対応外国出願の禁反言が特許発明の技術的範囲に適用されるのか: 知財高裁平成28年(ネ)10111
【背景】
「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告: デビオファーム)が、被控訴人(一審被告: 日医工)に対し、日医工各製品の製造販売等が特許権侵害に当たると主張して、日医工製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決(2016.10.28 「デビオファーム v. 日医工」 東京地裁平成27年(ワ)28468)は、日医工各製品はいずれも本件発明の技術的範囲に属しないとしてデビオファームの請求を棄却したため、デビオファームは控訴した。
日医工各製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明に規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。日医工各製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうかが争点。
【要旨】
知財高裁は、本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は、添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まないものと解されるから、解離シュウ酸を含むのみで、シュウ酸が添加されていない日医工各製品は、構成要件の「緩衝剤」を含有するものではなく、したがって、本件発明の技術的範囲に属しないものと判断した。控訴棄却。
【コメント】
知財高裁は、判断の理由を、原判決を一部補正するほか原判決の記載のとおりであるからこれを引用した。すなわち、下記部分も引用しており、知財高裁は、クレームの用語の意義を対応外国出願の審査過程における出願人の主張内容も参酌して解釈する、ということを排除していない。
原判決41頁11行目~:
「確かに,対応米国特許及び対応ブラジル特許は本件特許とは異なる国における別個の出願であるから,それぞれの国の手続において成立する特許発明の範囲に差異がでることは否定できないものの,本件特許と同じ国際出願を基礎とするものである以上,その技術思想は基本的には共通すると考えられるところ,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」が添加したものに限られず,解離シュウ酸をも含むものと解すると,上記対応米国特許及び対応ブラジル特許の技術思想とは整合しなくなり不合理である。」
原判決:
- 2016.10.28 「デビオファーム v. 日医工」 東京地裁平成27年(ワ)28468
- 日医工 press release: 2017.04.28 「抗悪性腫瘍剤オキサリプタチン点滴静注液の特許侵害差止請求訴訟の控訴審勝訴について」
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