Na塩の水和物が”塩”の概念に包含されるか?: 東京高裁平成8年(ネ)2394
1.背景
「ロキソプロフェンナトリウム二水和物」の製造販売行為が、「ロキソプロフェンナトリウム塩」に関する特許権を侵害しているか否かが争われた。
2.要旨
「塩」という語は含水塩及び無水塩に分けることができ、当然に無水塩に限定されるものと解することはできない。また、本件明細書には含水塩を含まないと窺わせるような記載はないことから含水塩を排除しているとは認めがたい。
従って、「ロキソプロフェンナトリウム二水和物」は本件特許発明の技術的範囲に属すると認められ、その製造販売行為は本件特許権の直接侵害であるとした。
3.コメント
本事件では、塩体にはその塩水和物及び塩無水物が含まれると判断されている。
一方、塩の水和物ではなく、活性本体であるロキソプロフェン自体の水和物が、そのロキソプロフェン自体の特許発明の技術的範囲に属するか否かについては言及されていない。
従って、塩の水和物のみでなく、ロキソプロフェン自体の水和物についても確実に権利取得するためには、クレームを「~化合物(すなわちロキソプロフェン自体)又はその塩、或いはその水和物(広い概念としては溶媒和物)」とするのが望ましくはないだろうか。
第三者によって溶媒和物を実施されてしまうことを防止する対策として、明細書中において「本発明には溶媒和物を含む」と記載するという手段もあるが、万が一、発明の技術的範囲について明細書が参酌されないという場合も想定し(特許性の判断事例ではあるが、発明の範囲は原則クレームに基づくとの判断もある(1991.03.08 「リパーゼ事件」最高裁昭和62年(行ツ)3)。)、あらかじめ「溶媒和物」をクレーム化しておくのが、最も安全ではなかろうか。
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