除くクレームとする補正・訂正と新規事項追加の解釈: 知財高裁平成18年(行ケ)10563
【背景】
「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法」に関する特許(特許番号:第2133267号)について、いわゆる「除くクレーム」とした訂正が認められるのかどうか、がひとつの争点。
【要旨】
「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」の解釈について、
裁判所は、
「「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。そして,同法134条2項ただし書における同様の文言についても,同様に解するべきであり,訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。」
との一般的な解釈を示し、これを前提として、下記のように本件各訂正について検討した。
すなわち、
「引用発明の内容となっている特定の組合せを除外することによって,本件明細書に記載された本件訂正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから,本件各訂正が本件明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでないことは明らかであり,本件各訂正は,当業者によって,本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかであるということができる。したがって,本件各訂正は,平成6年改正前の特許法134条2項ただし書にいう「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであると認められる。」
と判断した。
裁判所は、審査基準の記載についても触れ、
「審査基準の上記記載は,「除くクレーム」とする補正について,「例外的に」明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正と取り扱うことができる場合について説明されたものであるが,「例外的」とする趣旨は,上記「基本的な考え方」に示された考え方との関係において「例外的」なものと位置付けられるというものであると認められる。しかしながら,上記アにおいて説示したところに照らすと,「除くクレーム」とする補正が本来認められないものであることを前提とするこのような考え方は適切ではない。」
とした。
(他の争点は省略)
結論は請求棄却。
【コメント】
医薬に関する判決ではないが、「除くクレーム」とする補正・訂正が許容されるかどうかの基準が示された大合議判決なので取り上げた。
「明細書又は図面に記載した事項」の範囲内においてする補正・訂正かどうかの判断は、「除くクレーム」とする補正・訂正も含めて、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを(も?)基準とすることになる。
従って、「除くクレーム」とする補正・訂正については、例外扱いをすることなく、基本的に、他の補正・訂正と同じ土俵で「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものであるかどうかを判断することになる。
「『除くクレーム』とする補正」について例外的な取扱いとする審査基準の記載は、特許法の解釈に適合しないものであるとされたため、審査基準の記載内容は修正されることになるだろう。
参考
“現在の”特許・実用新案審査基準 第Ⅲ部 第Ⅰ節 新規事項
4.特許請求の範囲の補正
4.2 各論
(4) 除くクレーム
「除くクレーム」とは、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。
補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、補正により当初明細書等に記載した事項を除外する「除くクレーム」は、除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には、許される。
なお、次の(i)、(ii)の「除くクレーム」とする補正は、例外的に、当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取扱う。
(i)請求項に係る発明が、先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正。
(ii)請求項に係る発明が、「ヒト」を包含しているために、特許法第29条柱書の要件を満たさない、あるいは、同法第32条に規定する不特許事由に該当する場合において、「ヒト」が除かれれば当該拒絶の理由が解消される場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該「ヒト」のみを除く補正。
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