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進歩性のための明細書記載要件

日本における進歩性の判断において、引用発明と比較した有利な効果が参酌されるためには、
(1) 「引用発明と比較」という観点、及び
(2) いわゆる「後出しデータ」の許容性という観点で、
当初明細書にどのような記載が具体的に必要とされるのでしょうか?

“進歩性のための明細書記載要件”(勝手にそう呼んでます)なるものは、特許法上規定されていませんが、これまでの判決を見ているとどうも一定の要件として存在するようです(個人的には疑問を感じていますが)。これは欧米とは異なる日本特有の要件なのでしょうか。

具体的な事例として参考になりそうな最近の判決(特に医薬に関する判決)を下記に列挙しつつ、判決間の整合性を検討していく予定です。

参考事例:

顕著な効果について問題となった参考判決には、タグ”Advantageous effects“を付します。画面右「Categories」欄の”Advantageous effects”をクリックすることで記事を閲覧できます(→)。

本記事「進歩性のための明細書記載要件」は、画面右「TOPICS」欄にリストしています(→)。

参考:

  • パテント2013 第66巻第3号(別冊第9号)21-55頁 「進歩性要件の判断にあたり出願後の実験データの参酌が許される明細書の記載の程度」
  • 特許・実用新案審査基準 第Ⅱ部 第2章 新規性・進歩性

(抜粋)
2.5 論理づけの具体例
(3) 引用発明と比較した有利な効果

引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。ここで、引用発明と比較した有利な効果とは、発明を特定するための事項によって奏される効果(特有の効果)のうち、引用発明の効果と比較して有利なものをいう。

①引用発明と比較した有利な効果の参酌

請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有している場合には、これを参酌して、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけを試みる。そして、請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有していても、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられたときは、進歩性は否定される。
(中略)
しかし、引用発明と比較した有利な効果が、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることにより、進歩性が否定されないこともある。
例えば、引用発明特定事項と請求項に係る発明の発明特定事項とが類似していたり、複数の引用発明の組み合わせにより、一見、当業者が容易に想到できたとされる場合であっても、請求項に係る発明が、引用発明と比較した有利な効果であって引用発明が有するものとは異質な効果を有する場合、あるいは同質の効果であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測することができたものではない場合には、この事実により進歩性の存在が推認される。
特に、後述する選択発明のように、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属するものについては、引用発明と比較した有利な効果を有することが進歩性の存在を推認するための重要な事実になる。

②意見書等で主張された効果の参酌

明細書に引用発明と比較した有利な効果が記載されているとき、及び引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。しかし、明細書に記載されてなく、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。

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