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欧州委員会がTeva社に制裁金 多発性硬化症治療薬コパキソンの分割出願制度濫用と競合製品への誹謗中傷行為を理由に

2024年10月31日、欧州委員会は、Teva社の大ヒット医薬品であるグラチラマー酢酸塩(glatiramer acetate)を有効成分とする多発性硬化症治療薬コパキソン(Copaxone®)と競合する安価な後発医薬品の市場参入を遅らせるために優越的地位を濫用したとして、Teva社に4億6,260万ユーロの制裁金を科すと発表しました。

欧州委員会は、Teva社がコパキソンの有効成分であるグラチラマー酢酸塩に関する特許に基づく分割出願手続きにより人為的にその特許保護を引き延ばした行為と、Teva社が競合する後発医薬品に関する誤解を招く情報を組織的に流布した行為は、両行為を合わせると、市場支配的地位の濫用を禁止する欧州連合機能条約(Treaty on the Functioning of European Union: TFEU)第102条に違反すると結論づけています。欧州委員会がこれら2種類の行為に関して制裁金を科すのは今回が初めてとのことです。

2022年10月10日、欧州委員会は、Teva社に対し、同違反についての予備的見解を通知していました。

欧州委員会がTeva社に対し多発性硬化症治療薬Copaxone®の競争遅延行為「Divisionals Game」によりEU競争法に違反したとの予備的見解を通知
2022年10月10日、欧州委員会は、Teva社に対し、同社の多発性硬化症治療薬Copaxone®(コパキソン)(有効成分はglatiramer acetate(グラチラマー酢酸塩))の競争を遅らせることを意図した行為により、EU競争法に違反したとの予備的見解を通知しました。 その予備的見解で指摘された一つが、特許手続きの悪用です。 1.Teva社の特許手続きに関する欧州委員会の予備的見解 今回の...
ニャー
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有効成分であるグラチラマー酢酸塩は、4種類のアミノ酸(L-グルタミン酸、L-アラニン、L-チロシン及びL-リシン)から構成されるポリペプチドの混合物。1986年にTeva社がグラチラマー酢酸塩の全世界における商業的開発権をワイズマン研究所から取得し、多発性硬化症治療薬として海外での開発を進め、1996年に米国及びイスラエルでの承認を取得しました。その後も、多くの国又は地域で承認され、多発性硬化症の治療に広く使用されています。

欧州委員会の発表によると、Teva社が分割出願手続きを濫用してコパキソンの特許保護を人為的に引き延ばしたとされる行為の概要は以下のとおりです。

  • Teva社は、グラチラマー酢酸塩を保護する特許が満了に近づくと、欧州特許庁(EPO)の分割出願に関する規則を活用し、「親」特許に基づく複数の分割特許を段階的に取得しました。
  • Teva社は、これにより、グラチラマー酢酸塩の製造プロセスや投与レジメンに関する特許網を構築し、後発医薬品の市場参入を阻むことを狙いました。
  • 後発医薬品企業は、これら特許を無効にしようとEPOに申立てを行いましたが、Teva社は、EPOでの審理中にこれら特許を後発医薬品企業に対して行使し、裁判所から暫定的な差止命令を獲得しました。
ニャー
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ここまでは、先発医薬品企業と後発医薬品企業との間で通常みられる健全な特許紛争と思われます・・・

  • しかし、Teva社は、特許が無効とされる可能性が高まると、その特許を戦略的に取り下げ、EPOによる無効決定が他の分割特許に「ドミノ倒し」的な影響を与えるのを防ぎました。
  • 結果として、後発医薬品企業は複数の分割特許に対して繰り返し法的異議を申し立てざるを得なくなり、すべての分割特許が無効になるまで9年以上かかりました。
  • Teva社がこの戦術により法的な不確実性を長期化させたことが、グラチラマー酢酸塩を有効成分とする後発医薬品の市場参入を妨害するための優越的地位の濫用である、と判断されました。

出典: 2024.10.31 欧州委員会 press release: Commission fines Teva €462.6 million over misuse of the patent system and disparagement to delay rival multiple sclerosis medicine

問題となったTeva社による行為とは、欧州特許EP2405749ファミリー(出願人はYEDA社)の分割出願手続きのことかもしれません。

分割出願の戦略的活用については「Divisionals game」だとして問題視する意見があります。「Divisionals game」については、以下の資料が参考になります。

出典: Medicines for Europe: Position Paper – The issue of abuses of Divisional Patent applications (March 2021) ANNEX

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重要な特許を取り下げ、新たな分割出願に基づいて再び権利行使を開始するという行為は、欧州委員会が濫用を認定する重要な要因となりそうです。

Teva社は、今回の欧州委員会の決定に対して、「極端で、検証されておらず、事実の裏付けがないと同社が考える法的理論に基づく欧州委員会の決定に同意しない」と述べ、この決定を不服として控訴する意向であることを表明しています。

分割出願は、製品保護のために必要な特許戦略の重要な手続きのひとつです。その「活用」と「濫用」の境界を理解しておくことは非常に重要です。特許権者は、後発医薬品参入を遅らせようとする特許戦略が、規則に則った手続きであっても、この境界を理解しておかないと、後になってから大変なことになりますので、細心の注意を払いましょう。

現時点では、欧州委員会の今回の決定の詳細は明らかになっていませんので、詳細が分かり次第、その内容を精査する必要があるでしょう。

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