「平均分子量」とは?(明確性要件)2: 知財高裁平成29年(行ケ)10210
ロート製薬(原告)が保有する「眼科用清涼組成物」に関する特許権(第5403850号)に対するY(被告)による無効審判請求を不成立とした審決(無効2015-800023)の取消訴訟第一次判決(2017.01.18 「X v. ロート製薬」 知財高裁平成28年(行ケ)10005)で特許請求の範囲におけるコンドロイチン硫酸ナトリウムを定める「平均分子量」の記載は不明確であり明確性要件を欠くと判断された後、特許庁は原告による訂正を認めた上で本件特許の無効審決をした。
本件はその無効審決取消訴訟であり、原告は「平均分子量」についての明確性要件に係る認定判断は誤りであると主張した。
上記第一次判決において「平均分子量」が不明確とされた理由は、コンドロイチン硫酸ナトリウムの一例として明細書に記載されていたマルハ社製品の平均分子量として当業者に公然知られた数値が「粘度平均分子量」であったと判断されたためであった。
そこで、原告は、本件訂正により明細書からマルハ社製品のコンドロイチン硫酸ナトリウムに関する記載を削除し、コンドロイチン硫酸ナトリウムのもう一例として明細書に記載されていた生化学工業社製品の平均分子量として「重量平均分子量」の数値が提供されていたこと等の主張を展開した。
本件訴訟において知財高裁は、第一次判決から一転して、明細書中の「平均分子量」が「重量平均分子量」であることを合理的に推認できると認定し、本件訂正後の特許請求の範囲(「平均分子量」)の記載は明確性要件を満たすものといえると判断、本件審決を取り消した。
被告は、明確性要件を充足させるために明細書からマルハ社製品のコンドロイチン硫酸ナトリウムに関する記載を削除した本件訂正は特許請求の範囲を実質的に変更するものだと主張したが、裁判所は被告主張を認めなかった。
以下、裁判所の判断の抜粋。
「ア 本件訂正後の特許請求の範囲にいう「平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,重量平均分子量,粘度平均分子量,数平均分子量等のいずれを示すものであるかについては,本件訂正明細書において,これを明らかにする記載は存在しない。もっとも,このような場合であっても,本件訂正明細書におけるコンドロイチン硫酸又はその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であるかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。
イ 上記1(2)カのとおり,本件訂正明細書には,「本発明に用いるコンドロイチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5万~50万のものを用いる。・・・例えば,生化学工業株式会社から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)が利用できる。」(段落【0021】)と記載されている。
上記の「生化学工業株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)」については,本件出願日当時,生化学工業株式会社は,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量について重量平均分子量の数値を提供しており,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として当業者に公然に知られた数値は重量平均分子量の数値であったこと(上記(3)イ(ア))からすれば,その「平均分子量」は重量平均分子量であると合理的に理解することができ,そうだとすると,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量も重量平均分子量を意味するものと推認することができる。加えて,本件訂正明細書の上記段落に先立つ段落に記載された他の高分子化合物の平均分子量は重量平均分子量であると合理的に理解できること(上記(2)イ),高分子化合物の平均分子量につき一般に重量平均分子量によって明記されていたというのが本件出願日当時の技術常識であること(上記(2)ウ)も,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が重量平均分子量であるという上記の結論を裏付けるに足りる十分な事情であるということができる。
ウ よって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足するものと認めるのが相当である。」
第一次判決:
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