化学物質発明について明細書には何が開示されるべきか?(除草剤性イミダゾール事件): 東京高裁平成2年(行ケ)243
【背景】
数多くの化合物の構造を開示していたが、具体的な製造方法、物性(融点)、除草活性テストの結果について明細書に開示しているものは一部だった。
問題となった2つの化合物について、当初明細書に構造は開示されていたが、その具体的な製造方法、物性、除草活性テストの結果は開示されておらず、それらを追加する補正が、当初明細書からの要旨変更か否かが問題となった。
【要旨】
「いわゆる化学物質発明は、・・・その成立性が肯定されるためには、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。」との化学物質発明の成立要件を判示した。
さらに、その化学物質の製造可能性については「類似のもので、提供し得たも同然のものと評価されるものであれば、それも確認されたものとして取り扱うべきである」と説示し、また、有用性の判断については「一般に化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり、試験してみなければ判明しない」のであるから、「実際に試験することによりその有用性を証明するか、その試験結果から当業者にその有用性が認識できることを必要とする」と説示した。
本件については製造可能性は肯定されたが有用性は否定された。
【コメント】
化学物質発明は、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。補正の要旨変更(旧法)の事案であるが、化学物質発明の特許性について何が開示されるべきかを裁判所が示した事案である。
審査基準によれば、明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者の観点から、実施可能要件及びサポート要件が判断される。
しかし、クレーム範囲まで一般化・拡張できると信じて記載した出願が特許になったとしても、第三者から記載要件違反を理由に攻撃されるおそれがある。
従って、確実な特許性を確保するためには、化合物全てに確認(物性)データ、薬理データ(有用性、実施可能性の担保)を掲載するのがより望ましいのではなかろうか。
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