最終比率と最終濃度: 知財高裁平成24年(行ケ)10443
【背景】
原告ら(シーエスエルおよびモナシュユニバーシティ)が有する「安定化された成長ホルモン処方物およびその製造方法」に関する特許(第4255515号)を無効とした審決(無効2011-800051)の取消訴訟。争点は新規性。引例との対比において下記請求項の「最終濃度」の意義が問題となった。
請求項1:
成長ホルモンと,緩衝剤と,安定化有効量の少なくとも1種のプルロニック(登録商標)ポリオールとを含んでなる安定な成長ホルモン治療用医薬液状処方物を製造する方法であって,
処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に,成長ホルモンがさらされないような条件下,かつ,処方物中の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度の2倍より高い濃度の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールに,成長ホルモンがさらされないような条件下で,成長ホルモンを,緩衝剤および1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールと混合することを含んでなり,
ここで,処方物におけるプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度が0.08~1.0%w/vであり,
処方物のpHが5.0~6.8である,方法。
【要旨】
主文
1 原告らの請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
当裁判所は,審決には原告らの主張する新規性判断の誤りはなく,進歩性判断の誤りの有無について判断するまでもなく,審決に取り消されるべき違法ないと判断する。その理由は次のとおりである。
原告らは,文献7に,引用発明におけるゲル濾過カラム上での緩衝液交換に際して用いられた溶離緩衝液が緩衝剤及び非イオン界面活性剤を「最終比率」で含有するとあるのは,各成分間の割合が最終的に得られる溶液における各成分間の割合と同じであることを指すのであり,これを,緩衝剤及び界面活性剤の濃度が最終的に調製される製剤の濃度すなわち「最終濃度」に等しいことであるとする審決の認定判断は誤りであると主張する。
上記「最終比率」については,①水性ヒト成長ホルモン製剤中の上記三成分間の割合(この場合,製剤中の三成分の各濃度は最終濃度に比例した濃度となる。),②上記三成分の各最終濃度,のいずれかに解釈する余地がある。しかるところ,引用発明が,非イオン界面活性剤を0.1ないし5%(w/v)含む緩衝液により水性ヒト成長ホルモン製剤の安定化を達成しようとするものであり,「〈B.製剤調製〉」の目的が,かかる効果を示すための安定性確認試験において用いる水性ヒト成長ホルモン製剤を調製することにあることに照らすと,ここにおけるゲル濾過カラム上での溶離緩衝液交換とは,緩衝液を上記濃度の非イオン界面活性剤を含む水性ヒト成長ホルモン製剤の緩衝液に交換する操作と考えるのが自然である。これに対し,引用発明の特徴や上記製剤調製の目的に照らすと,ヒト成長ホルモンとその他の三成分の量比に着目する動機はないから,上記「最終比率」を三成分間の割合と解することは不自然である。以上によれば,引用発明におけるゲル濾過カラム上での緩衝液交換に用いる溶離緩衝液は,水性ヒト成長ホルモン製剤における濃度と等しい三成分の濃度を含むものであって,上記「最終比率」とは最終濃度を意味するとともに,緩衝液交換後の希釈に用いる溶液も最終濃度の溶離緩衝液であると解するのが妥当である。よって,これと同旨の審決の引用発明の認定判断に誤りはない。
【コメント】
本願発明と引用発明との対比判断において、引用発明の「最終比率」の意義が、本願発明の「最終濃度」に想到するかどうかが問題となった。
ノボ・ノルディスク(Novo Nordisc)A/Sは、独自の遺伝子組換え技術を用いて開発したソマトロピン(somatropin)(遺伝子組換え)のリキッドタイプ製剤(ノルディトロピン®)を販売している。製剤の組成には、緩衝剤としてL-ヒスチジン、界面活性剤としてポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールが含有されており、溶液及び溶解時のpHについてはpH:6.0~6.3となっている。
参考:
- Federal Court of Australia: CSL Limited v Novo Nordisk Pharmaceuticals Pty Ltd (No 2) [2010] FCA 1251 (18 November 2010)
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