骨粗鬆症治療剤エビスタ® ラロキシフェン用途特許無効審決の維持判決: 知財高裁平成27年(行ケ)10166
【背景】
原告が保有する「ベンゾチオフェン類を含有する医薬製剤」に関する特許2749247号の無効審決(無効2013-800139)取消訴訟。争点は進歩性。
本件訂正発明1:
ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む,ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤であって,タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い医薬製剤。
本件訂正発明1と引用発明(甲1)とは、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む医薬製剤。」である点で一致し、次の点で相違すると審決は認定した。
相違点1:
本件訂正発明1は,「ヒトの骨粗鬆症の治療又は予防用」であるのに対し,引用発明は,「高齢の卵巣切除ラットの骨密度への作用を確認することを目的として,卵巣切除術を実施した9月齢の退役した経産雌ラットにラロキシフェン100μgを4か月間毎日経口処置した際に,卵巣切除による灰密度の低下を有意に遅らせた」点。
相違点2:
本件訂正発明1は,「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」のに対し,引用発明は,この点についての記載がない点。
【要旨】
請求棄却。相違点1及び2についての裁判所の判断は以下の通り。
相違点1:
「甲1実験系には,ヒトの閉経後骨粗鬆症動物モデルを用いた実験として,不適切な点は見出せず,甲1実験系によって得られた「ラロキシフェン は卵巣切除による灰密度の低下を有意に遅らせた」との知見を,ヒトの骨粗鬆症にも応用できるとする十分な根拠があるということができる。~当業者は,ラロキシフェンが甲1実験系において卵巣切除ラットの灰密度低下を有意に遅らせたことから,このラロキシフェンをヒトに適用した場合,骨粗鬆症の治療薬又は予防薬として所望の薬効を奏することを合理的に予測できたということができる。」
相違点2:
「ラロキシフェンは,子宮に対してタモキシフェンよりも 弱いエストロゲン作用を示すことは周知であり,子宮湿重量増加作用だけでなく,子宮上皮細胞成長作用も弱いことが知られていたと認められる。 そうすると,ラロキシフェンは,子宮癌の発生に関係する子宮に対するエストロゲン作用がタモキシフェンよりも弱いことが周知であり,特に,子宮上皮細胞成長作用がタモキシフェンよりも弱いことも知られていた以上,当業者であれば,ラロキシフェンは,タモキシフェンよりも子宮癌のリスクが低いことを容易に予測し得たということができる。したがって,引用発明の「9月齢の退役した経産雌ラットにおいて卵巣切除によ る灰密度の低下を有意に遅らせたケオキシフェン」を,ヒトの骨粗鬆症の治療又は予防用医薬製剤として適用した場合に,タモキシフェンより子宮癌のリスクが低い製剤となることは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。」
【コメント】
本件特許は、骨粗鬆症治療剤エビスタ®(一般名:ラロキシフェン塩酸塩(Raloxifene Hydrochloride)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM))の用途特許である。2015年4月に本件特許無効の審決がだされた後、沢井製薬は、同年8月に後発品(ラロキシフェン塩酸塩錠 60mg「サワイ」)の承認を得、知財高裁の判断を待たずに同年12月に薬価収載、販売に踏み切っていた。
参考:
コメント
裁判所は、相違点2について、「本来備えている性質」(内在的同一、inherent anticipation)という審決・被告のロジックには触れることなく、「容易に予測し得たということができる。」というロジックで判断した。
↓相違点2が「本来備えている性質」であるから異なる発明であるとすることはできないとした審決の判断の要点を抜粋
「本件訂正発明1の「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」との条件を満たすために用法用量や添加剤などを検討した旨の記載は,本件訂正後の本件特許の明細書及び図面(本件明細書。甲52)にないから,上記条件は,「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む医薬製剤」が本来備えている性質であり,引用発明のラロキシフェンを活性成分として含む医薬製剤も備えている性質であると認められる。よって,この点で本件訂正発明1が引用発明と異なる発明であるとすることはできない。」
↓被告反論の抜粋
「相違点2及び4に係る構成は,引用発明も備えている性質を記載したものであるから,実質的な相違点ではない。現に本件訂正は,明瞭でない記載の釈明として許容されている。本件訂正発明の用途は,請求項において特定されているとおり,「ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用」であり,相違点2及び4に係る構成が新規な用途の一部である旨の原告の主張は,請求項の記載に基づかないものである。」