コセンティクス(Cosentyx)®を保護する特許の存続期間延長について紹介するとともに、最後に延長の登録要件と効力に関して疑問に思った点に触れたい。
コセンティクス®は、ノバルティスが開発したセクキヌマブ(Secukinumab)(遺伝子組換え)を有効成分とするヒト型抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤である。
日本では、2014年12月26日にプレフィルドシリンジ製剤である「コセンティクス®皮下注 150mg シリンジ」が尋常性乾癬及び関節症性乾癬を効能・効果として初承認され、その後、2015年12月21日に膿疱性乾癬が追加承認、2016年9月13日にオートインジェクター製剤である「コセンティクス®皮下注 150mg ペン」が承認、2018年12月21日に強直性脊椎炎が追加承認された。再審査期間は8年間(2014年12月26日~2022年12月25日)であるため、バイオ後続品の参入時期は、コセンティクス®を保護する特許期間に拠ることになる。
コセンティクス®は、ノバルティスが保有する以下の3つの特許で保護されている。
1.物質特許: 特許4682200号(出願日2005年8月4日、登録日2011年2月10日、最長存続期間満了日2029年6月19日)。
請求項1:
重鎖(VH)および軽鎖(VL)可変ドメインの両方を含んでなるIL-17抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
a)該VHドメインは、順に超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3(前記CDR1は、配列番号1のアミノ酸配列を有し、前記CDR2は、配列番号2のアミノ酸配列を有し、そして前記CDR3は、配列番号3のアミノ酸配列を有する)を含み;および
b)該VLドメインは、順に超可変領域CDR1’、CDR2’およびCDR3'(前記CDR1’は、配列番号4のアミノ酸配列を有し、前記CDR2’は、配列番号5のアミノ酸配列を有し、そして前記CDR3’は、配列番号6のアミノ酸配列を有する)を含む、IL-17抗体またはその抗原結合フラグメント。
存続期間延長登録出願:
- 特願2015-700057(延長の期間: 3年10月15日)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬 - 特願2015-700058(延長の期間 3年10月15日)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mg
処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬 - 特願2016-700029(延長の期間 2年7月5日(延長を求める期間は4年10月10日だった))
処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
処分対象用途: 膿疱性乾癬 - 特願2016-700030(延長の期間 2年7月5日(延長を求める期間は4年10月10日だった))
処分対象物: コセンティクス皮下注150mg
処分対象用途: 膿疱性乾癬 - 特願2016-700353(延長の期間 7月15日)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mgペン
処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬,膿疱性乾癬 - 特願2019-700038(延長を求める期間 5年)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
処分対象用途: 強直性脊椎炎 - 特願2019-700039(延長を求める期間 5年)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mgペン
処分対象用途: 強直性脊椎炎
2.乾癬用途用法用量特許: 特許5537740号(出願日2011年10月7日、登録日2014年5月9日、最長存続期間満了日2033年5月18日)。
請求項1:
乾癬を治療するための、IL-17抗体を含む医薬組成物であり、
IL-17抗体が、
a)導入レジメン中にそれを必要とする患者に投与されるものであり、ここで導入レジメンは、負荷レジメンを含み、負荷レジメンは、ゼロ週目に始めて、150mg~300mgの用量のIL-17抗体を5回皮下投与するステップを含み、5回の用量のそれぞれは週1回送達され、及び
b)その後、維持レジメン中に投与されるものであり、維持レジメンが、4週間ごと、150mg~300mgの用量のIL-17抗体を皮下投与するステップを含むこと
を特徴とし、
ここで、前記IL-17抗体は2つの成熟IL-17タンパク質鎖を有するIL-17ホモ二量体のエピトープに結合し、ここで前記エピトープは、1つの鎖上のLeu74、Tyr85、His86、Met87、Asn88、Val124、Thr125、Pro126、Ile127、Val128、His129及び他の鎖上のTyr43、Tyr44、Arg46、Ala79、Asp80を含み、IL-17抗体が100~200pMのKDを有し、IL-17抗体が23~30日のインビボ半減期を有する、
前記医薬組成物。
存続期間延長登録出願:
- 特願2015-700059(延長の期間 7月16日)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬 - 特願2015-700060(延長の期間 7月16日)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mg
処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬 - 特願2016-700031(延長の期間 1年7月11日)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
処分対象用途: 膿疱性乾癬 - 特願2016-700032(延長の期間 1年7月11日)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mg
処分対象用途: 膿疱性乾癬 - 特願2016-700354(延長の期間 7月15日)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mgペン
処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬,膿疱性乾癬
3.強直性脊椎炎用途用法用量特許: 特許6049843号(原出願日2011年11月4日、登録日2016年12月2日)。
請求項1:
IL-17抗体を含む、強直性脊椎炎(AS)を治療するための医薬組成物であって、前記IL-17抗体は、
a)150mg~300mgの用量の前記IL-17抗体をそれを必要とする患者に5回皮下投与し、当該5回の用量のそれぞれは週1回送達され、
b)その後、前記患者に、150mg~300mgの用量で前記ステップa)の第5回目の皮下投与の送達から1ヵ月目に始めて毎月皮下投与するものであり、
ここで、前記IL-17抗体は、セクキヌマブである、前記医薬組成物。
存続期間延長登録出願:
- 特願2019-700040(延長を求める期間 2年18日)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
処分対象用途: 強直性脊椎炎 - 特願2019-700041(延長を求める期間 2年18日)
処分対象物: コセンティクス皮下注150mgペン
処分対象用途: 強直性脊椎炎
以下に、処分毎の各特許満了日(期間延長満了日)を整理した。
すべての特許が有効であれば、バイオ後続品の承認(少なくとも尋常性乾癬及び関節症性乾癬を効能・効果として)は2032年となる見込み。
処分対象用途
処分対象物
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物質
特許
4682200
~2025.8.4
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乾癬・用法用量
特許
5537740
~2031.10.7
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強直性脊椎炎・用法用量特許
6049843
~2031.11.4
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尋常性乾癬
及び
関節症性乾癬
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150mg
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+3y10m15d
~2029.6.19
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+7m16d
~2032.5.23
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–
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150mgシリンジ
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+3y10m15d
~2029.6.19
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+7m16d
~2032.5.23
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–
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150mgペン
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+7m15d
~2026.3.19
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+7m15d
~2032.5.22
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–
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膿疱性乾癬
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150mg
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+2y7m5d
~2028.3.9
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+1y7m11d
~2033.5.18
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–
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150mgシリンジ
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+2y7m5d
~2028.3.9
|
+1y7m11d
~2033.5.18
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–
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150mgペン
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+7m15d
~2026.3.19
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+7m15d
~2032.5.22
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–
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強直性脊椎炎
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150mgシリンジ
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(+5y)
(~2030.8.4)
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–
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(+2y18d)
(~2033.11.22)
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150mgペン
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(+5y)
(~2030.8.4)
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–
|
(+2y18d)
(~2033.11.22)
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ジェネリックメーカーが、乾癬用途用法用量特許の無効審決を勝ち取った場合を想定したとき、2028年に膿疱性乾癬の効能・効果でバイオ後続品が初承認となる可能性はある。
しかし、それよりも、「150mgペン」の承認に基づいて取得した延長物質特許の期間満了は2026年となっており、こちらが先に満了してしまうことの影響があるかもしれない。
「150mgシリンジ」での各効能効果承認時に取得した延長物質特許の効力が、尋常性乾癬及び関節症性乾癬については2029年6月19日まで、膿疱性乾癬については2028年3月9日まで、「150mgペン」の後続品に対しても及ぶと考えることができるのだろうか。
そもそも、「150mgシリンジ」承認という先行処分の存在は、剤形違いである(でしかない?)後行処分である「150mgペン」の延長登録要件には影響しないのだろうか。
「150mgシリンジ」と「150mgペン」の「成分」は同一である。パテントリンケージの観点から、2026年に「150mgペン」の後続品は承認されるのだろうか。
ノバルティスは処分対象物を「150mgシリンジ」とする延長出願(特願2015-700057)と同時に、処分対象物を「150mg」とする延長出願(特願2015-700058)もしており、それぞれ登録されている。
処分対象物を「150mg」とした延長特許は「150mgペン」にも効力が及ぶのだろうか。
上記疑問をよりシンプルに一般化すると・・・
1.先行処分の存在は、先行処分と「剤形」が異なる後行処分(本件処分)に基づいて出願する物質特許の延長登録要件にどのように関わるか。「成分」が実質同一なものの範囲であれば、剤形の異同は問わず、先行処分で禁止の解除なのか、それとも、「成分」が実質同一なものの範囲であっても、剤形が異なれば、本件処分で初めて禁止の解除となるのか。
参考:
- 2015.11.17 「特許庁長官 v. ジェネンテック」 最高裁 平成26年(行ヒ)356
「延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両処分を比較した結果,先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは,延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないと解するのが相当である。・・・これを本件についてみると,本件特許権の特許発明は,血管内皮細胞増殖因子アンタゴニストを治療有効量含有する,がんを治療するための組成物に関するものであって,医薬品の成分を対象とする物の発明であるところ,医薬品の成分を対象とする物の発明について,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる両処分の審査事項は,医薬品の成分,分量,用法,用量,効能及び効果である。」
- 2014.05.30 「帝人 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10399
特許権の存続期間延長登録が認められなった事例(リノコートパウダースプレー鼻用のノズル(カウンター付))
2.延長された物質特許権の効力は、「剤形」が異なるジェネリック(後発医薬品/バイオ後続品)に及ぶのか。「成分」が実質同一なものの範囲であれば、剤形の異同は問わず効力は及ぶのか、それとも「成分」が実質同一なものの範囲であっても、剤形が異なれば、効力は及ばないのか。
参考:
- 知財高裁大合議判決(2017.01.20 「デビオファーム v. 東和薬品」 知財高裁平成28年(ネ)10046)
延長された特許権の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及び、政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属する。
コメント
ブログを拝見しました。
とても興味深い論点だと思います。
シリンジの承認に基づく延長の効力は、ペンにも及んで欲しいと考えています。
シリンジからペンへと改良を加えたことにより、延長期間が侵食されてしまうとなると、延長制度の趣旨から見て、妥当ではないのでは?という気がしています。