ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その5): 東京地裁平成26年(ワ)766
【背景】
「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」を指定商品とする商標権(第4942833号の2)を有する原告(興和)が、被告(共和薬品工業)が薬剤に付した被告標章「ピタバ」が原告の商標権の登録商標(PITAVA)に類似すると主張して、被告に対し、被告標章を付した薬剤販売の差止め及び廃棄を求めた事案。
【要旨】
主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
裁判所は、被告各標章の使用は商標的使用に該当せず、また、本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号)に該当するから、本件商標権に係る商標登録は無効審判により無効とされるべきものであって、原告は本件商標権を行使することができないと判断した。その理由は以下のとおり。
争点(2)(被告各標章の使用が商標的使用に当たるか)について
「被告各標章は,あくまで被告各商品の有効成分であるピタバスタチンカルシウムを示すものにすぎず,それ自体出所識別機能を有するものと認めることはできないから,その使用は商標的使用に該当しない。」
争点(4)(本件商標権に係る商標登録が無効審判により無効とされるべきものと認められ,又は原告による本件商標権の行使が権利の濫用に当たるか)について
「本件商標に係る商標登録出願は,本件特許権の存続期間満了後,原告のライセンシー以外の者による後発医薬品の市場参入を妨げるという不当な目的でされたものであることが推認されるばかりか,本件商標を指定商品「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」に使用することを原告に独占させることは,薬剤の取違え(引いては,誤投与・誤服用による事故)を回避する手段が不当に制約されるおそれを生じさせるものであって,公共の利益に反し,著しく社会的妥当性を欠くと認めるのが相当である。
なお,付言するに,原告のような先発医薬品を製造販売する者が後発医薬品の市場参入を阻止したいと考えること自体は,無理からぬところであるが,その手段は,特許権など医薬品それ自体に関する権利の行使によるべきであって,化合物の一般的名称である「ピタバスタチンカルシウム」の略称として用いられる「PITAVA」の文字を標準文字で書してなる本件商標と,薬剤の取違えを回避するため被告商品の錠剤表面に印字された「ピタバ」(有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称として用いられることは,前示のとおりである。)との文字からなる標章(被告標章)とが類似する旨主張することは,公益上,容認することができないというべきである。
~上記検討したところによれば,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号,46条1項1号)に該当し,本件商標権に係る商標登録は,無効審判により無効とされるべきものと認められるから,原告は本件商標権を行使することができない。」
【コメント】
今までのPITAVA事件(下記関連判決)で、商標法4条1項7号の該当性については、原告が主張していた争点ではあったが、裁判所による判断はされていなかった。本件では、その点についても始めて裁判所は判断した。
後発品の市場参入を防ぐアイデアとしてはおもしろいチャレンジではあったが、公序良俗とまで言われると、さすがにやりすぎた感は否めないものとなってしまった。
関連判決:
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