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2009.05.27 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10476

処分の対象が「特許発明の構成要件として明確に特定され」ていることが必要?: 知財高裁平成20年(行ケ)10476

【背景】

「有核顆粒およびその製造法」に関する特許(第2138026号)の特許権者である原告(武田薬品)が、タケプロンカプセル15(有効成分: ランソプラゾール)の製造承認事項の一変に係る処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2006-700068)をしたが、拒絶査定を受けたので不服審判を請求した。

しかし特許庁は、本件処分が本件特許に係る特許発明の実施に必要な処分であったか否かを判断するに当たり、”設定登録時”の特許請求の範囲の記載に基づくのではなく、”公告時”発明の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の内容を認定、さらに、「医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには少なくともその処分によって特定される『物』すなわち『有効成分』が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するというべきである」とも説示し、本件出願は特67条の3第1項1号の規定により拒絶すべきであるとの理由で審判の請求は成り立たないとの審決をした(不服2007-34782号)。

原告は、これらの点について、本件特許に係る特許発明の内容の認定を誤った違法(取消事由1)及び特許法の解釈・適用を誤った違法(取消事由2)があるから、取り消されるべきであるとして審決取消訴訟を提起した。

【要旨】

取消事由1(本件特許に係る特許発明の内容の認定の誤り)について

裁判所は、

「特67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と規定する。同号にいう「特許発明」とは,「特許法を受けている発明」(特2条2項)を意味するというべきであるから,本件出願について同号の規定する拒絶理由の有無を判断するに当たり,本件特許に係る特許発明の内容は,出願公告時の特許請求の範囲の記載ではなく,設定登録時の特許請求の範囲の記載に基づいて,確定されるべきであることは当然である。~審決は,本件処分が本件特許に係る特許発明の実施に必要な処分であったか否かを判断するに当たり,設定登録時の特許請求の範囲の記載に基づくのではなく,公告時発明の特許請求の範囲の記載に基づいて,特許発明の内容を認定した点において,誤りがあるというべきである。」

と判断した。

被告(特許庁)は、

「特許権の存続期間の延長登録の出願の審査及び審判は,その出願時に出願人が提出した資料に基づいて行われるのであるから,本件出願の願書に添付された本件公告公報の特許請求の範囲の記載に基づいてした審決の認定,判断に,違法はない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「そもそも,特許原簿のように特許庁に備えられているものまで,「証明するため必要な資料」に該当すると解することには疑問があるのみならず,そのことによって,審査,審判を担当する特許庁審査官,特許庁審判官が,特許原簿など特許庁に備えられている資料との照合を省略することが正当化される理由はない。」

と特許庁の主張を退け、結論として、審決は本件特許に係る特許発明の内容の認定を誤ったものであり、この誤りが審決の結論に影響することは明らかであるとして、原告主張の取消事由1は理由があるとし、取消事由2について検討するまでもなく、審決は取消しを免れないと判断した。

また、裁判所は、事案にかんがみ、再開されるべき審判手続における審理に資するよう、特67条2項及び67条の3第1項1号の解釈について下記のとおり見解を付言した。

「特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力が,「政令で定める処分の対象」となった「物」(又は「物」及び「用途」)についてのみ及ぶとする制度の下においては,特許権の存続期間満了後に当該特許発明を実施しようとする第三者に対し,不測の不利益を与えないという観点からの考慮が必要であることはいうまでもない。
しかし,そのような観点から,「政令で定める処分」の対象となった「物」(又は「物」及び「用途」)が,客観的な要素によって特定され,かつ,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載及び技術常識に基づいて,十分に認識,理解できることが必要となるとはいい得ても,特許請求の範囲によって明確に記載されていることが必要となるとはいえない。
したがって,「政令で定める処分の対象」となった「物」(又は「物」及び「用途」)が,特許請求の範囲に明確に記載されていないという理由で,特許権の存続期間の延長登録の出願を拒絶することは,許されないものというべきである。」

審決を取り消す。

【コメント】

特許発明の内容は、”出願公告時”の特許請求の範囲の記載ではなく、”設定登録時”の特許請求の範囲の記載に基づいて確定されるべきであることは当然。特許原簿のように特許庁に備えられているものまで「証明するため必要な資料」として提出しろという特許庁のお役所的スタンスに対して、武田薬品は、出願公告後に補正された資料を審査・審判において特許庁に提出すれば済んだかもしれないのに、御上に逆らって、裁判にまでもつれ込んだというストーリーは面白い。

なお、「特許請求の範囲に処分の対象の記載がないときは当業者といえども延長された特許権の効力が及ぶ範囲を予見することは困難であって~存続期間満了後に特許発明を実施しようとする第三者に不足の不利益を及ぼす不都合が生じる」から、特67条の3第1項1号の該当性を「処分の対象となった物、又は物と用途が、特許請求の範囲に特定されているか否か」によって判断すべきであると特許庁は主張した。しかし、この特許庁の論理はおかしい。「特許請求の範囲に処分の対象の記載がない」場合には、特許権の効力が及ぶ範囲を予見することは困難なのか?

判決文を見る限り、全ての点において特許庁しっかりしてくれと言いたくなる事案である。

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