を保護する請求項2に係る発明についての無効の主張を退けたが、エビリファイ®の「双極性障害における躁症状」の効能・効果を保護する請求項1、4及び5に係る発明についての無効の主張を認めるという一部無効審決をした。

本記事で紹介する判決は、特許庁がした上記各審決を不服としてそれぞれ提起された審決取消訴訟のうち、ニプロが請求した特許無効審判事件の審決取消訴訟についてのものである。

本件訴訟(知財高裁令和2年(行ケ)10078; 10082)は、発明の名称を「5-HT1A受容体サブタイプ作動薬」とする原告(大塚製薬)の特許第4178032号について、被告(ニプロ)が特許無効審判を請求した事件(無効2018-800123号)において、特許庁が、原告の訂正を認めた上、請求項1、4及び5に係る発明についての特許を無効とし、請求項2に係る発明についての審判請求は成り立たないとする審決をしたため、原告が、本件審決のうち請求項1、4及び5に係る部分の取消しを求め(第1事件訴訟)、一方、被告が、請求項2に係る部分の取消しを求め(第2事件訴訟)た事案である。

本件発明は、エビリファイ®の有効成分であるアリピプラゾールが5-HT1A受容体サブタイプにおける作動活性を有することを発見したことに基づき、5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害に罹患した患者を治療する方法を提供するものである。

本件明細書には5-HT1A受容体におけるアリピプラゾールの結合親和性を評価する薬理学的試験(in vitro試験)の結果が記載されていた。

本事件のポイントは、エビリファイ®(アリピプラゾール)の「うつ病・うつ状態」の効能・効果を保護する請求項2と「双極性障害における躁症状」の効能・効果を保護する請求項1、4及び5について実施可能要件・サポート要件の判断の前提となった、5-HT1A受容体部分作動薬と各疾患治療との結びつきに関する本件出願当時の技術常識の認定である。

より詳細な背景については、記事「2021.12.27 「大塚製薬 v. Meiji Seikaファルマ・大原薬品工業」 知財高裁令和2年(行ケ)10080; 10081・・・エビリファイ®用途特許一部無効審決を取り消す(判決①)」を参照。

2021.12.27 「大塚製薬 v. Meiji Seikaファルマ・大原薬品工業」 知財高裁令和2年(行ケ)10080; 10081・・・エビリファイ®用途特許一部無効審決を取り消す(判決①)
Summary 5-HT1A部分作動薬を双極性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用できることが技術常識であるとはいえないとした本件審決の認定に誤りがあるから、その認定を前提として本件医薬用途発明の一部が実施可能要件・サポート要件違反であるとした無効審決は取り消された。 但し、双極性障害の「躁病エピソード」の治療に係る部分については、本件審決において実質的な判断が示されていないとして、その部分の実...
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2.要旨

Summary

  • 5-HT1A部分作動薬を双極性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用できることが技術常識であるとはいえないとした本件審決の認定に誤りがあるから、その認定を前提として本件医薬用途特許の一部が実施可能要件・サポート要件違反であるとした無効審決は取り消された。
  • 但し、双極性障害の「躁病エピソード」の治療に係る部分については、本件審決において実質的な判断が示されていないとして、その部分の実施可能要件・サポート要件の適否は判断されなかった。
  • 本判決に対しては、上告・上告受理申立てがされている。しかし、上告棄却・上告不受理により本判決が確定し審判が再審理となれば、その判断の帰趨は、無効審決を受けてエビリファイ®ジェネリックに「双極性障害における躁症状」の効能追加承認を与えた厚生労働省の判断と、当該効能追加販売に踏み切った各ジェネリックメーカーの決断が、それぞれ正しいものだったのかという問いに答えを与えることになるだろう。

判決の内容は「2021.12.27 「大塚製薬 v. Meiji Seikaファルマ・大原薬品工業」 知財高裁令和2年(行ケ)10080; 10081・・・エビリファイ®用途特許一部無効審決を取り消す(判決①)」とほとんどの部分で重複し、結論は同じである。

裁判所は、エビリファイ®の「うつ病・うつ状態」の効能・効果を保護する請求項2の無効の主張を退けた特許庁の審決を支持したが(第2事件訴訟)、「双極性障害における躁症状」の効能・効果を保護する請求項1、4及び5について無効とした審決を取り消した(第1事件訴訟)。

本記事では、被告ニプロがした「治療効果を有することを理解するにはヒトでの臨床試験が必須である」旨の主張に対する裁判所の判断の一部を紹介する。

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3.治療効果を有することを理解するにはヒト臨床試験が必須か?

本件出願当時の5-HT1A受容体部分作動薬の抗うつ作用に関する技術常識について、「本件出願当時,5-HT1A受容体部分作動薬一般が上記5-HT1A受容体部分作動作用に基づく抗うつ作用によりうつ病に対して治療効果を有することは技術常識であったことが認められる。」と裁判所が判断したことに対して、被告は、「5-HT1A部分作動作用を有する化合物がヒトに対して「抗うつ作用」を有するかどうかは,実際に臨床試験によりヒトに投与してみなければ分からない」等の主張をした。

しかしながら、裁判所は、以下のとおりであるから、被告の上記主張は採用することができないと判断した。

「本件出願当時,化学構造の異なる化合物について,5-HT1A受容体作動薬と抗うつ作用との関連性を述べる総説的論文が複数存在し・・・,当業者は,5-HT1A受容体作動薬が一般的に抗うつ作用を有していることを十分に認識することができたものであり,実際にも,5-HT1A受容体作動薬というカテゴリーに注目して抗うつ薬の開発を進め・・・,特許出願もしていたこと・・・が認められる。

これらの事実は,本件出願当時,5-HT1A受容体部分作動薬が,脳内のシナプス後5-HT1A受容体に結合することによって作動する受容体部分作動作用に基づいて抗うつ作用を有すること,ひいては,5-HT1A受容体部分作動薬一般が上記受容体部分作動作用に基づく抗うつ作用によりうつ病に対して治療効果を有することが技術常識であったと認められるとの前記アの認定を裏付けるものであるといえる・・・。」

この裁判所の判断から、ある作用薬が特定の疾患に対して治療効果を有することが技術常識であったと認められるためには、必ずしもヒトに対しての治療効果が直接証明されていることまで要しないと解されることは明らかであろう。

このことは、ある作用薬が特定の疾患に対して治療効果を有する医薬用途発明の実施可能要件として明細書に記載されるべき薬理試験も、必ずしもヒトに対しての治療効果の結果を示すことまで要しないと解されることにも繋がる考え方といえるだろう。

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4.その他

本件判決に対しては、既に上告・上告受理申立てがされている(上告提起事件番号: 令04行サ10010、上告受理申立事件番号: 令04行ノ10010)。

他の関連判決と共に、今後の審理の進展に注目したい。

その他のコメントについては、「2021.12.27 「大塚製薬 v. Meiji Seikaファルマ・大原薬品工業」 知財高裁令和2年(行ケ)10080; 10081・・・エビリファイ®用途特許一部無効審決を取り消す(判決①)」を参照。

2021.12.27 「大塚製薬 v. Meiji Seikaファルマ・大原薬品工業」 知財高裁令和2年(行ケ)10080; 10081・・・エビリファイ®用途特許一部無効審決を取り消す(判決①)
Summary 5-HT1A部分作動薬を双極性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用できることが技術常識であるとはいえないとした本件審決の認定に誤りがあるから、その認定を前提として本件医薬用途発明の一部が実施可能要件・サポート要件違反であるとした無効審決は取り消された。 但し、双極性障害の「躁病エピソード」の治療に係る部分については、本件審決において実質的な判断が示されていないとして、その部分の実...

関連判決③

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