「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案が作成され、意見募集が行われています。意見提出期限は2011年12月1日となっています。下記のような問題点があるのではないかと思いますが。
- 最高裁判決の限定的な判断との整合は取るにしても、他の知財高裁で示されている判示事項に基づく考え方(事務局案1)との整合を取らなくてもよいのか。その結果、法律上定められている特許権者の権利を、審査基準で限定的に狭めていることになるのではないか。
- 「医薬発明」の審査基準によれば、「医薬用途」とは、(i)特定の疾病への適用、又は、(ii)投与時間・投与手順・投与量・投与部位等の用法又は用量(以下、「用法又は用量」という。)が特定された、特定の疾病への適用、を意味する。つまり、上記(ii)のような用法・用量で特定された、特定の疾病への適用も用途である。審査基準上で医薬用途発明として認めている。一方で、改定案(2.4 願書の記載事項)では、用途とは、「原則として、医薬品の場合は効能・効果」としている。医薬用途発明の審査基準で定めた「用途(用法用量による特定も含む)」の概念と、特許権延長登録出願の審査基準改定案で意味している「用途」の概念はどのように整合させられるだろうか。具体的には、用法又は用量についての追加承認時の取り扱い、小児適用追加承認の取り扱い等。
- 審査基準改定案の3.1.1(2)の例5を説明する基本的な考え方が明確でない。なぜ例5の請求項2(注射剤限定)が錠剤の先行処分によって結果的に実施できるようになっているといえるのか、理解し難い。改定案によれば「先行処分によって実施できるようになっているか否かの判断に当たっては、通常、複数の請求項のうちの発明特定事項が最も少ない請求項から検討する」としているが、最高裁判決で示された「先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない」との判示事項と全く相反しているのではないか。下記知財高裁判決でも、発明特定事項が最も少ない請求項1~11は実施できるようになっていたという場合であっても、請求項12では実施できるようになっていたとは認められず延長登録が認められている。
- 有効成分を複数含有する合剤、または、他の有効成分との併用について追加承認を得た単剤について、単一の有効成分「物質A」のみをクレームした物質特許は延長登録が認められるのか。具体的には、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」は「物質A」となってしまうのか、それとも、クレームには記載されていない本件処分の併用相手である有効成分も「発明特定事項に該当する事項」として捉えるという取り扱いをするのか?
- 物の製法特許についての取り扱いについての記載が、改定案では削除されているが、具体的にどのように取り扱うのか明記すべきでは。
- 2012年4月1日に予定されている法改正が施行されると通常実施権の登録は不要となるが、特許権者と処分を受けた通常実施権者との関係を確認するために、特許庁はどのような手続きを延長登録出願人に求めるのか。
- これまで認められてきた延長登録において、改定案に基づけば無効理由を有する登録が出てくるのかわからないが、いずれにしてもこの改定案はretroactiveに適用されるのか。
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