2021年2月17日付の中外製薬からのプレスリリース(「エディロールカプセルに関する特許権侵害訴訟の再提起について」)によると、中外製薬は、骨粗鬆症治療剤(活性型ビタミンD3製剤)エディロール®カプセル0.5μg、同0.75μg(一般名: エルデカルシトール(Eldecalcitol)。以下、エディロールカプセル)の後発医薬品に関し、中外製薬が保有する物質特許に基づいて、沢井製薬、日医工及び日産化学に対して2020年11月27日に提起した訴訟(記事「中外 エディロール特許侵害で日産化学・沢井・日医工を提訴」)について、訴訟戦略上の理由により、2021年1月15日付で取下げを行いましたが(記事「中外製薬 エルデカルシトールに関する特許権侵害訴訟を取下げへ」)、2021年2月17日、下記の概要で東京地方裁判所に再度訴訟提起をしたとのことです。
エディロールカプセルは、2011年1月21日に国内承認され、再審査期間は終了しています(~2019年1月20日(8年間))。2020年度国内売上高は278億円であり、上記後発医薬品の市場参入の影響により前年度367億円から24.3%減となりました(中外製薬2020年12月期連結決算補足資料より)。
訴訟の原因
2020年2月17日、沢井製薬及び日医工が、中外製薬と大正製薬が販売するエディロールカプセルの後発医薬品(以下、当該後発品)の製造販売承認をそれぞれ取得しました。現時点において、沢井製薬及び日医工のみが、当該後発品を上市しており、日産化学は、近年、当該後発品の原薬(以下、当該原薬)としてのエルデカルシトールの事業に注力しているとのことです。
この状況を受けて、中外製薬は、中外製薬が保有する物質特許に基づいて、沢井製薬、日医工及び日産化学に対し、当該後発品についての当社保有特許の結晶形の生産及び使用の差止め、廃棄、並びに損害賠償を求めて、東京地方裁判所に特許権侵害訴訟を提起しました。また、上記3社に対し、同時に、特許権侵害差止仮処分の申立てを行ったとのことです。
中外製薬は、沢井製薬及び日医工は、当該原薬の製造を日産化学に委託し、日産化学から当該原薬を購入し使用して、当該後発品を製造し販売しており、その際、上記3社は、当該後発品の製造及び販売のため、中外製薬保有特許の結晶形を生産し使用している、と認識している、とのことです。中外製薬は、当該行為が中外製薬の保有する物質特許第3429432号の特許権を侵害すると主張しています。
中外製薬が一旦取下げた訴訟を再提起したということは、プレスリリースに記された内容からも、「沢井製薬、日医工及び日産化学は、当該後発品の製造及び販売のため、中外製薬保有特許第3429432号の結晶形を生産し使用している」と認識し得る証拠を中外製薬が得たことを意味しているものと考えられます。
中外製薬は、2020年5月29日に、中外製薬および大正製薬が保有する用途特許第5969161号を侵害するとして、当該後発品の生産等の差止め及び廃棄を求め、東京地方裁判所に特許権侵害訴訟を提起するとともに、特許権侵害差止仮処分の申し立てを行いました(記事「中外 エディロール用途特許侵害で沢井・日医工を提訴」)。沢井製薬と日医工は、特許無効審判を請求し争っています(無効2019-800112)。こちらの用途特許を巡る争いも含めて、エディロールカプセルの特許侵害訴訟がどのような結末となるか見守りたいと思います。
3つの関連記事:
2020年11月27日付訴訟提起に関する記事「中外 エディロール特許侵害で日産化学・沢井・日医工を提訴」
2021年1月15日付訴訟取下げに関する記事「中外製薬 エルデカルシトールに関する特許権侵害訴訟を取下げへ」
2020年5月29日付別件用途特許侵害訴訟提起に関する記事「中外 エディロール用途特許侵害で沢井・日医工を提訴」
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【追加情報】
2021.12.03 中外製薬 press release: 骨粗鬆症治療剤「エディロール」、東和薬品によるオーソライズド・ジェネリック品の承認取得について
https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20211203150000_1169.html
2021.12.03 東和薬品 press release: エルデカルシトールカプセル0.5μg/0.75μg「トーワ」オーソライズド・ジェネリックの製造販売に関するお知らせ
https://www.towayakuhin.co.jp/company/press/2021/12/d305g075g.php