オランザピンの進歩性(エチル基からメチル基に置き換えてみること): 無効2014-800145
【背景】
イーライリリーが保有する「チエノ〔2,3-b〕〔1,5〕ベンゾジアゼピン誘導体及び該誘導体を含有する抗精神病薬組成物」に関する特許第2527860号に対してテバ製薬が請求した無効審判。本件特許は、イーライリリーにおいて開発され製造販売されているチエノベンゾジアゼピン系抗精神病薬ジプレキサ®(Zyprexa®)の有効成分オランザピン(olanzapine)を保護する物質特許である。
請求項1(本1発明):
2-メチル-10-(4-メチル-1-ピペラジニル)-4H-チエノ-〔2,3-b〕〔1,5〕ベンゾジアゼピン、またはその酸付加塩。
「2-メチル-10-(4-メチル-1-ピペラジニル)-4H-チエノ-〔2,3-b〕〔1,5〕ベンゾジアゼピン」が、すなわち「オランザピン」である。
【要旨】
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理 由(抜粋)
1 無効理由1a(甲第1号証を主引用例とした進歩性)について
ア 相違点アについて
甲1発明の1の「エチルオランザピン」について、そのチオフェン環の2位のアルキル基の種類を、甲1の「(L)チオフエン環がC1~4アルキル基、例えばエチルにより置換されている」との記載に基づいて、エチル基からメチル基に置き換えてみることは、当業者が普通に想起できることと認められる。
イ 本1発明の効果について
(ア)本件特許明細書に記載された効果
先ず~本件特許明細書の段落0016の試験結果には、乙17の宣言書による裏付けがあるといえる。次に~本件特許明細書の段落0046の試験結果には、甲9の論文や乙1の医薬品インタビューフォームの裏付けがあるといえる。また、~本1発明の「オランザピン」は、条件回避反応(Conditioned Avoidance Response)の阻止という薬理活性に必要な投薬量と、カタレプシー(CATalepsy)という副作用を誘発する投薬量との間の分離が、他の抗精神病薬に比べて広いので、本件特許明細書に記載された「その化合物が診察中に錐体外路副作用を殆ど誘発しそうもない」という効果には、甲9及び乙1の裏付けがあるといえる。(イ)コレステロール増加の副作用について
本件特許明細書の段落0016に記載された『本発明の化合物はコレステロール量の増加を示さないことが観察された』という本1発明の効果(コレステロール増加副作用減少の効果)は、甲1及び甲2の刊行物のいずれにも記載されていない有利な効果であって、甲1の刊行物において上位概念で示された発明が有する効果とは異質な効果であるといえるから、本件特許の優先日当時の技術水準から当業者が予測できたものであるとは認められない。(ウ)条件回避反応阻止とカタレプシー誘発の分離について
甲2及び甲9に示された薬理データの結果から、医薬としての有用性は『オランザピン>クロルプロマジン>エチルオランザピン』の順になる。このため、本1発明(オランザピンまたはその酸付加塩)は、甲1発明の1(エチルオランザピン)よりも、条件回避反応を阻止するのに必要とされる投薬量とカタレプシーを誘発するのに要する投薬量との間の分離という効果(本件特許明細書の段落0046に記載された「錐体外路副作用を殆ど誘発しそうもない」という効果)において際立って優れているものと認められる。ウ 甲1発明の1を主引用例とした場合の進歩性の総括
以上のとおり、本1発明は、甲1の刊行物及び甲2の刊行物に記載されていないコレステロール増加の副作用減少という異質な効果と、条件回避反応阻止とカタレプシー誘発の顕著な分離という際立って優れた効果を有するものであって、これらの効果が本件特許の優先日当時の技術水準から当業者が予測できたものであるともいえない。
してみると、本1発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
したがって、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、本1発明に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
3 無効理由2(実施可能要件)について
(省略)
4 無効理由3(サポート要件)について
(省略)
【コメント】
化合物発明の進歩性を考えるうえで参考になる事例。エチル基からメチル基に置き換えてみることは当業者が普通に想起できることと認められるとしても、発明の効果が優先日当時の技術水準から当業者が予測できたものであるとは認められないとして進歩性が認められた。 発明の効果を補強するために提出された証拠の足がかりが明細書に記載されていたことも重要なポイントだろう。
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