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2011.12.26 「國際威林生化科技 v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10402

補正要件、サポート要件: 知財高裁平成22年(行ケ)10402

【背景】

「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物,及びその製造方法」に関する出願(特願2003-408761号、特開2005-170797号)の拒絶審決(不服2007-24198)取消訴訟。

【要旨】

ア 取消事由1(新規事項の有無についての判断の誤り)について

「本件補正(第2次補正)は,本願発明(第1次補正)における「・・・キノンからなる群から選択される酸化能力を有する試薬」との記載を「・・・酸化能力を有する試剤は,アズレンキノン,1,2-ジヒドロキノン,および1,4-ジヒドロキノンからなる群から選択され」との記載に訂正する内容を含んでいる。しかし,~当業者は,このような名称を有する化学物質がいかなる化学構造を有する物質であるかを理解することができず,そもそも上記補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内か否かを判断することができないので,上記補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということはできない。したがって,「本件補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない」との審決の判断に誤りはない。」

イ 取消事由4(目的要件の判断の誤り-「添加剤(C)」の内容を6種類に限定することは「減縮」に当たる)について

「本件補正後の請求項1(本願補正発明)「添加剤(C)」として列記されている~「硫酸カルシウム」及び「塩化マグネシウム」は,本件補正前の「添加剤(C)」には含まれない。したがって,~本件補正は特許請求の範囲の減縮ということはできないから,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものではなく,審決の判断に誤りはない。」

ウ 取消事由5(独立特許要件〔サポート要件〕の判断の誤り)について

「本願の当初明細書には,~成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用する組成物については,発明の詳細な説明に具体的データの記載がなく,また,本願の組成物が脂肪酸やDNAを分解するメカニズムを説明する記載もなく,~組成物中の各成分が果たす役割を実証する記載もない。他方,本件補正後の請求項1の記載によって特定される3つの成分を組み合わせることにより,脂肪酸やDNAが分解でき,その結果,バクテリア,ウイルス及び真菌類を破壊,殺菌できることについて,具体例をもって示さなくとも当業者が理解できると認めるに足りる技術常識はない。
そうすると,本願の組成物の成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用するものが,脂肪酸やDNAを分解でき,バクテリア等を破壊,殺菌するという課題を解決できるということはできないので,本願における発明の詳細な説明は,本件補正の請求項1の記載によって特定される成分(A)のMの全ての範囲において所期の効果が得られると当業者において認識できる程度に記載されているということができない。したがって,本件補正後の請求項1(本願補正発明)の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」(サポート要件充足)ということはできない。

~原告は,「銅」以外の各種金属イオンを含有する抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物を本願明細書の実施例1と同じ手順で調製し,実験例1及び2で述べた手法で検証したところ,金属イオン化合物が本願補正発明において触媒機能を発揮し,これらの化合物を使用して組成物を調製した場合においても所望の抗菌,抗ウィルス及び抗真菌作用を奏することが示されたと主張する。しかし,明細書等に記載されていなかった事項について,出願後に補充した実験結果等を参酌することは,特段の事情がない限り,許されないというべきところ,原告が主張する上記実験結果は本願の当初明細書に記載されておらず,それがいつ,どこで行われた実験であるか明らかでないばかりか,~上記実験は本件訴訟提起後に行われたと推認されるし,本願の当初明細書又は出願時の技術常識から上記実験の結果が示唆ないし推認されるような特段の事情も認められないから,そもそも上記実験結果を参酌することはできないというべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。」

結論

「以上のとおりであるから,本件補正には新規事項追加禁止違反(改正前特許法17条の2第3項),目的要件違反(17条の2第4項)及び独立特許要件違反(36条6項1号等)があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件補正を却下すべきものとした審決の結論に誤りはない。」

請求棄却。

【コメント】

出願人の補正はどう考えても無理があったのでは。
また、当初明細書等に記載されていなかった事項について、サポート要件違反を解消するために出願後に補充した実験結果等を参酌することは、特段の事情がない限り許されない。

参考:

特許・実用新案審査基準 第Ⅰ部第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件

2.2.1.5 第36条第6項第1号違反の拒絶理由通知に対する出願人の対応
出願人は第36条第6項第1号違反の拒絶理由通知に対して意見書、実験成績証明書等により反論、釈明をすることができる。

(1)違反の類型(3)について(2.2.1.3(3)参照)
出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができないと判断された場合は、出願人は、例えば、審査官が判断の際に特に考慮したものとは異なる出願時の技術常識等を示しつつ、そのような技術常識に照らせば、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できることを、意見書において主張することができる。また、実験成績証明書によりこのような意見書の主張を裏付けることができる(事例6,7,21参照)。

ただし、発明の詳細な説明の記載が不足しているために、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができるといえない場合には、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補うことによって、請求項に係る発明の範囲まで、拡張ないし一般化できると主張したとしても、拒絶理由は解消しない(事例4,5,8,9参照)。(参考:知財高判平17.11.11(平成17(行ケ)10042 特許取消決定取消請求事件「偏光フィルムの製造法」大合議判決))

(2)違反の類型(4)について(2.2.1.3(4)参照)
請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっていると判断された場合は、出願人は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すれば、審査官が示した課題や課題を解決するための手段とは異なる課題や課題を解決するための手段を把握可能であり、請求項にはその課題を解決するための手段が反映されている旨の反論を行うことができる。

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