スポンサーリンク

2008.02.29 「ティロッツ・ファルマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10236

原告主張の実施例は本願発明の実施例とはいえないとされた: 知財高裁平成19年(行ケ)10236

【背景】

「オメガ-3ポリ不飽和酸の経口投与剤」に関する発明についての出願(特表平11-509523)の拒絶審決取消訴訟。
争点は、本願の特許請求の範囲の記載が、明細書の発明の詳細な説明に記載されているかどうか(特36条6項1号、いわゆるサポート要件)であった。

請求項1:

有効成分としてオメガ3-ポリ不飽和酸を遊離酸として又は薬学的に許容可能なその塩として含有する経口製剤において,
カプセルのコーティングが,pH依存性態様ではなく時間依存性態様で溶解する中性のポリアクリル酸エステルから成り而もpH5.5において30乃至60分間溶解することがなく,
かくして前記酸が,回腸内において放出されることになることを特徴とする経口製剤。

【要旨】

原告は、

「当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の本願出願当時の技術常識,Aの文献及び本願明細書(甲4)の実施例2の記載(下記のとおり,そこには「小腸」との記載がある)からすれば,本願明細書には本願発明の発明特定事項であるオメガ3-ポリ不飽和酸が回腸で放出されることが記載されているといえるから,審決の認定は誤りである」

と主張した。

しかし裁判所は、

「本願発明は,「カプセルのコーティングが,pH依存性態様ではなく時間依存性態様で溶解する中性のポリアクリル酸エステルから成り而もpH5.5において30乃至60分間溶解することがな」いことを発明特定事項として記載するところ,ここに記載されたpH値については,上記(3)ウによれば,単に溶解試験を行ったpH値を示すにすぎず,コーティングの溶解条件とは何ら関係がないことが認められる。」

とした上で、

「回腸内において放出される」という発明特定事項について、

「小腸は,初部約25センチメートルを十二指腸といい,その余の部分のうちの前半5分の2が空腸で後半5分の3が回腸であるから,カプセルの小腸内の通過速度が一定だとすると,小腸通過時間の30%にあたる時間では,カプセルはまだ空腸の中にある。これは,上記のとおり絶食患者を前提とした最短の時間で通過することを仮定した場合である。この位置で,既にコーティングの崩壊後15分が経過して,カプセルも崩壊し,カプセルの内容物は既に放出されていると考えられ,これより遠位の回腸においてカプセルの内容物が放出されるとは考えられない。そうすると,原告の主張する本願明細書の実施例2においても,本願発明の「前記酸が,回腸内において放出される」ものに該当するとはいえない。
以上の検討によれば,実施例2は本願発明の実施例ということはできず,また本願明細書(甲4)のそのほかの部分にもこれが記載されているとはいえないから,審決が本願発明は明細書の発明の詳細な説明に記載した発明ということはできないとした認定に誤りはない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

実施例2の結果及びその他の証拠から、早く見積もってもカプセルはまだ空腸内にあり(つまり空腸で内容物が放出されるだろうから)、回腸内において放出されるとは考えられないと裁判所は判断。実施例2の結果からの考察ではクレームをサポートしていることにはならない(つまり原告主張の実施例2は本願発明の実施例にならない)とされた。

同感。

サポート要件は、あくまでも明細書の記載に基づいて判断されるので、出願後にした原告の追加の主張は採用されなかった。

ところで、本願発明である経口製剤を構成する発明特定事項は、下記の4つに大別できる。

(1) オメガ3-ポリ不飽和酸を遊離酸として又は薬学的に許容可能なその塩を含有する
(2) カプセルのコーティングが、中性のポリアクリル酸エステルである
(3) 中性のポリアクリル酸エステルが、pH依存性態様ではなく時間依存性態様で溶解する
(4) カプセルのコーティングが、pH5.5において30乃至60分間溶解しない
(5) オメガ3-ポリ不飽和酸を遊離酸が、回腸内において放出される

上記発明特定事項(1)及び(2)は、経口製剤を構成する具体的な構成要件を示している。

しかしながら、発明特定事項(3)、(4)及び(5)については、もたらされる結果(効果または願望)により発明を特定しようとするものであるから、「願望型」発明特定事項(または「願望型」構成要件)とでも呼ぶべきものであって、サポートがしっかりしていない限り、そもそも許されるべきものではないだろう。

参考:

  • 回腸(ileum): 回腸とは,小腸の一部をいうところ,消化管のうち胃と大腸との間をなす長さ6~7メートルの管状の器官が小腸であるが,その初部約25センチメートルを十二指腸といい,その余の部分のうちの前半5分の2を空腸と,後半5分の3を回腸という(南山堂「医学大辞典」第19版1160頁。甲20)。(判決文より)
  • Wikipedia: small intestine

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました