スポンサーリンク

2009.11.19 「ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10097

特許発明を実施することができなかったのは厚労省側の事情: 知財高裁平成21年(行ケ)10097

【背景】

原告(ノバルティス)が、「シクロスポリン含有医薬組成物」に関する特許第1996397号(出願日: 1989年9月14日; 登録日: 2005年12月8日)の存続期間延長登録出願(2005-700042)についての拒絶審決(不服2008-20590号)に対して取消を求めた事案。

  • 処分の対象となった物: シクロスポリン
  • 処分の対象となった物について特定された用途: 膵移植における拒絶反応抑制
  • 販売商品名: ネオーラル25㎎カプセル

経緯:

  • 2000年3月21日に心移植、肺移植、膵移植及び小腸移植における拒絶反応の抑制を対象として一部変更承認の申請が行われた(「1回目の承認申請」)。
  • 2001年6月20日に心移植についてのみ承認が与えられた。
  • 2002年11月27日肺移植についての効能効果を追加する一部変更承認を申請し、2003年1月31日承認を受けた。
  • 2004年12月1日に膵移植についての承認申請(「本件承認申請」)が行われ、2005年1月26日に承認(本件処分)を受けた。

原告は、1回目の承認申請をした2000年3月12日から承認処分を受けた2005年1月26日の前日(2005年1月25日)までの「4年10月4日」の存続期間延長を求めた。
しかし、特許庁は、

  • 本件承認申請は2005年1月26日になされた本件承認処分は再度の申請である2004年12月1日になされたものに基づくこと、及び
  • 2004年12月1日より前の期間は本件承認処分を受けるために必要な審査資料を用意するに要した期間とは認められないこと

を理由として、本願において処分を受けることが必要であるために特許発明を実施することができなかった期間は2004年12月1日から承認がなされた2005年1月25日までの「1月24日」であり、延長を求める期間はその特許発明を実施することができなかった期間を超えているから本願は特67条の3第1項3号の規定に該当するとし、拒絶審決を下した。

【要旨】

裁判所は、

「膵臓移植に関し,平成12年3月21日に本件承認処分の申請を行い,その後取下書を提出することなく,平成17年1月26日に承認処分を受けており,その間~膵臓移植に関し断念すべき客観的事情は認められないのであるから,厚生労働省担当官が膵移植につき承認を当面行わないと告知した~日から同省担当官が電話連絡した~日までの間は,承認権者たる厚生労働省が保険診療との調整を理由に承認を保留していたにすぎないと認めるのが相当であり,その間は特許権者たる原告が特許発明を実施することができないことも明らかであるから,この期間を期間計算から除外するのは相当でないというべきである。~被告は,前記~3年6月余の期間は,保健医療と調整のための待機期間であって安全性確保のために必要とされる期間ではない等とも主張するようであるが,保健医療との調整を要するという事情は承認権者たる厚生労働省側の事情であって,特許権者たる原告が本件承認処分を受けていないため本件特許発明を実施できないことに変わりはないから,上記3年6月余を前記期間計算から除外することも相当でない。~そうすると,本件においては~「4年10月4日」の期間につき延長登録を認めるのが相当であり~「1月24日」とした審決は事実認定を誤った違法なものというほかない。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

「1回目の承認申請」において、医薬部会としても膵臓への有効性を評価するなど科学的な審査はされている。さらに、ネオーラルについて審査を一時中断したのは、追加効能の薬価適応について保険局との調整がつかなかったという厚生労働省側の事情である。審決が取り消されたのは妥当な判断だろう。

本事件や現在最高裁に上告されている武田事件にしても、特67条の3第1項1号又は同3号について特許権者と特許庁とで解釈が異なっていたという背景がある。存続期間延長登録出願の審査において、審査官の恣意を排除して客観的且つ公正な審査を行ってもらうためにも、また延長された特許権の有効性についての法的安定性を確保するためにも、特67条の3第1項1号及び同3号をもっと具体的に限定列挙するといった法改正が必要ではないか。付焼刃の審査基準の改定ではもう対応しきれない。

本特許はシクロスポリンのマイクロエマルジョン製剤に関するものであり、存続期間は2014年7月まで延長されることとなる。しかし、いくつかのジェネリックは既に参入している。

本判決と同趣旨の判決:

参考:

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました