まだ終わっていなかった、ニプロ v. 富田製薬: 知財高裁平成19年(行ケ)10347
【背景】
「重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」に関する富田製薬(被告)の特許(特許第2769592号)に対して、ニプロ(原告)が起こした無効審判請求において、無効とする旨の審決をしたが、これに不服の富田製薬(被告)が審決取消訴訟を提起し、知財高裁は請求項9及び10に係る発明についての特許を無効にするとの部分を取り消す判決をし(第2次判決)、同判決は確定した。
そこで特許庁はさらに審理し、請求項9及び10に係る発明についての無効審判請求に対し請求不成立の審決をした。本事案はその審決を不服として、ニプロ(原告)が取消しを求めた事案である。
請求項9(本件発明3):
塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
請求項10(本件発明4):
さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
【要旨】
2 取消事由1(本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物との相違点の誤認)について
(4) 以上の(1)~(3)に照らせば,第2次判決は,刊行物2(甲2)から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとしてこれを取り消したものであること,かかる第2次判決が確定したことが認められる。しかるに,このような場合は,前記(1)に説示したように,再度の審判手続(本件審決の審判手続)に第2次判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例(刊行物2〔甲2〕)から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないこととなる。
そうすると,差戻し後の審判官が,本件審決において「本件発明3は,甲第9号証(本判決注:刊行物2〔甲2〕)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとする請求人の主張は採用できない。」(7頁1行~2行),「本件発明4が,…甲第9号証(本判決注:甲2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。」(8頁24行~26行)と判断したことに誤りはないから,その余の点について判断するまでもなく,取消事由1は理由がない。
(5) 原告は,第2次判決は,本件審決の認定した相違点を前提として,本件発明3,4の進歩性について判断したものであるから,第2次判決の拘束力は進歩性判断について及ぶことになるが,取消事由1は,そもそも,第2次判決が前提とした相違点が不存在であることを主張するものであるから,第2次判決の拘束力は及ばないと主張する。
しかし,たとえ第2次判決が,本件審決の認定した相違点を前提として,本件発明3,4の進歩性について判断したものであり,また取消事由1が,第2次判決が前提とした相違点が不存在であることを主張するものであるとしても,確定した第2次判決の判断が,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとしてこれを取り消した場合に当たることに変わりはない。
そうすると,このような場合は,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例たる刊行物2から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないというべきである。
そして,再度の審決取消訴訟ぁw)スる本件訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決(本件審決)の認定判断を誤りである(同一の引用例〔刊行物2〕から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができた)として,これを裏付けるための新たな立証として甲3,4を提出し,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた本件審決を違法とすることも許されないところである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
3 取消事由2(本件発明3と刊行物1発明との対比の誤り)について
本件発明3は刊行物1発明と同一であるということはできず,刊行物1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたということもできない。
このことは,本件発明3の構成に欠くことのできない事項の全てを含み,さらに,酢酸を含むものである本件発明4についても,同様に当てはまるものである。
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,取消事由2は理由がない。
請求棄却。
【コメント】
まだ終わっていなかった、ニプロ v. 富田製薬。
本件については特許権者である富田製薬に軍配。
参考
コメント