ダブルバッグ方式のビタミンB1入り経静脈用栄養輸液製剤: 知財高裁平成25年(行ケ)10089
【背景】
味の素が保有していた「2室容器入り経静脈用総合栄養輸液製剤」に関する特許4120018(後にエイワイファーマに承継)について、被告(大塚製薬工場)がした特許無効審判請求を一部成立とした審決(無効2011-800164号)の取消訴訟である。争点は,進歩性判断の当否。
2011.02.01 「大塚製薬工場 v. 味の素」 知財高裁平成22年(行ケ)10133の判決確定後に行われた訂正請求後の請求項1に係る発明が問題となった(下記)。
請求項1:
A;連通可能な隔離手段により2室に区画された可撓性容器の第1室にグルコース及びビタミンとしてビタミンB1のみを含有し,pHが2.0~4.5に調整された輸液が収容され,第2室にアミノ酸を含有する輸液が収容され,その第1室及び第2室に収容されている輸液の一方又は両方に電解質が配合された輸液入り容器において,
B;第1室の輸液にビタミンB1として塩酸チアミン又は硝酸チアミン1.25~15.0mg/Lを含有し,メンブランフィルターで濾過して充填し,
C;且つ第2室の輸液に安定剤として亜硫酸塩0.05~0.2g/Lを含有し,
D;更に2室を開通し混合したときの亜硫酸塩の濃度が0.0136~0.07g/Lとなるように亜硫酸塩を含有し,メンブランフィルターで濾過して充填し,更に高圧蒸気滅菌が施されてなり,
E;2室を開通し混合後,48時間後のビタミンB1の残存率が90%以上であることを特徴とする脂肪乳剤を含まない2室容器入り経静脈用総合栄養輸液製剤。
本願発明と引用発明との相違点:
1:本件発明は,第1室に,ビタミンとしてビタミンB1のみを配合するのに対して,引用発明は他のビタミン類も含んでいること。
2:本件発明は,第2室の輸液に安定剤として亜硫酸塩0.05~0.2g/Lを含有し,更に2室を開通し混合したときの亜硫酸塩の濃度が0.0136~0.07g/Lとなるように含有させて,2室を開通し混合後,48時間後のビタミンB1の残存率が90%以上であることを特定しているのに対して,引用発明では,第2室の輸液に安定剤として亜硫酸塩0.5g/Lを含有し,連通したときに約0.136g/Lとなることのみ特定されていること。
3:本件発明は高圧蒸気滅菌を施すことを特定しているのに対して,引用発明はそのような特定がない点。
4:本件発明は輸液をメンブランフィルターで濾過して容器に充填することを特定しているのに対して,引用発明ではそのような特定がない点。
【要旨】
主文
特許庁が無効2011-800164号事件について平成25年2月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明の認定誤りに伴う一致点の認定の誤り,相違点の看過)について
(省略)
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
(省略)
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
「審決は,引用例3の記載を踏まえれば,引用発明のピーエヌツイン-2号の2室開通後のビタミンB1の安定性を改善する動機があると判断した。
確かに引用例3には,~2室開通後48時間経過した場合には,ビタミンB1の残存率が低下することが示されているが,それとともに,6時間経過後であれば安定性に問題はなく,24時間経過後であっても8割程度以上が残存していることも示されている。他方,ピーエヌツイン-2号は2室合計1100ミリリットル入りであって,通常これを用いた点滴注入は,直前に第1室と第2室が開通され,その後,8~12時間程度で終了するものと認められる。そうすると,引用例3の記載を踏まえても,引用発明の2室開通後,点滴終了後までのビタミンB1の安定性が不十分であると当業者が認識することはない。
したがって,引用例3の記載を踏まえれば,引用発明の2室開通混合後のビタミンB1の安定性を改善する動機があるとの審決の判断には,誤りがある。」
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について
「審決は,高圧蒸気滅菌は,輸液製造分野において汎用されている上に,ビタミンB1を配合した2室容器入り輸液製剤に対しても適用されている手段であるから,引用発明に適用することは当業者が適宜なし得ることである旨判断した。
しかし,~引用例1は,第1室に混注した後のビタミン類の安定性について検討した結果,医療機関等のクリーンベンチ内で第1室にマルチビタミン剤を混注し,混注した口に専用キャップをしたピーエヌツイン-2号を,アルミ外包装に脱酸素剤と一緒に入れポリシーラーにより閉じたものを14日分まで患者に交付できることを報告する論文であるから,引用例1から導き出される引用発明において,マルチビタミン剤混注後のピーエヌツイン-2号を滅菌することは予定していないと認められる。したがって,たとえ輸液製剤を高圧蒸気滅菌することが周知であるとしても,引用発明に適用する動機付けはない。むしろ,一般にビタミン類は熱や光によって分解されやすいという技術常識からすれば,マルチビタミン剤を混注した後のピーエヌツイン-2号を高圧蒸気滅菌すると,ビタミン類が分解されてしまい,アシドーシス予防効果を充分に達し得ないことにもなりかねないから,高圧蒸気滅菌することには阻害要因があるといえる。
以上のとおり,審決の上記判断には誤りがある。」
結論
「以上のとおり,取消事由1,2には理由がないが,取消事由3,4は理由があり,取消事由5について判断するまでもなく,原告の請求は理由がある。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。」
【コメント】
阻害要因があるとされた。
(株)大塚製薬工場は、ダブルバッグ方式のビタミンB1入り経静脈用栄養輸液製剤「ビーフリード®輸液」を製造販売している。本件特許クレームが「ビーフリード®輸液」を包含するのかどうかは定かではないが、もしそうであるとしたら、大塚製薬工場にとってはどうしても無効にしておきたい存在ということになる。一方、エイワイファーマ(株)は、「ビーフリード®輸液」と同効薬である「パレセーフ®輸液」を製造販売している。エイワイファーマ(株)にとって本件特許は「パレセーフ®輸液」を保護する特許であるのかもしれない。
味の素と大塚製薬工場とは下記判決のとおり輸液関連で何かと争い続けている。
- 2005.11.21 「味の素 v. 大塚製薬工場」 知財高裁平成17(行ケ)10235
- 2005.11.29 「味の素 v. 大塚製薬工場」 知財高裁平成17(行ケ)10066
- 2011.02.01 「 大塚製薬工場 v. 味の素」 知財高裁平成22(行ケ)10133
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