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2007.07.12 「エンシステックス v. バイエルクロップサイエンス」 知財高裁平成18年(行ケ)10482

進歩性判断の引用発明の認定(適格性): 知財高裁平成18年(行ケ)10482

【背景】

被告(バイエルクロップサイエンス)の有する「工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除剤」に関する特許(特許3162450号)に係る発明について、原告(エンシステックス)が無効審判を請求。

特許庁は、被告がした訂正請求に係る訂正を認めた上、上記審判請求は成り立たない(進歩性あり)との審決(無効2005-80225)をしたため、原告が、その取消しを求めた事案。

請求項1:

1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジンを有効成分として含有することを特徴とする工芸素材類をイエシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための害虫防除剤。

引例に記載された発明は、同有効成分を含有する害虫防除剤であり、「ヤマトシロアリ,イエシロアリ」と具体的に例示されていたが、その対象害虫に関して具体的な生物試験の結果が示されていなかった。

【要旨】

裁判所は、

「甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が広汎な害虫に対して強力な殺虫作用を示すとともに,木材における優れた残効性を示すこと,さらに,同化合物が殺虫効果を示す対象害虫類の一つとして,等翅目虫のヤマトシロアリ,イエシロアリが具体的に挙げられているのであるから,上記の課題に直面していた当業者が,同一技術分野に属する刊行物である甲2に接したならば,イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイエシロアリに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではないというべきである。
被告は,上記第4の1(3)のとおり,化学物質の害虫に対する防除効果は害虫の種類によって大きな差異があるから化学物質の効果が生物試験によって裏付けられていない限り,所期の効果を予測することはできないと主張するが,このような事情を考慮したとしても,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物をヤマトシロアリ及びイエシロアリの防除剤として適用してみようとする動機付けとする限りにおいては,上記に説示したところを左右するには足りない。
また,被告は,用途発明の一種である医薬発明に関しては,特許庁の審査基準に「当該刊行物に何ら裏付けされることなく医薬用途が単に多数列挙されている場合は,技術的に意味のある医薬用途が明らかであるように当該刊行物に記載されているとは認められず,その発明を引用発明とすることはできない。」と記載されていることから,甲2のヤマトシロアリ,イエシロアリに関する記載を引用発明とすることは不適当である旨主張しているが,上記審査基準は,発明の公知性の有無に係る新規性の判断に関するものであり,進歩性の判断の当否を問題とする本件に妥当するものではないから,失当である。」

と判断した。

審決中、「本件審判請求は、成り立たない。」との部分を取消す。

【コメント】

医薬ではなく殺虫剤関連の発明に関する訴訟だが、進歩性判断における引用発明の認定(適格性)について争われた事例であり、且つ、審決が取消された事例でもあったので取り上げた。

新規性判断における引用発明の認定手法については特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 「新規性・特許性」中の下記項に記載されている。

1.5.3 第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定

そして、進歩性判断における引用発明として採用されるべきものとは何なのかについては、同審査基準中下記項のように”「新規性の判断の手法」と共通”と記載されている。

2.4 進歩性判断の基本的な考え方
「(3) なお、請求項に係る発明及び引用発明の認定、並びに請求項に係る発明と引用発明との対比の手法は「新規性の判断の手法」と共通である(1.5.1~1.5.4参照)。」

上記のように、審査基準中、進歩性判断における引用発明認定の手法に関する記載は、本事件における裁判所の判断と矛盾している。進歩性判断における引用発明の認定手法が、新規性判断における引用発明の認定手法と異なるのであれば、審査基準の記載は再検討されるべきだろう。

なお、本事件については、その後、被告が最高裁に対して上告受理の申立てを行ったが、上告不受理決定となった。

被告は最高裁決定後も訂正請求を行って本件特許権の有効性を維持しようとし、原告は、被告から差止請求権を行使されるおそれがあることから、被告に対して、特許無効を主張して、原告製品の生産等に対する差止請求権の不存在確認を求めた(2008.01.30 「エンシステックス v. バイエルクロップサイエンス」 東京地裁平成19年(ワ)24878)。

参考:

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