既存薬の改良製剤特許は延長登録の対象になるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10184
【背景】
先発メーカーの先の薬事承認処分(オキシグルタチオン、眼手術時の洗浄)の後、別メーカーが本件薬事承認処分(オキシグルタチオン含有キット、販売名:オペガードネオキット(Opeguard neo kit))に基づいて、新規包装体特許(特許第3116118号)の延長登録を試みたが、特68条の2における「物」すなわち「有効成分」について、本件処分前に同用途において実施できたとされ、拒絶審決を受けたため、審決取消訴訟を提起した。
【要旨】
本件特許発明の実施のために、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から、本件処分を受けることが必要であったということができない。先の処分に対応する特許権者が別人であろうと関係ない。請求棄却。
【コメント】
存続期間の延長登録要件として、延長登録の特許権の効力に関する規定(特68条の2)から、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から判断するという判決。既存薬の有効成分及び効能・効果に変更が無い限り、新規製剤に関する承認を得るために該製剤をカバーする製剤特許権を実施できなかったとしても、該製剤特許権の存続期間を延長することはできない。
個人的な感想であるが、登録要件を権利の効力の規定(特68条の2)を持ち出して判断し、さらに「用途」という要件を一義的に「効能・効果」であると解釈するという、存続期間延長登録要件に関する下記一連の判決内容にはいまいち納得いかない感じを受けるのは私だけであろうか? 既存薬の毒性を低減させたり、有効性を持続させたり、医師・患者の使い勝手を向上させたりするための改良薬は、益々強く望まれるようになってきている一方、多大な開発費用を要するのは事実である。存続期間延長制度の立法当時には、このような実情を想定していなかったとしても、登録要件を権利の効力の規定から説き起こすのはやはり乱暴ではなかろうか? また、既存薬の組成や用法・用量等を改善した用途発明の特許権も、承認が得られるまで実施できないという点では同様であるのだから、その処分が既存薬の効能・効果と同一だからという理由によって存続期間延長登録の対象にならないとするのは、そもそもの存続期間延長制度の趣旨に反するのではなかろうか? 用途発明として、効能・効果に限らず、用法用量や製剤に特徴がある”用途”発明が医薬発明として認められている(「医薬発明」の審査基準においても明記されいるところである)ことを踏まえれば、仮に延長登録出願の登録要件として”用途”の同一性を判断するとしても、その”用途”を一義的に医薬品の”効能・効果”とする解釈は、医薬発明の”用途”の解釈と食い違っている。
参照:
- 2005.05.30 「シャイアー・バイオケム v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10012
- 2005.10.11 「ロシュ(参加人:武田薬品) v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10345
- 2007.07.19 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10311
- 2007.09.27 「スリーエム(3M) v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10016
- 2007.09.27 「スリーエム(3M) v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10017
コメント