補正却下・拒絶査定は、クレームごとに処分されるのか?: 知財高裁平成19年(行ケ)10031
【背景】
「カデュサホスのマイクロカプセル化製剤」に関する特許出願(特願2000-561829号)についての拒絶査定不服審判において、特許庁は、原告が審判請求時にした請求項13についての補正は、特17条の2第4項第2号に掲げる『特許請求の範囲の減縮』を目的とするものではないとした上で、補正を却下し、本件出願にかかる発明は特29条2項の規定により特許を受けることができないことを理由に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
【要旨】
補正却下の違法性について、原告は、
「特許法53条には補正書全体を却下するとの記載は存在せず,同条の「第17条の2第1項第3号に掲げる場合において,・・・補正が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは・・・決定をもってその補正を却下しなければならない。」との規定における後者の「その補正」が同法17条の2第3項から第5項までの規定に違反している補正を意味し,違反していない補正を意味しないことは文理解釈上明らかである」
旨主張した。
これに対し、裁判所は、
「上記規定における補正は,補正事項ごと又は請求項ごとのものをいうものではなく,同法53条において却下しなければならない補正も,特定の補正事項に係る補正部分ではないと解され,原告が主張するような解釈が文理上当然に認められるものではないから,原告の主張は採用できない。」
とした。
次に、本件補正を却下した特許庁の処分に誤りはないとした上で、本件補正前の本願発明1の進歩性について争われたが、結局、裁判所は特許庁の判断を支持する結論を下した(詳細は判決文参照)。
そこで、原告は、
「請求項2以下の請求項に係る発明について判断をしていないとして,審決に判断の遺脱がある」
旨主張した。
これに対して、裁判所は、
「特許法は,特許出願の場面においては,一つの特許出願に対して,拒絶査定か特許査定かのいずれかの行政処分をなすべきことを規定していると解することができるのであり,複数の請求項に係る発明が含まれている場合には,そのうちの一つの請求項に係る発明について,特許をすることができないものであるときには,当該出願を拒絶査定することができると解し得る。本件においては,請求項1に係る発明である本願発明1が特許法29条2項の規定に基づき特許をすることができないものであることは,前記2のとおりであり,そうすると,本件出願は拒絶されるものであるから,本件出願における他の請求項である,請求項2以後の請求項2ないし14に係る発明について,審決が特許をすることができないものであるかの判断をしなかったことに,原告主張の違法な点はない。」
とした。
【コメント】
補正却下又は拒絶査定は、クレームごとではなく補正書全体又は一つの特許出願に対しての処分である。原告の主張によれば、代理人が誤って補正したらしい。
補正が却下され、それが原因で、他のクレームについてした補正が全く生かされず、審決となってしまった。
思わず”ゾッ”としてしまう事件である。
万が一を考えてわざわざ分割出願しておくという安全策も考える必要があるのかもしれない。
カズサホス(cadusafos):
有機リン系殺虫剤。アセチルコリンエステラーゼ活性を阻害することにより殺虫活性を持つ。
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