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2018.11.06 「アルフレッサ v. 特許庁長官」 知財高裁平成29年(行ケ)10117

刊行物に物の発明が記載されているといえるためには、刊行物の記載及び技術常識に基づいて、当業者がその物を作れることが必要知財高裁平成29年(行ケ)10117

【背景】

原告(アルフレッサファーマ)が保有する「マイコプラズマ・ニューモニエ検出用イムノクロマトグラフィー試験デバイスおよびキット」に関する特許(第5845033号)異議申立における取消決定(異議2016-700611)取消請求訴訟。争点は進歩性。

【要旨】

裁判所は、本件取消決定は、引用発明の認定を誤った結果、相違点を看過し、なおかつ、これらの相違点に関する容易想到性の判断を全く行わないままに進歩性欠如の結論を導いたものであるから、取り消されるべきであると判断した。

以下、裁判所の判断の抜粋。

「特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明(本件特許発明)を容易に発明することができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。また,本件特許発明は物の発明であるから,進歩性を検討するに当たって,刊行物に記載された物の発明との対比を行うことになるが,ここで,刊行物に物の発明が記載されているといえるためには,刊行物の記載及び本件特許の出願時(以下「本件出願時」という。)の技術常識に基づいて,当業者がその物を作れることが必要である。
かかる観点から本件について検討すると,引用例1の記載及び本件出願時の技術常識を考慮しても,引用発明1のデバイスを当業者が作れるように記載されているとはいえない。理由は以下のとおりである。

・・・異なる二つのモノクローナル抗体でありさえすれば,抗体と抗原がサンドイッチ複合体を形成するとの本件出願時の技術常識も見当たらず,また,サンドイッチ複合体を形成しさえすれば,必ず患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出できると直ちにいうこともできない。

・・・そこで,第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体の組合せに関して引用例1の記載を検討するに,引用例1には,ラテラルフローデバイスに用いる二つの抗体について,具体的なモノクローナル抗体の組合せを示す記載は見当たらない。また,本件出願時において,ラテラルフローデバイス等のサンドイッチ複合体を形成できる具体的なモノクローナル抗体の組合せが周知であったことを示す証拠もない

・・・さらに,引用例1には,P1タンパク質に対するモノクローナル抗体として,マウスのモノクローナル抗真正P1タンパク質抗体H136E7(【0012】)とrP1に対するモノクローナル抗体(【0096】)に関する記載があるが,P1タンパク質に対する具体的なモノクローナルは,H136E7が記載されているにとどまり,rP1に対するモノクローナル抗体については,その当該モノクローナル抗体を生産する細胞株も,モノクローナル抗体のアミノ酸配列等の情報も,H136E7とのサンドイッチ複合体の形成の有無に関する手掛かりとなる情報も記載されていない。
このような引用例1の記載に基づいて,ラテラルフローデバイスを作るためには,モノクローナル抗体として一つはH136E7を用いるとしても,もう一つ,H136E7とサンドイッチ複合体を形成可能な別のモノクローナル抗体を用いる必要があるが,引用例1には,そのようなモノクローナル抗体の構造について手掛かりとなる記載がなく,何らかの方法でモノクローナル抗体を入手し,それらのモノクローナル抗体が,H136E7とサンドイッチ複合体を形成可能であるかを調べ,試行錯誤によって,H136E7と組み合わせて患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するラテラルフローデバイスを構成できるモノクローナル抗体を見つけ出す必要がある。
以上を踏まえれば,たとえ様々なモノクローナル抗体を得る技術自体は周知技術であるとしても,本件取消決定が認定した引用発明1のラテラルフローデバイスは,引用例1の記載及び本件出願時の技術常識から,直ちに作ることができるものとはいえない。
したがって,引用例1に引用発明が記載されている(あるいは,記載されているに等しい)ということはできない。」

【コメント】

アッセイデバイスという物の発明について、進歩性欠如理由として引用された発明の適格性が問題となった。刊行物に物の発明が記載されているといえるためには、刊行物の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者がその物を作れることが必要である。

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