プラバスタチンナトリウムのプロダクト・バイ・プロセス・クレーム: 東京地裁平成20年(ワ)16895
【背景】
「プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物」に関する特許権(特許第3737801号。国際出願PCT/US01/31230、国際公開WO02/030415、特表2004-510817)を有する原告(テバ)が、被告(東理)による被告製品の輸入及び販売行為は上記特許権を侵害すると主張して、被告製品の輸入・販売の差止め等を求めた事案。
協和発酵キリンがした無効審判請求事件(無効2008-800055)において原告は請求項1を訂正した。
請求項1(訂正請求に係る訂正部分を下線で示す。):
「次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
e)プラバスタチンナトリウムを単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」
【要旨】
裁判所は、
「本件訂正は,特許法所定の訂正要件を充たすものであるものの,訂正後の請求項1に係る特許について無効理由(乙5公報(WO00/17182)を主引例とする容易想到性)があるといえる。また,本件訂正は,プラバスタチンナトリウムに混入されるプラバスタチンラクトン及びエピプラバの量を限定するものであるから,上記3に説示したところに照らすと,本件訂正前の請求項1に係る特許についても,訂正後の請求項1に係る特許と同様の無効理由(乙5公報を主引例とする容易想到性)があることは明らかである。したがって,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであると認められるから,原告は,被告に対して本件特許権を行使することはできない(特許法104条の3)。」
と判断した。
請求棄却。
【コメント】
本事案で問題となった特許(特許第3737801号)については、別事件で下記知財高裁判決でも争われた。
- 2012.01.27 「協和発酵キリン v. テバ」 知財高裁平成21年(行ケ)10284
- 2012.01.27 「テバ v. 協和発酵キリン」 知財高裁平成22年(ネ)10043
- 2008.01.28 「テバが協和発酵を相手取って特許権侵害訴訟を提起(メバロチン)」
なお、プラバスタチンナトリウムの先発品メバロチン®(Mevalotin)を販売していた三共(第一三共)は、本事案で問題となった特許とほぼ同じ内容であって、製造方法に特徴を有する「プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」の特許出願(特願2001-237749)をしたが、特許庁からWO00/46175公報を引用文献として進歩性の拒絶理由通知を受けている。
このWO00/46175公報は上記の知財高裁大合議判決2012.01.27 「テバ v. 協和発酵キリン」 知財高裁平成22年(ネ)10043において特許発明の進歩性を否定した引用文献となった。
また、上記三共の特許出願は特許となったが(特許第3463875号)、その後、本事案で問題となった特許の出願明細書に記載された発明と同一であるから特29条の2に違反するとして無効となった(2006.06.26 「三共 v. テバ」 知財高裁平成17年(行ケ)10781)。上記知財高裁大合議判決において、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨の認定の判断が示されたが、この事件(2006.06.26 「三共 v. テバ」 知財高裁平成17年(行ケ)10781)においては、当時、知財高裁はプロダクト・バイ・プロセス・クレームを「物同一説」により判断していた。
テバのプラバスタチンナトリウムに関する特許をめぐる争いは、先発メーカだけでなく後発品メーカーも巻き込んだ事件となったが、プロダクト・バイ・プロセス・クレームについての特許発明の技術的範囲及び発明の要旨の認定の判断の考え方が知財高裁大合議判決によって示されたことで、以後収束すると考えられる。
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