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2013.02.12 「MIT v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10071

併用医薬の薬理試験結果と実施可能要件: 知財高裁平成24年(行ケ)10071

【背景】

「処方した人の脳シチジンレベルを上昇させる薬を調合するためのウリジンの使用方法及び同薬として使用する組成物」に関する出願(特願2000-562028; 特表2003-517437; WO00/006174)の拒絶審決(不服2008-23607号)取消訴訟。

審決は、本件出願は実施可能要件を満たしていないから拒絶すべきであると判断した。

請求項7(本願発明):

処方した人の脳シチジンレベルを上昇させる経口投与薬として使用する,(a)ウリジン,ウリジン塩,リン酸ウリジン又はアシル化ウリジン化合物と,(b)コリン及びコリン塩から選択される化合物と,を含む組成物。

【要旨】

主 文

原告の請求を棄却する。(他略)

裁判所の判断(抜粋)

1 実施可能要件の判断

(1) 請求項7に係る本願発明は,(a)ウリジン,ウリジン塩,リン酸ウリジン又はアシル化ウリジン化合物,及び,(b)コリン又はコリン塩,の2成分を組み合わせた組成物が人の脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用を示す経口投与用医薬についての発明である。
そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したといえるためには,薬理試験の結果等により,当該有効成分がその属性を有していることを実証するか,又は合理的に説明する必要がある。

本願明細書には,例2として,アレチネズミに前記(a)成分であるウリジンを単独で経口投与した場合に,脳におけるシチジンのレベルが上昇したことが記載されているものの,(a)成分と(b)成分を組み合わせて使用した場合に,脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験の結果は示されておらず,(b)成分単独で脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験結果も示されていない。また,(b)成分であるコリン又はコリン塩を(a)成分と併用して投与した場合,又は(b)成分単独で投与した場合に,脳のシチジンレベルを上昇させるという技術常識が本願発明の優先日前に存在したと推認できるような記載は本願明細書にはない。

そうすると,詳細な説明には,本願発明の有効成分である(a)及び(b)の2成分の組合せが脳シチジンレベルを上昇させるという属性が記載されていないので,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したということはできない。したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に規定する要件を満たさない。この趣旨を説示する審決の判断に誤りはない。

(2) 原告は,取消事由1において,本願明細書の記載を援用するが,いずれも上記判断を左右するものではない。取消事由1における原告のその余の主張も,脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用に関して裏付けるものではない。

(3) 結局,取消事由1は理由がない。

【コメント】

併用医薬の発明において、明細書には、両成分のうち一方の成分単独での薬理効果は記載されているものの、両成分を併用して用いた場合の薬理試験の結果も他方の成分単独での薬理結果も記載されておらず、さらにそれらの場合に薬理作用があることの技術常識が本願発明の優先日前に存在していたと推認できるような記載もなかった。

おそらく、少なくとも、他方の成分単独(本件の場合はコリン)でも薬理作用があるとの技術常識が本願発明の優先日前に存在していたと推認できる合理的な証拠があったならば、併用発明の実施可能要件は認められていたのではないだろうか。

残念ながら、出願人が主張した証拠はいずれも本件出願後に公開された文献のみだったようである。

対応する複数の米国出願はいずれもウリジンの単独投与のクレームとして成立しているが、欧州出願は最終的に併用クレームに補正されて成立した(EP1140104(B1)、EP1870103(B1))。しかし、薬理データの有無で実施可能要件が問題となった様子はなさそうである。

参考:

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