ニプロと富田製薬との特許係争の結末: 知財高裁平成17年(行ケ)10736
【背景】
重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」とする特許発明(特許第2769592号)の請求項7~10に係る発明についての特許を無効とする旨の審決を不服として、特許権者である原告(富田製薬)が審決取消しを求めた事案。
請求項9及び10については、進歩性の判断が争点であり、本発明と引例との相違点は「ブドウ糖」の有無だけであった。
請求項7:
塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
請求項8:
さらに酢酸を含有してなる請求項7に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
請求項9:
塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
請求項10:
さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
【要旨】
裁判所は、
引例においては、ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が記載されているわけではなく、本件訴訟で提出された全ての証拠中にも、ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が開示されたものはなく、かかる内容の周知技術が存在したことも認められないので、当業者が容易に相当し得ると解すべき根拠が無い
と判断した。
審決のうち、請求項9及び10を無効とするとの部分は取り消されたが、その他の争点(訂正についての裁量権の逸脱濫用の違法、及び、1次判決拘束力の範囲の判断の誤り)については請求棄却(請求項7及び8ついては無効審決を維持)。
【コメント】
本審決取消訴訟は、ニプロの透析液粉末製剤「リンパック」に関して同社と富田製薬との間で争われていた特許係争のクライマックス。
「リンパック」の構成は以下の製剤の組合せからなる。
A-1剤: 成分は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、無水酢酸ナトリウム、氷酢酸(pH調整剤)。
A-2剤: 成分は、ブドウ糖。
B剤: 成分は、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)。
本判決で、”ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含む”という構成で限定された剤クレームしか特許として生き残らなかったため、「リンパック」が特許発明の技術的範囲外となり、最終的にはニプロの逆転勝訴という形で終結した。
参考:
- ニプロ プレスリリース: 2007.04.24 富田製薬㈱との損害賠償請求訴訟控訴審終結のお知らせ
- 2004.05.27 「富田製薬 v. ニプロ」 大阪地裁平成14年(ワ)6178
コメント
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