固定された医薬的組合せ組成物とは?: 知財高裁平成22年(行ケ)10158
【背景】
「バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーの抗高血圧組合わせ」に関する出願(特願2000-558803号、特表2002-520274号、WO2000/002543)について下記本件補正は補正要件を充足せず却下した上で本願発明と引用発明に相違する点はないとした拒絶審決(不服2005-23932号)の取消訴訟。
本件補正後の請求項7:
(i)バルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と,
(ii)アムロジピンまたはその薬学的に許容される塩を,
医薬的に許容される担体とともに含む,医薬的組合せ組成物。
審決での補正却下の原因は、「医薬的組合せ組成物」の形態については何ら限定するものではない本件補正後の請求項7が、「医薬的組合せ組成物」の形態が「固定された」ものに限定される本件補正前の請求項12~14のいずれかを減縮するものとはいえないというものだった。
【要旨】
裁判所は、
「本件補正を一体のものとして扱った審決に誤りはないことは既に判断したとおりである。また,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をする特許庁の実務を支持できることも前記のとおりである。したがって,本件補正前の請求項12についてのみ特許要件の判断をした上で,これに新規性がないことを理由に請求不成立とした審決に,原告主張の判断遺脱はない。」
と裁判所は判断した。
また、本件補正前の請求項12と引用発明との相違点については具体的には下記のように検討された。
本願発明12:
(i)AT1レセプターアンタゴニストバルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と,
(ii)カルシウムチャンネルブロッカーである遊離形または塩形のを,
医薬的に許容される坦体(ママ)とともに含む,固定された医薬的組合せ組成物。
引用例には、バルサルタンとニフェジピンの投与方法に関し、
①2種の薬剤の懸濁液を別個に用意し、2回に分けて連続して注入投与したのか、
②2種の薬剤を同一の懸濁液に溶解し、一度に注入投与したのか
は記載されていなかった。
原告は、引用発明は上記①の単なる併用実験であると認定されるべきであると主張したが、裁判所は、いずれの方法であっても引用例に記載された実験の目的を達成する上では相違がないこと等からすれば、引用例の記載された発明として上記②の方法は排除され,①の方法に限られるとすることはできないというべきであると判断した。
また、本願発明12における「固定された」の意義について、裁判所は、
「~「医薬的組合せ組成物」を「固定された」なる一義的に明らかでない用語で特定しようとするときのその「固定された」とは,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が特定の数値(又は数値範囲)に固定されていることを意味するものということはできても,これを超えて,2種の医薬が別個に存在したとして,これを2回に分けて逐次投与するのか,それとも,2種の医薬を混合して1回で投与するのかの限定が規定されたものと解することはできない。」
と判断した。
そして、本願発明12と引用発明の対比判断において、裁判所は、
「引用発明は,バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーを医薬的に許容される担体とともに含み,前記(4)で認定した意味にとどまる趣旨での固定された医薬的組合せ組成物である。
そうすると,本願発明12と引用発明は,バルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカー(引用発明においてはニフェジピン)を医薬的に許容される坦体(引用発明においてはCMC-Na)とともに含む医薬的組合せ組成物であって,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が特定の数値(又は数値範囲)が固定された(引用発明においてはバルサルタンをラットの体重1kg 当たり3mg 及びニフェジピンをラットの体重1kg 当たり1mg 含有するよう固定され,かつ,バルサルタンとニフェジピンの配合比が3:1に固定された)医薬的組合せ組成物で一致し,両者に相違点はない。
したがって,本願発明12と引用発明が同一であるとした審決の判断に誤りはない。」
と判断した。
請求棄却。
【コメント】
本件補正の「バルサルタン(Valsartan)とアムロジピン(Amlodipine)」の組み合わせ組成物は、日本では、エックスフォージ®配合錠(EXFORGE® Combination Tablets)として2010 年1月20日に製造販売承認され、原告(ノバルティス)が販売している。エックスフォージ配合錠は、世界で降圧剤として広範に使用されている、アンジオテンシンⅡ受容体サブタイプ1に作用する選択的AT1受容体ブロッカーであるバルサルタンと持続性Ca拮抗薬であるアムロジピンの配合剤である。また、エックスフォージに利尿剤を加えた3剤の配合剤であるエックスフォージHCTが米国では既に上市されている。
補正却下のそもそもの原因は、「医薬的組合せ組成物」の形態を「固定された」ものに限定していた請求項から、「固定された」という限定を除いた本件補正をしたことにあった。この「固定された」との限定を補正せずに残しておけば、補正却下されず、引用発明との相違点を勝負できたと想像できる(それでも認められるかどうかは難しい気がするが。)。
バルサルタン関連:
コメント
この事件、上告(受理申立)されているようですが、もう1年以上たつのに、まだ最高裁の判断が示されませんね。
コメントありがとうございます。