マキサカルシトールの製法特許: 知財高裁平成27年(行ケ)10014
【背景】
被告ら(中外製薬・ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク)が保有する「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許(第3310301号)の無効審判請求を不成立とした審決(無効2013-800222)の取消訴訟。争点は甲4発明からの進歩性の有無である。
本件発明は、ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物(出発物質)を、塩基の存在下で、末端に脱離基を有するエポキシ炭化水素化合物である試薬と反応させることによりエーテル結合を形成し、側鎖にエーテル結合及びエポキシ基を有するビタミンD構造体又はステロイド環構造体であるエポキシド化合物(中間体)を合成するという方法(本件発明1)、同方法の工程に加えて、その後、還元剤で処理をしてこの側鎖のエポキシ基を開環して水酸基を形成することにより、マキサカルシトールの側鎖を有するビタミンD誘導体又はステロイド誘導体(目的物質)を製造するという方法(本件発明13)を採用したものである。
甲4発明1は、20位アルコールのステロイド化合物(出発物質)に試薬(4-ブロモ-2-メチル-テトラヒドロピラニルオキシ-2-ブテン)を反応させて、二重結合を有する側鎖を導入したステロイド化合物を生成し、これに香月-シャープレス反応を用いるという二段階の反応を行うことにより、二重結合をエポキシ基に変換した中間体であるエポキシド化合物(18)又は(19)を合成するという工程であり、甲4発明2は、同工程に加えて、その後、この側鎖のエポキシ基を開環(還元処理)することにより、エポキシ基を開環したステロイド化合物(目的物質)を生成するという一連の工程である。
【要旨】
主 文
原告らの請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
1.本件発明1と甲4発明1の相違点の容易想到性について
本件発明1と甲4発明1を対比すると,~本件発明1と甲4発明1とは,出発物質は一致するが,目的物質(エポキシド化合物)の側鎖構造(相違点3-i),出発物質に反応させる試薬(相違点3-ii),目的物質であるエポキシド化合物を製造する工程(相違点3-iii)において相違する。
原告らは,甲4発明1に甲第1号証記載の発明(本件試薬)を組み合わせることにより,本件発明1に係る構成に容易に想到することができる旨を主張している。
しかし,甲4発明1の試薬は本件発明1の試薬とは異なるから,甲4発明1から本件発明1に想到するには,本件発明1の試薬を甲4発明1の試薬に代えて使用する動機付けが必要となる。この点,本件試薬の構造自体は公知であった(甲1)が,前記(1)アの記載によれば,そもそも甲第4号証の図9記載の工程は,マキサカルシトールとは異なり,二種類の立体配置が存在する側鎖末端構造を有するマキサカルシトールの予想代謝物(12),(13)を選択的に合成するための製造方法であって,甲4発明1はその一連の工程の一部である。そして,甲4発明1においては,上記二種類のマキサカルシトールの予想代謝物の合成のため,二種類のエポキシド化合物(18)又は(19)(両者は,側鎖末端の立体配置〔R体とS体〕が異なる異性体である。)を選択的に作り分けることを目的として,香月-シャープレス反応を用いており,その香月-シャープレス反応に必要な二重結合を出発物質の側鎖に導入するための試薬として,二重結合を側鎖に有する特定の試薬(4-ブロモ-2-メチル-テトラヒドロピラニルオキシ-2-ブテン)を選択しているものであって,当該試薬に代えて本件試薬を用いることについては,甲第4号証にも,甲第1号証にも記載されておらず,その示唆もない。
そうすると,当業者において,本件試薬を甲4発明1と組み合わせる動機付けがあるとはいえないから,相違点3-ii(試薬の相違)に係る本件発明1の構成は,当業者において容易に想到することができたものとはいえない。
2.本件発明13と甲4発明2の相違点の容易想到性について
本件発明13と甲4発明2を対比すると,~本件発明13と甲4発明2とは,その目的物質(ステロイド化合物)及びエポキシド化合物の側鎖構造(相違点3-i’),出発物質に反応させる試薬(相違点3-ii’),エポキシド化合物を製造する工程(相違点3-iii’)において相違する。
原告らは,甲4発明2に甲第1号証記載の発明(本件試薬)を組み合わせることにより,本件発明13に係る構成に容易に想到することができる旨を主張する。
しかし,甲4発明2の試薬は本件発明13の試薬とは異なるから,甲4発明2から本件発明13に想到するには,本件発明13の試薬を甲4発明2の試薬に代えて使用する動機付けが必要となるところ,そのような動機付けがあるとは認められないことは,前記~と同様であるから,相違点3-ii’(試薬の相違)に係る本件発明13の構成は,当業者において容易に想到することができたものとはいえない。
したがって, 相違点3-ii’に係る本件発明13の構成に想到することは容易ではないとの審決の判断に誤りはない。
【コメント】
本件特許(第3310301号)は、マキサカルシトール(maxacalcitol)の製造方法に関するもの。マキサカルシトールは活性型ビタミンD3誘導体であり、中外製薬が販売する角化症治療剤オキサロール(Oxarol)®軟膏の有効成分。本件特許については、他に、
- 2015.12.24 「セルビオス-ファーマ v. ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬」 知財高裁平成26年(行ケ)10263
- 2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014
でも有効性が争われたが、いずれも特許は有効であるとの判断がなされている。
その他、下記事件が係属中。
- 無効2013-800222(請求人: DKSHジャパン、岩城製薬、 高田製薬、ポーラファルマ)では訂正を認め、無効審判の請求は成り立たないと審決。知財高裁へ出訴(平成27年(行ケ)10014)。
- 無効2014-800174(請求人: セルビオス-ファーマ)では訂正を認め、無効審判の請求は成り立たないと審決。知財高裁へ出訴(平成27年(行ケ)10251)。
- 無効2015-800057(請求人: DKSHジャパン)では無効審判の請求は成り立たないとの審決(審決日2016.03.23)。
- 無効2015-800137(請求人: DKSHジャパン)。
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