副生成物の技術的意義: 知財高裁平成19年(行ケ)10160
【背景】
「フェノール性化合物及びその製造方法」に関する特許(特許第3403178号)の無効審決(無効2005-80195号)を不服として、特許権者である原告(新日鐵化学)が審決の取消しを求めた事案。
そもそも「主成分」でる一般式(1)化合物(nが0)には新規性に問題があったため、主な争点は、一般式(1)化合物製造時の副生成物である「少量成分」を含有するという構成要件を加えた従属クレーム(請求項3)の新規性・進歩性の判断であった。
請求項1に記載のフェノール性化合物を主成分とし,一般式(1)において,nが1~15の整数のフェノール性化合物を少量成分として含有するフェノール性化合物。
【要旨】
(1) 本件発明3と甲1発明における各少量成分の相違点
について裁判所は、
「甲1の記載からは,反応生成物である上記黄褐色の粉末には,n=0体(のうちのp,p’-体)であるBP-DIPBP が主成分として含まれており,BP-DIPBP 以外の化合物(副生成物)も少量含まれていることは理解できるが,少量含まれている化合物が何であるかについては不明である。したがって,甲1の記載からは,n≧1体を含むことは明らかとはいえず,甲1には,n=1体を含有する組成物に関する発明が開示されているということはできない。」
として、新規性を否定した審決判断には誤りがあるとした。
しかしながら、
(2) 本件発明3の樹脂の効果の顕著性
について裁判所は、
「上記1(1)のとおり,本件発明3においては,n≧1体が少量成分として存在することの技術的意義が,本件訂正明細書の記載をみても不明であるということができる。その実施例で,n≧1体が少量成分として含むものが用いられているとしても,そのことをもって,n≧1体を少量成分として含むことに意義を見いだしたということもできないものである。したがって,本件発明3が,n≧1体を少量成分として含むことにより,格別顕著な効果を奏するものということはできない。
ちなみに,請求項3にはn≧1体の含有量についての規定がなく,原告がいうところの実質的な量のn≧1体を含んでいないものも請求項3の記載に包含され,エポキシ樹脂の原料として,原告が主張するような所定の効果を奏さないものも請求項3は除外していないものと認められるところである。」
と判断し、
「本件発明3につき,甲1発明であるということはできないが,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである」
として、進歩性の判断の誤りについての原告の主張は認めなかった。
請求棄却。
【コメント】
「少量成分」の技術的意義を主張するには、明細書に情報が不足していた。
「少量成分」とはいえ、有用性があるのであれば、きっちりその効果を記載しておくべきだった。
その上で、さらには「少量成分」として含有させたクレームではなく、それら自体をそれぞれ化合物としてクレームすることも重要だろう。
原告は、「少量成分」を含有するという点において、引例発明と相違するとの主張は認められたが、進歩性の主張は認められなかった。
裁判所は、進歩性判断として、少量成分として存在することの技術的意義が不明だから、引例発明に比較して顕著な効果を奏するものということができないとしている。
しかし、進歩性判断として、裁判所は、引例の追試により少量成分が生成する可能性が高いことに言及しつつも、本件発明が少量成分を敢えて含ませたことへの動機付けの検討をしていない。
この点、いきなり効果の顕著性を判断する前に、もう少しきっちり判示してほしかった。
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