全面的和解へ
2023年7月25日の小野薬品工業からのプレスリリースによると、小野薬品工業およびブリストル マイヤーズ スクイブ(BRISTOL-MYERS SQUIBB CO. 以下「BMS」)は、アストラゼネカ社、メディミューン社およびその関連会社と、小野薬品工業およびBMSが権利を有する抗PD-L1抗体/抗CTLA-4抗体関連特許に関する特許訴訟等の紛争について、全世界で全面的に和解する契約を締結したとのことです。
また、今回の和解により、小野薬品工業は、総額約140百万米ドルを受け取るとのことです。
- 2023.07.25 小野薬品工業 press release: アストラゼネカ社との抗PD-L1抗体/抗CTLA-4抗体関連特許訴訟に関する全面的和解についてのお知らせ
抗PD-L1抗体イミフィンジ®/Imfinzi®(durvalumab)を巡る特許訴訟
2023年4月25日、小野薬品工業、BMS、本庶佑氏、ダナ・ファーバー癌研究所(DANA-FARBER CANCER INSTITUTE, INC.)は、アストラゼネカ社(ASTRAZENECA PHARMACEUTICALS LP and ASTRAZENECA UK LTD.)に対して、アストラゼネカ社の抗PD-L1抗体Imfinzi®(durvalumab)の米国での販売行為等が、米国特許第9,402,899号(※米国ではいわゆる「本庶・フリーマン特許」として知られているもののひとつ)を侵害していると主張し、米国デラウェア州連邦地方裁判所に提訴していました。
また、日本では、2022年2月28日、小野薬品工業は、抗PD-L1抗体に関する特許(第5885764号、第6258428号)に基づき、「イミフィンジ®」(一般名:デュルバルマブ)を販売しているアストラゼネカ株式会社に対し、特許権侵害行為に対する差止請求及び損害賠償請求訴訟(訴額約320億円)を東京地方裁判所に提起していました。
参考過去記事:
抗CTLA-4抗体Imjudo®(tremelimumab)を巡る特許訴訟
アストラゼネカ株式会社は、日本において、肝細胞がんや非小細胞肺がんを対象疾患とする免疫療法薬として、抗CTLA-4抗体であるトレメリムマブ(tremelimumab)を有効成分とするイジュド®点滴静注の製造販売承認を2022年12月23日に取得し、2023年3月から販売を開始しています。
米国では、Imjudo®の製品名で2022年10月に承認され、販売されており、こちらも、2023年1月23日、BMSは、アストラゼネカ社に対し、アストラゼネカ社によるImjudo®の販売が米国特許第9,320,811号および第9,273,135号の特定のクレームを侵害しているとして、デラウェア州連邦地方裁判所に提訴していました。
参考:
- BMS SEC filing 10-Q Quarterly Report(Apr 27, 2023)
- アストラゼネカ社 Annnual Report and Form 20-F Information 2022)
米メルク社との抗PD-1抗体キイトルーダ®/Keytruda® (pembrolizumab) を巡る特許訴訟での和解条件はどうだったか
免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体「キイトルーダ®/Keytruda®」 (pembrolizumab)を巡る特許訴訟で、小野薬品工業・BMSと米メルク社とが締結した和解条件がどのようなものだったかを参考に記します。
2017年1月21日付の小野薬品工業のプレスリリース(小野薬品 press release: 2017.01.21「抗 PD-1 抗体特許侵害訴訟について Merck 社と和解し、ライセンス契約を締結」)によると・・・
本契約により、小野薬品工業およびBMSが保有する用途特許および物質特許が有効であることを確認した上で、米メルク社の「Keytruda®」の販売を許諾すること、また、メルク社は小野薬品工業およびBMSに対して6億2500万米ドルの頭金を支払い、2017年1月1日から2023年12月31日まではKeytruda®の全世界売上の6.5%、2024年1月1日から2026年12月31日までは2.5%をロイヤルティとして支払うこと、で合意に至りました。
なお、頭金およびロイヤルティは小野薬品工業に25%、BMS社に75%の割合で分配されるとのことでした。
従って、小野薬品工業は、頭金だけでも約150百万米ドルを受け取った計算になります。
参考過去記事:
雑談
2022年のグローバル売上は、米メルク社のKeytruda®が20,937百万米ドルであるのに対し、アストラゼネカ社のImfinzi®(includes sales of Imjudo, which commenced in Q4 2022)は2,784百万米ドル。Imfinzi®の売上は凄いのに、Keytruda®の次元が違いすぎる・・・。米メルク社との和解の時と比べて総額は少なく見えるが、売上の違いを踏まえれば、アストラゼネカ社からの受け取る総額約140百万米ドルは、妥当な額なのかな・・・。
今回、小野薬品工業は、BMSとの契約関係(配分)もあるなか、アストラゼネカ社から総額約140百万米ドルも受け取るわけですし、いわゆる「本庶・フリーマン特許」の満了も迫ってきているので訴訟で消耗戦になる前に和解に至ることができたという点でも、小野薬品工業にとっては良かったのではないでしょうか。
ピポ先輩! 先発メーカーどうしの特許紛争はこれで解決しましたが、Opdivo®のパテントクリフが迫ってきましたよ。米国市場独占満了は2028年と想定されています(Feb 14, 2023 BMS 10-K Annual Report)。そんな楽観的では、ビジネスは大変なことになりますよ~。ピポ先輩!
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コメント
【追加情報】
Bristol-Myers Squibb Jul 27, 2023 10-Q Quarterly Reportより
https://d18rn0p25nwr6d.cloudfront.net/CIK-0000014272/463cf1eb-e422-4dc2-b083-30ec365b375e.pdf
On March 17, 2022, BMS filed a lawsuit in U.S. District Court for the District of Delaware against AstraZeneca Pharmaceuticals LP and AstraZeneca UK Ltd (collectively, “AZ”) alleging that AZ’s marketing of the PD-L1 antibody Imfinzi infringes certain claims of U.S. Patent Nos. 9,580,505, 9,580,507, 10,138,299, 10,308,714, 10,266,594, 10,266,595, 10,266,596 and 10,323,092. On April 25, 2023, BMS filed an additional lawsuit against AZ in U.S. District Court for the District of Delaware alleging that AZ’s marketing of the PD-L1 antibody Imfinzi infringes U.S. Patent No. 9,402,899.
・・・Imfinziを訴えた追加の米国特許9,402,899(本庶・フリーマン特許)は、2023年7月2日が20年満了日のところ、PTAが219日付いたため、2024年2月まで延長されている。
On January 23, 2023, BMS filed a lawsuit in U.S. District Court for the District of Delaware against AstraZeneca Pharmaceuticals LP and AstraZeneca AB (collectively, “AZ AB”) alleging that AZ AB’s marketing of the CTLA-4 antibody Imjudo infringes certain claims of U.S. Patent Nos. 9,320,811 and 9,273,135.
On July 24, 2023, BMS entered into an agreement with AZ and AZ AB (the “AZ Parties”) to settle all outstanding claims between them in the CTLA-4 litigation and the two PD-L1 antibody litigations described above. Under the agreement, the AZ Parties are to pay an aggregate of $560 million to BMS in four payments through September 2026, which will be subject to sharing arrangements with Ono and Dana-Farber. BMS’s share is approximately $418 million, of which the net present value will be reflected in income during the third quarter of 2023.
・・・AZは2026年9月にかけて4回に分けてBMSに$560mを支払う。小野・Dana-Farberとの分配によりBMSは$418mが取り分となる。小野は$140m受け取ると発表しているので、両社で25:75の配分のようだ。
参考:
小野・BMSのOpdivo(Nivolumab)の延長された米国特許(米国では延長特許の数はひとつ)は、Medarex社と小野薬品の特許8,008,449のようだ。延長が認められたが承認日からの14 year capのため、存続期間は2028年12月22日(含 PTE 552 days)までとなった。
https://patentcenter.uspto.gov/applications/11913217