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2008.07.30 「ファルマシア・アンド・アップジョン v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10377

用途発明の引用適格: 知財高裁平成19年(行ケ)10377

【背景】

「高選択的ノルエピネフリン再取込みインヒビターおよびその使用方法」に関する発明(特表2003-503450)は引例との関係で進歩性なし、とされた拒絶審決に対する審決取消訴訟。

請求項1(本願補正発明1):

ノルエピネフリン再取込みの選択的阻害は望まれるが,セロトニン再取込みの阻害は望まれない慢性疼痛の治療または予防のための医薬組成物であって,該組成物は存在する(S,S)および(R,R)レボキセチンの総重量に基づき,少なくとも90重量%の場合により医薬上許容される塩の形態の(S,S)-レボキセチン,および10重量%未満の場合により医薬上許容される塩の形態の(R,R)-レボキセチンを含むことを特徴とする上記医薬組成物。

引例との相違点:

本願補正発明1が「ノルエピネフリン再取込みの選択的阻害は望まれるが,セロトニン再取込みの阻害は望まれない慢性疼痛の治療または予防のための」ものであるのに対し,引用発明には,このような医薬用途が記載されていない点。

原告は、相違点についての判断の誤り(取消事由1)及び作用効果に関する判断の誤り(取消事由2)を主張した。

【要旨】

1. 相違点についての判断の誤り(取消事由1)について

原告は、

「引用例8(甲4)には,ノルエピネフリン再取込み阻害剤が疼痛症候群に対し有用であることを示す臨床試験結果や動物試験結果等は何ら記載されておらず,この点を裏付ける理論的な説明もないから,引用例8をもってノルエピネフリン再取込み阻害剤が「慢性疼痛の治療または予防のため」に有用であることの示唆があるということはできない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用例8~の内容は,前記のとおり,新しい抗アドレナリン性再取込み阻害抗うつ薬であるレボキセチンの臨床試験の概説に続いて,選択的抗うつ作用をよりよく理解するための発見的な理論上の枠組みを提示するというもので,多くの臨床試験の報告や論文を引用するものである。このような論文の性質及び内容に鑑みれば,引用例8に接した当業者は,著者が,根拠のない単なる希望や空想ではなく,専門家として,レボキセチンに関する多くの臨床例や論文を検討した上で,ノルエピネフリン再取込み阻害剤が疼痛症候群に対し有用である旨の見解を記載していると考えるのが自然であり,このことは,引用例8に上記見解に至った具体的臨床試験結果や動物試験結果,論理的な説明の記載があるかどうかにより左右されるものではない。~

また、~甲14文献には,抗うつ剤は長い間慢性疼痛症候群に用いられ,有効性が示されているが,抗うつ剤が鎮痛作用をもたらす詳細なメカニズムは不明であること,ノルエピネフリンとセロトニンの両方の再取込みを阻害する抗うつ剤とSSRIの実験結果の対比から,疼痛症候群におけるそれらの使用を支持するのはノルエピネフリン性構成要素であることが示唆されていること,ノルエピネフリン再取込み阻害剤であるレボキセチンにおける更なる研究により,この問題が明らかにされ得るものと考えられていることが記載されているのであって,その発行当時,抗うつ剤の慢性疼痛症候群に対する鎮痛効果についての有効性が確認されており,抗うつ剤が鎮痛作用をもたらす詳細なメカニズムが不明であるとしても,今後,ノルエピネフリン再取込み部位を選択的に阻害するノルエピネフリン再取込み阻害剤を用いた更なる研究により解明が進むことが期待されていたことが認められる。そして,このような状況は,これと時期を接した本願優先日(1999年〔平成11年〕7月)当時においても同様に当てはまるというべきである。
そうすると,抗うつ剤として用いられるノルエピネフリン再取込み阻害剤が慢性疼痛症候群に対して有効であることは,本願の優先日当時,十分可能性のあるものとして理解されていたものというべきであるから,引用例8における上記記載は根拠を有するものというべきである。」

とし、原告の主張は採用することができないと判断した。

2. 作用効果に関する判断の誤り(取消事由2)について

裁判所は、

「Ki値比が高いことから本願補正発明1の医薬組成物が治療上有用なものである可能性があることは理解できるのであるが,このような可能性は引用例3において既に示された知見であって,本願補正発明1の進歩性を肯定する根拠となるものではない」
そして、
「Ki値比の差がそのまま薬理効果又は副作用の差を示すものとして評価できるものとまでは認められないから,このような本願明細書の記載を前提としては,(S,S)-レボキセチンが,主要なセロトニン症候群を引き起こさない点で顕著な効果を奏するということはできない。」

とし、原告の主張は採用することができないと判断した。

請求棄却。

【コメント】

一般的に、引例に用途が示唆されているに足るといえるには、どの程度の根拠が必要とされるのか。引例が示唆する用途の記載が、「根拠のない単なる希望や空想」なのか、「根拠のある見解」なのか、そのボーダーラインはいつも問題となるところである。

本事案において、裁判所は、「選択的抗うつ作用をよりよく理解するための発見的な理論上の枠組みを提示するというもので,多くの臨床試験の報告や論文を引用するものである。」というような「論文の性質及び内容」を鑑みて、引用例8を「根拠のある見解」と判断している。

出願人は分割出願しており、現時点ではまだ最終決着には至っていないようだ。

一方、日本と異なり、欧米では、同引例が特許庁に提出されているにもかかわらず、慢性疼痛用途で特許化に成功している。

  • US6,465,458B1What is claimed is:
    1. A method of treating an indivisual suffering from chronic pain, the method comprising the step of administering to the indivisual a therapeutically effective amount of a composition comprising an optically pure (S,S) reboxetine, or a pharmaceutically acceptable salt thereof, said compound being substantially free of (R,R) reboxetine.
  • EP1196172B1Claims
    1. The use of optically pure (S,S)-reboxetine, or a pharmaceutically acceptable salt thereof, in the manufacture of a medicament for the treatment or prevention of chronic pain, wherein the optically pure (S,S)-reboxetine or pharmaceutically acceptable salt thereof comprises at least 90 wt.% of (S,S)-reboxetine and less than 10 wt.% of (R,R)-reboxetine, based on the total weight of the (S,S) and (R,R) reboxetine present.

参考:

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