製造中間体の有用性: 東京高裁昭和48年(行ケ)20
【背景】
「2―アルコキシ―4―アルカノイルアミノ―5―ニトロ安息香酸エステルの製法」に関する特許出願の進歩性判断において、中間体の製造方法のクレームの有用性が問題となった。
特許庁は、ニトロ基の導入位置に関して進歩性を欠くとする理由の他に、
「本願発明の目的物質が医薬物質製造の中間体として使用できることは認められるが、その有用性はあくまで最終目的物質である医薬物質が得られたときにはじめて実現される有用性であるから、最終目的物質である医薬物質に至るまでの一連の工程について特許を請求するのであればともかく、中間体製造までの段階に止つている本願発明において、該有用性をもつて本願発明が格別の進歩性あるものと判断すべきいわれはない。」
との理由で、本願発明を拒絶する審決を下した。
【要旨】
裁判所は、
ニトロ基の導入位置は3-位および5-位に限られるとした特許庁の判断は合理的根拠を欠くと判断し、さらに、
「新規物質を得る製法発明において、特許要件としての目的物質の有用性につき、目的物質がそれ自体有用な医薬物質である場合と、目的物質が有用な医薬を製造するための中間体である場合とを、特に区別して評価すべき合理的根拠はないというべきである。けだし、有用性に関する特許要件は、目的物質が新規であるというだけで何らの有用性をもたないところの製法発明、換言すれば無用の新規物質を得るにすぎない製法発明を特許付与の対象から排除することを趣旨とするものであり、かつそれにとどまるものと解されるからである。」
と判断した。
審決を取消す。
【コメント】
最終目的物である医薬物質が有用であれば、その中間体にも有用性がある。
コメント
【追記】
特願昭41-006671号「2―アルコキシ―4―アルカノイルアミノ―5―ニトロ安息香酸エステルの製法」拒絶査定に対する審判昭和43-4035号事件(昭和52年6月28日出願公告、特公昭52-24010)についてなされた昭和47年8月25日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消しの判決があったため、「特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとした原査定の判断は妥当なものとは認められない。なお、ほかに本願を拒絶すべき理由を発見しない。」として原査定は取り消された(昭和52年12月13日。特許907663)。
原査定は第29条第2項(進歩性の欠如)によるもののみだったようである。特許庁による原査定・原審決における製造中間体の有用性を否定した持論は、進歩性欠如判断の反論として原告がした反論に対するものであり、第29条第1項柱書等による拒絶査定も発していたたわけではなかったようである。
本来、有用性の有無についての争いは、第29条第1項柱書(産業上の利用可能性・有用性)の適否で議論されるべきだったのかもしれないが、進歩性の判断の中での議論だったとしても、実体としては、裁判所により、医薬品(最終物質)が有用でさえあれば、発明の目的物質がその製造中間体であってもその有用性は肯定されることが確認されたといえるだろう。