先使用による通常実施権を認めた事例: 知財高裁平成24年(ネ)10016
【背景】
原判決(2012.01.26 「田岡化学工業 v. 大阪ガスケミカル」 大阪地裁平成22年(ワ)9102)は、特許権者である田岡化学工業(控訴人)の請求を全部棄却したため、控訴人が原判決を不服として控訴した。
【要旨】
主 文
本件控訴を棄却する。(他略)
1 争点3(被控訴人は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか)について
~大阪ガスは本件特許発明2の内容を知らないで自らその発明をしたものであることは明らかであるということができる。また,前記(2)ア(ウ)のとおり,被控訴人は,大阪ガスから被控訴人製品に係る発明の内容を知得したものであることについても優に認めることができる。
したがって,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得し,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。
2 争点1(被控訴人製品は,本件特許発明1の方法により生産したものであるか)について
控訴人は,本件特許発明1は本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを生産する方法の発明であるところ,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFは,本件特許に係る優先権主張日(平成19年2月15日)前に日本国内において公然知られたものではなく,被控訴人製品は,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFと同一の物であるから,特許法104条の規定により,本件特許発明1の方法により生産したものと推定されるものと主張する。
しかしながら,被控訴人製品が,本件特許発明1の方法により生産したものと推定される場合には,前記1のとおり,被控訴人製品は,本件特許の優先権主張日前から,被控訴人の事業として実施されていたのであって,被控訴人は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有する以上,本件特許発明1に係る本件特許権についてもまた,先使用による通常実施権を有するものというべきである。
他方,被控訴人製品が,本件特許発明1の方法により生産したものと推定されない場合にあっては,被控訴人製品が本件特許発明1の方法により生産した物であることに関する主張立証はないから,これを認めることはできない。
そうすると,被控訴人製品が本件特許発明1の方法により生産したものであると推定されるか否かにかかわらず,いずれにしても,本件特許発明1に係る本件特許権に基づく原告の請求は理由がないこととなる。
3 結論
以上の次第であるから,控訴人の本訴請求にいずれも理由がないとした原判決は相当であって,本件控訴は棄却されるべきものである。
【コメント】
本件侵害訴訟の一方で、大阪ガスケミカルは、田岡化学工業の保有する本件特許の無効審判請求(無効2010-800194号事件)は成り立たないとの審決の取消しを求めて訴訟を提起していたが、知財高裁はその請求を棄却した(2012.04.26 「大阪ガスケミカル v. 田岡化学工業」 知財高裁平成23年(行ケ)10225)。大阪ガスケミカルは田岡化学工業の特許を無効にできなかったが、結果的には本件侵害訴訟で非侵害の判決が出て大阪ガスケミカルの勝訴となった。
参考:
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