1.はじめに
経口そう痒症改善剤レミッチ®の後発医薬品(ナルフラフィン塩酸塩OD錠)を製造販売する沢井製薬及び扶桑薬品工業(被告ら)に対して、東レが、ナルフラフィンの用途特許に係る特許権(延長登録出願によりみなし延長された)を侵害していると主張して、被告ら製品の製造販売差止と損害賠償等を求めていた訴訟で、東京地裁は、東レの請求をいずれも棄却した。
延長された特許権の効力は被告ら製剤に及ぶのかどうか、そして、その結論を導く判断内容は延長された特許権の効力が及ぶ範囲についての明確なガイダンスを与えるてくれるものだろうと信じて、本判決に大きな期待を寄せていたのだが、東京地裁の出した結論は、本件発明の構成要件である「有効成分」という用語の意義を狭く解釈し、被告ら製剤は構成要件を充足しない(均等なものでもない)というものであるから非侵害と判断し、延長された特許権の効力についてまでは判断しないものであった。
しかし、その「有効成分」という用語の意義については、同特許について別途争っている審決取消訴訟でも争点となり、本判決言い渡し日の5日前に、知財高裁が、本判決と同様に狭い解釈をした審決を誤りであるとしてそれら審決を全て取り消したばかり。
本投稿では、本判決を紹介したあとに、争点となった「有効成分」という用語の意義について、本判決による認定内容を、同特許についての別件知財高裁判決による認定内容と対比する。
2.事件の背景
本件(東京地裁平成30年(ワ)38504, 平成30年(ワ)39508)は、発明の名称を「止痒剤」とする発明について特許第3531170号を受け、当該特許発明についての特許権を有する原告(東レ)が、被告ら(沢井製薬(A事件)及び扶桑薬品工業(B事件))に対し、被告らがそれぞれ製造販売等している止痒剤(ナルフラフィン塩酸塩OD錠)は、特許請求の範囲に記載された構成の各要件を文言上充足する、又は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであると主張して、特許法100条1項及び2項に基づき、被告らに対し、当該止痒剤の製造販売等の差止め及び廃棄をそれぞれ求めるとともに、損害金の支払を求める事案である。
【発明の名称】止痒剤
【特許番号】特許第3531170号
【登録日】2004.03.12
【出願番号】特願平10-524506
【出願日】1997.11.21
【優先日】1996.11.25
【特許権者】東レ株式会社
【請求項1】
下記一般式(I)
[式中、・・・(省略)・・・]で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤。
本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりとなる。
- A 一般式(Ⅰ)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物(以下「本件化合物」という。)を有効成分とする
- B 止痒剤。
原告は、本件特許権について、その特許発明の実施に下記処分(以下、「本件処分」という。)を受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があったとして、その存続期間の5年の延長を求めて、存続期間延長登録の出願(2017-700154。以下「本件延長登録出願」という。)をした。これにより、本件特許権の存続期間は当初20年満了日(2017.11.21)から延長されたものとみなされた。原告は、延長された本件特許権の効力が被告らの止痒剤の製造販売等(2018年6月15日付けで薬価基準に収載されて以降実施)に及ぶものであるなどと主張した。
本件延長登録出願(2017-700154)は、以下の処分に基づくものである。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第14条第1項に
規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
22900AMX00538000
(3)処分の対象となった物
販売名 レミッチOD錠2.5μg(以下「原告製剤」という。)
有効成分 ナルフラフィン塩酸塩
(4)処分の対象となった物について特定された用途
次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
血液透析患者、慢性肝疾患患者
この事件において、本件特許発明の技術的範囲の属否が争点となっている背景には、医薬用途特許につき延長された特許権の効力が及ぶ範囲について直接判断された判決例はこれまでにない点の他に、本件特許の請求の範囲は「ナルフラフィン(フリー体)」を「有効成分」とする止痒剤を保護するものであるが、「ナルフラフィン塩酸塩」を「有効成分」とする止痒剤は含まない(被告らの主張)ようにも読める点にある。
参考:
- 2018.12.22 記事: 東レがレミッチ®OD錠後発品を販売する沢井・扶桑を特許侵害で提訴
- 2019.10.20 記事: レミッチ®用途特許に対するジェネリックメーカーの動き
3.争点
(1)被告ら製剤は本件化合物であるナルフラフィン(フリー体)を「有効成分」とするものか
(2)被告ら製剤は本件発明に記載された構成と均等なものか
(3)本件発明は進歩性を欠き無効にされるべきものか
(4)本件延長登録出願により存続期間が延長されたものとみなされた本件特許権の効力は被告ら製剤の製造販売等に及ぶか
(5)本件延長登録出願に基づく延長登録は無効ないし一部無効にされるべきものか
(6)原告による本件特許権の行使は権利濫用となるか
(7)先使用権の存否
(8)損害の額
争点は沢山あったけど、以下のとおり、裁判所は、争点(1)と(2)だけを判断して、判決したよ。
4.裁判所の判断
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,A事件及びB事件ともに,原告の負担とする。
被告ら製剤は、本件化合物であるナルフラフィン(フリー体)を「有効成分」とするものとは認められず、構成要件Aを充足しないこととなり(争点(1))、また、本件発明に記載された構成と均等なものとして、本件発明の技術的範囲に属するということもできない(争点(2))。よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決した。
争点(1) 被告ら製剤は本件化合物であるナルフラフィン(フリー体)を「有効成分」とするものか
裁判所は、「有効成分」という用語の意義を、製剤として組成される基となる「原薬」のことをいうものと解した。したがって、被告ら製剤にとって「有効成分」に当たるものとは、「原薬」であるナルフラフィン塩酸塩であり、本件化合物であるナルフラフィン(フリー体)ではないとして、被告ら製剤は構成要件Aを充足しないと判断した。
本件発明の特許請求の範囲は「一般式(Ⅰ)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」というものであり,本件発明は「止痒剤」という医薬品の製剤を組成する「有効成分」に関する発明であるところ,・・・本件明細書の記載内容を見ても,この構成要件Aの「有効成分」という用語について特段の定義をした記載は見当たらない。そうすると,本件発明において,この「有効成分」という用語は,医薬品の分野における当業者が理解する通常の意味で用いられているというべきである。そこで,以下,同用語の意味を明らかにするべく,医薬品に関する文献等の記載について検討する。
・・・医薬品に関する文献等において,医薬品の製剤の「有効成分」について,次のとおり記述されていることが認められる。・・・これらの記述によれば,医薬品の分野において,製剤は,主に単一成分の結晶であるフリー体又は複合成分の結晶である水和物及び塩の形態をとっている原薬を有効成分として,これに,色素,香料,甘味剤,充塡剤,矯味薬,賦形剤などの添加剤を加えて組成されたものをいうと認められる。
そうすると,「止痒剤」という製剤を組成する「有効成分」に関する発明である本件明細書の記載に接した当業者としては,通常,この構成要件Aの「有効成分」とは,添加剤を加えて製剤として組成される基となる原薬のことをいうものと理解するといえ,同「有効成分」との文言については,同様の意義を有するものと解するのが相当である。
これを被告ら製剤についてみると,・・・被告ら製剤はいずれもナルフラフィン塩酸塩を原薬として,これに添加剤として・・・を加えて組成されたものであると認められるから,被告ら製剤において構成要件Aの「有効成分」に当たるものは,本件化合物であるナルフラフィン(フリー体)ではなく,その酸付加塩であるナルフラフィン塩酸塩であるというべきである。
・・・原告は,構成要件Aの「有効成分」とは,体内で吸収されて薬理作用を奏する部分を意味し,被告ら製剤においては,ナルフラフィン(フリー体)がこれに当たる旨主張し,その添付文書にも「ナルフラフィン塩酸塩2.5㎍(ナルフラフィンとして2.32㎍)」というようにフリー体が併記されていることを指摘し,上記主張に沿う説明や用例が記載された文献・・・を提出している。
しかしながら,上記説示のように,当業者は,通常,構成要件Aの「有効成分」とは,添加剤を加えて製剤として組成される基となる原薬のことをいうものと理解するのであって,構成要件Aの「有効成分」との文言は,同様の意義を有するものと解されるところ,被告ら製剤において,投与前の医薬品に含まれているのがナルフラフィン塩酸塩であると認められる以上,被告ら製剤において,ナルフラフィン(フリー体)が構成要件Aの「有効成分」に当たるとはいえない。
・・・したがって,被告ら製剤は,本件化合物であるナルフラフィン(フリー体)を「有効成分」とするものとは認められず,構成要件Aを充足しないこととなる。
争点(2) 被告ら製剤は本件発明に記載された構成と均等なものか
裁判所は、出願人たる原告は本件化合物の薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする構成をあえて特許請求の範囲に記載しなかったとして、被告ら製剤は、本件発明に記載された構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するということはできないと判断した。
本件明細書には,・・・本件発明に記載された本件化合物のほかに,その薬理学的に許容される酸付加塩が挙げられることが,「オピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩」というように明記されているほか,同化合物に対する薬理学的に好ましい酸付加塩の具体的態様(塩酸塩,硫酸塩,硝酸塩等)も明示的に記載されている。
そうすると,出願人たる原告は,本件明細書の記載に照らし,本件特許出願時に,その有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本件化合物を有効成分とする構成のほかに,その薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする構成につき容易に想到することができたものと認められ,それにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったというべきである。
・・・これらによれば,出願人たる原告は,本件特許出願時に,本件化合物の薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったものであるといえ,しかも,客観的,外形的にみて,上記構成が本件発明に記載された構成(本件化合物を有効成分とする構成)を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるものというべきである。
そうすると,本件発明については,本件化合物の酸付加塩であるナルフラフィン塩酸塩を有効成分とする被告ら製剤が,本件特許出願の手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの,被告ら製剤と本件発明に記載された構成(本件化合物を有効成分とする構成)とが均等なものといえない特段の事情が存するというべきである。
したがって,被告ら製剤は,本件発明に記載された構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属するということはできない。これに反する原告の主張は,上記説示に照らし,採用の限りでない。
5.「有効成分」という用語の意義(別件知財高裁判決との対比)
本件特許については、本事件とは別に以下の審決取消請求事件が存在し、知財高裁は、いずれも東レにとっては有利な判決を下している(表1)。
No. | 判決 | 判決要旨 |
1 | 2021.03.25 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10098 | レミッチ®OD錠の特許権の存続期間の延長登録「腹膜透析患者のそう痒症」についての無効審決部分を取消す判決。知財高裁は、特許権の存続期間延長制度の趣旨に照らして、実質的に登録可否を判断すべきであるとの一般原則を示したうえで、本件においては、実質的には、効能・効果を生ぜしめる成分はフリー体の「ナルフラフィン」であるから、「ナルフラフィン」も本件医薬品の有効成分であると認め、従って、本件発明(「ナルフラフィン」のフリー体)の実施に本件処分を受けることが必要であった、と判断した。 |
2 | 2021.03.25 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10097 | レミッチ®カプセルの特許権の存続期間の延長登録「腹膜透析患者のそう痒症」についての無効審決部分を取消す判決。知財高裁は、特許権の存続期間延長制度の趣旨に照らして、実質的に登録可否を判断すべきであるとの一般原則を示したうえで、本件においては、実質的には、効能・効果を生ぜしめる成分はフリー体の「ナルフラフィン」であるから、「ナルフラフィン」も本件医薬品の有効成分であると認め、従って、本件発明(「ナルフラフィン」のフリー体)の実施に本件処分を受けることが必要であった、と判断した。 |
3 | 2021.03.25 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10096 | ノピコール®カプセルの特許権の存続期間の延長登録「慢性肝疾患患者のそう痒症」についての無効審決を取消す判決。知財高裁は、特許権の存続期間延長制度の趣旨に照らして、実質的に登録可否を判断すべきであるとの一般原則を示したうえで、本件においては、実質的には、効能・効果を生ぜしめる成分はフリー体の「ナルフラフィン」であるから、「ナルフラフィン」も本件医薬品の有効成分であると認め、従って、本件発明(「ナルフラフィン」のフリー体)の実施に本件処分を受けることが必要であった、と判断した。 |
4 | 2021.03.25 「東レ v. 特許庁長官」 知財高裁令和2年(行ケ)10063 | レミッチ®OD錠の特許権の存続期間の延長登録出願「血液透析患者、慢性肝疾患患者のそう痒症」の拒絶審決を取消す判決。「ナルフラフィン塩酸塩」のみを本件医薬品の有効成分と解し、「ナルフラフィン」は本件医薬品の有効成分ではないと認定して、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえないと判断した本件審決の認定判断は、誤りであると知財高裁は判断した。 |
5 | 2021.03.25 「沢井製薬 v. 東レ」 知財高裁令和2年(行ケ)10041 | 無効審判請求不成立審決の取消請求を棄却する判決。知財高裁は、公知文献の仮説や推論が動機付けを基礎づける場合はあるが、本件においては、技術的な裏付けの乏しい一つの仮説にすぎないものであり、「止痒剤」用途を動機付けるとは認められない、と判断した。 |
本判決で東京地裁が出した結論は、本件発明の構成要件である「有効成分」という用語の意義を狭く解釈し、被告ら製剤は構成要件を充足しないというものであった。
しかし、その「有効成分」という用語の意義については、同特許について別途争っていた審決取消訴訟(表1 No.1、2、3、4)でも争点となり、本判決言い渡し日の5日前に、知財高裁は、本判決と同様に狭い解釈をした審決を誤りであるとしてそれら審決を全て取り消していた。
例えば、本件延長登録出願(レミッチOD錠「血液透析患者、慢性肝疾患患者のそう痒症」)に係る拒絶審決取消請求事件(2021.03.25 「東レ v. 特許庁長官」 知財高裁令和2年(行ケ)10063)で、裁判所は、
本件処分の対象となった本件医薬品の有効成分は,本件承認書に記載された「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するのではなく,実質的には,本件医薬品の承認審査において,効能,効果を生ぜしめる成分として着目されていたフリー体の「ナルフラフィン」と,本件医薬品に配合されている,その原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当である。
と判断している。
この点は、「有効成分」の用語の意義を「製剤として組成される基となる原薬のことをいうものと理解するといえ,・・・「有効成分」に当たるものは,本件化合物であるナルフラフィン(フリー体)ではなく,その酸付加塩であるナルフラフィン塩酸塩であるというべきである。」と狭く解釈した本判決とは異なる。このように、同じ本件特許において、本判決(東京地裁)と別件審決取消訴訟判決(知財高裁)とで「有効成分」という用語についての認定に違いが生じたのは、東京地裁では、製剤の組成としての「有効成分」に拘ったのに対して、知財高裁では、医薬品分野の当業者の認識として提出された専門家意見も踏まえて「有効成分」の意義を実質的に効果を生ぜしめるものとして理解したところが大きいように思われる(表2)。
「有効成分」という用語についての医薬品分野の当業者の認識 | |
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本判決 (東京地裁民事第47部) | 「医薬品に関する文献等・・・の記述によれば,医薬品の分野において,製剤は,主に単一成分の結晶であるフリー体又は複合成分の結晶である水和物及び塩の形態をとっている原薬を有効成分として,これに,・・・などの添加剤を加えて組成されたものをいうと認められる。」 |
別件審決取消訴訟判決(2021.03.25 「東レ v. 特許庁長官」 知財高裁令和2年(行ケ)10063) (知財高裁第2部) | 「D名誉教授,神戸学院大学薬学部のE教授及び熊本大学薬学部のF教授は,本件医薬品や本件カプセル製剤について,フリー体であるナルフラフィンが「有効成分」であると鑑定意見書(甲29,30,106)に記載している。」 「D名誉教授は,D意見書(甲106)において,「医薬品における「有効成分」とは,消化管から吸収され,循環血液に移行し,受容体などのタンパク質と結合することで薬理作用を発揮する化学物質を表すことが昭和49年から現在に至るまでの技術常識です。」と記載している。」 「上記イで述べたところに,前記(1)オ,カ,キで認定した事実や前記(1)クの専門家の意見書の内容を総合すると,医薬品分野の当業者は,医薬品の目的たる効能,効果を生ぜしめる作用に着目して,医薬品に配合される付加塩だけでなく,そのフリー体も「有効成分」と捉えることがあるものと認められる。」 |
6.おわりに
本判決を受けて、原告である東レは知財高裁に控訴したようである(2021.06.17 日本経済新聞「東レ、知財高裁に控訴 かゆみ改善薬の特許侵害として」)。
別件審決取消訴訟判決(表1 No.1、2、3、4)において、知財高裁は、本件発明のおける「有効成分」という用語の解釈を、東京地裁による本判決とは異なり、「ナルフラフィン(フリー体)」も該当すると認めていることから、この争点(1)(被告ら製剤は本件化合物であるナルフラフィン(フリー体)を「有効成分」とするものか)は、本件の控訴審において東レに有利な方向に判断されると推測される。
そして、別件審決取消訴訟判決(表1 No.5)においても、知財高裁は、沢井製薬による進歩性欠如の無効理由を認めなかったことから、本判決では判断しなかった争点(3)(本件発明は進歩性を欠き無効にされるべきものか)についても、本件の控訴審において東レに有利な方向に判断されると推測される。
となると、控訴審では、争点(4)(本件延長登録出願により存続期間が延長されたものとみなされた本件特許権の効力は被告ら製剤の製造販売等に及ぶか)についてまで判断される可能性が大いにある。
知財高裁が、用途特許について延長された特許権の効力は被告ら製剤に及ぶと判断するのかどうか・・・その結論を導く判決内容は延長された特許権の効力が及ぶ範囲についての明確なガイダンスを与えるてくれることを大いに期待して、その判決を待ちたい。
コメント
参考記事として取り上げて頂きましてありがとうございます。
そーとく日記: 2021年07月02日
「フリー体を有効成分とする止痒剤」特許:それでも塩酸塩を有効成分として含む止痒剤に権利行使させるべきか?(令和2(行ケ)10063;令和2(行ケ)10096;令和2(行ケ)10097;令和2(行ケ)10098;平成30(ワ)38504;平成30(ワ)38508)
「今回の事件で最も重要なのは、「XXXを有効成分とする○○剤。」とは何を意味しているかという問題だ。・・・「有効成分」という言葉の意味のみを検討してこの問題の答えを出すべきではない。 」
http://thinkpat.seesaa.net/article/482223288.html
【その後の参考文献として追記】
特許研究 第72号(2021年9月) 特許権の存続期間延長登録要件と延長特許権の効力の実質的判断―ナルフラフィン特許訴訟を契機として―(井関涼子)
https://inpit.go.jp/content/100872970.pdf
ただ、先使用権の類推適用は議論はありでもどうなのでしょうか?