セフジニルの結晶形特許の有効性は?: 知財高裁平成19年(ネ)10034
2007.03.13 「アステラス v. 大洋薬品」 東京地裁平成17年(ワ)19162の控訴審。
抗生物質セフジニル(商品名:セフゾン®カプセル)のA型結晶に関する発明(特許第1943842)の特許権者であるアステラス製薬が、その後発医薬品としてセフジニルを有効成分とする大洋薬品製剤の製造販売の差止め及び同製剤の破棄を求め特許侵害訴訟を提起。
主に、本件特許の出願日前に公開されたセフジニルの物質発明に係る引例に基づき、本件特許が新規性を欠く発明に対してなされたもので無効にされるべきか否か、が争われた。
地裁は、引例明細書中の実施例に開示されたセフジニルとA型結晶とのIRスペクトルが一致しないことから、両者は同一であるとはいえない、と判断した。
また、同引例実施例に記載された方法によりセフジニルのA型結晶が得られるか否かについて、原告・被告両者からの鑑定合戦となったが、結局地裁は、被告(大洋薬品)の追試によっては実験工程を忠実に再現してもA型結晶を得ることはできず、原告(アステラス製薬)の追試によれば無晶形のみが得られると判断し、当時の技術常識に基づいて上記実施例においては当業者において容易に実施し得る程度にセフチジニルのA型結晶の製造方法が開示されているとはいえないから、新規性欠如を理由とする本件特許の無効主張は認められないとし、原告(アステラス製薬)の主張を認めた。大洋薬品はこれを不服として控訴した。
【要旨】
知財高裁も、原判決をほぼ引用し、
「①被告(大洋薬品)製剤は本件特許発明の技術的範囲に属するとの原告(アステラス製薬)の主張は理由があり,②本件特許は特許無効審判により無効にされるべきである等の被告(大洋薬品)の主張はいずれも失当である」
と判断した。
控訴棄却。
【コメント】
結晶特許が後発品排除に有効に働いた事例。
同剤の物質特許は2003年に特許期間満了したが、本件結晶特許は2008年8月まで存続するとのことである。
本件判決内容とは直接関係無いが、出願当時は別結晶(元結晶)として得られたものが、その後、結晶多形が明らかとなり安定晶が得られると、先の出願明細書に記載した方法ではもはや元結晶を再現して得られないという事態(安定晶が得られてしまう)が起こりうる。特許取得上に限らず、後の争いを想定して、既に開示された元結晶と、新結晶とが明確に区別できるような対策や証拠の準備をしておくことは非常に重要だろう。
なお、本件特許侵害訴訟は、最高裁が大洋薬品の上告を棄却したため、アステラスの勝訴が確定した(関連記事: 2007.12.27 「アステラスのセフゾン®カプセル特許侵害訴訟で最高裁が大洋薬品の上告を棄却」)。
参考:
- アステラス製薬 プレスリリース: 2007.09.10 経口用セフェム系製剤「セフゾン®カプセル」の特許侵害訴訟大洋薬品の控訴棄却に関するお知らせ
- 関連記事: 2008.03.05 「アステラス v. 大洋薬品 セフゾン訴訟和解へ」
コメント
同じ実験をしても必ずしも同じ結晶が得られるとは限らないという結晶の世界。もはやそこにはサイエンスはない。実施可能要件を考えると、微生物などと同様に寄託制度をつくるべきかも。