「メバスタン」は「メバロチン」と混同するか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10418
【背景】
メルク・ホエイ(原告)は、「メバスタン」の片仮名文字と「MEVASTAN」の欧文字とを上下二段に書してなり、指定商品を第5類「薬剤」とする登録商標の商標権者であったが、登録商標「メバスチン」(引用E商標)及び登録商標「MEVASTIN」(引用F商標)(いずれも指定商品「薬剤」含む)と商4条1項11号に該当し、三共(被告)が使用する登録商標「メバロチン」等(引用A~D商標)(いずれも指定商品「薬剤」含む)と商4条1項15号に該当するとした無効審決に対して取消訴訟を提起した。
【要旨】
裁判所は、
商4条1項11号該当性について、「称呼において互いに相紛らわしい類似した商標ということができる。なお,原告は,特許庁の審査基準を引用して,本件商標と引用E,F商標は,審査基準に照らしても称呼上明らかに非類似の商標であると主張する。しかし,当該審査基準の趣旨はともかくとして,審査基準は審査官による審査の際の一つの目安,指針を示したものにすぎず,商標の類否はあくまで個々具体的に判断すべきものであるから,審査基準に依拠してその類否を云々する原告の主張は失当である。原告は、本件商標に接する取引者・需要者は医師,薬剤師等の医薬品の取引に相当の注意力を有する専門家であるから,混同されるおそれは皆無であると主張する。確かに,医師や薬剤師は,医薬の知識を有する専門家であり,薬剤の投与等について高度の注意力が要求されている者であるが,だからといって,およそ薬剤の取引者・需要者である医師,薬剤師など医療関係者であれば,一般的に薬剤について混同するおそれはないということはできないのであって,現に,後記のとおり,我が国の医療現場で,医師や薬剤師等の医療関係者において,名称の似た薬剤を誤って処方してしまう例が報告され,その数も決して少なくないことが認められる(乙52号証の1,53号証の1,2)のであるから,原告の主張は採用することができない。」
と判断した。
また、裁判所は同条項15号該当性の点についても検討しており、「メバ」の文字及び音部分が、取引者・需要者の注意を引く特徴的な部分に当たるとみることを妨げるべき事情は見当たらないとして、原告の主張を採用しなかった。
請求棄却。
【コメント】
三共(第一三共)のメバロチン®(Mevalotin、一般名: プラバスタチンナトリウム(pravastatin sodium)、高脂血症治療薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤)の日本での特許切れが2002年であり、後発品が既に参入している。 後発品の商標を無効にしたとしても焼け石に水なのかもしれないが・・・。また、不正競争として訴えても良かったのでは(?)。ちなみに、第一三共株式会社の2008年3月期中間決算短信及び補足資料(2007年11月6日発表)によると、メバロチンの売上高は、2006年度において935億円であり、前年に比べ497億円減、2007年度も売上減となる予測である。米国での特許切れによるジェネリック参入の本格化が大きく影響したようである(海外ではBristol-Myers Squibbが販売。販売名はPravachol®)。
スタチンではリピトール®(Lipitor、一般名: Atorvastatin)のシェアが圧倒的。
参考:メバロチンの世界売上高推移
2003年度:2054億円
2004年度:1667億円
2005年度:1432億円
2006年度: 935億円
2007年度: 790億円(予測)
コメント
商4条1項11号で攻撃できるように、使用もしないメバロチン周辺の商標を出願して保有しているあたり、さすが。メバロチンとは2文字違いやけど、メバスチンとは一文字違いですもんね。
ぎっちょんさん、コメントありがとうございます。
メモ:
本件の拒絶理由として引用された第一三共の登録商標の情報(引用C/D商標は省略)。
メバロチンの販売は1989年開始。
引用A商標
出願日: 1986.01.20
登録番号: 第2049558号
商標: 「メバロチン」
指定商品: 1 化学品(他の類に属するものを除く)薬剤、医療補助品
存続期間満了日: 2008.05.26
引用B商標
出願日: 1986.01.20
登録番号: 第2069627号
商標: 「MEVALOTIN」
指定商品: 1 化学品(他の類に属するものを除く)薬剤、医療補助品
存続期間満了日: 2008.05.26
引用E商標
出願日: 1985.05.08
登録番号: 第2112919号
商標: 「メバスチン」
指定商品: 1 化学品(他の類に属するものを除く)薬剤、医療補助品、但し、薬剤を除く
【付加情報】
審判番号: 2005-30763
審判請求日: 2005.06.27
不使用取消審判(商50条)により指定商品中「薬剤」についての登録を取り消されている。請求人はメルク・ホエイ。
引用F商標
出願日: 1985.05.08
登録番号: 第2112920号
商標: 「MEVASTIN」
指定商品: 1 化学品(他の類に属するものを除く)薬剤、医療補助品、但し、薬剤を除く
【付加情報】
審判番号: 2005-30764
審判請求日: 2005.06.27
不使用取消審判(商50条)により指定商品中「薬剤」についての登録を取り消されている。請求人はメルク・ホエイ。