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2011.03.10 「アベンティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10170

LPL欠損の遺伝子治療: 知財高裁平成22年(行ケ)10170

【背景】

「組換えウイルス,製造方法および遺伝子治療での使用」に関する出願(特願平8-500419号; 特表平10-500859; WO95/33840)の拒絶審決(不服2007-020372; 進歩性違反)取消訴訟。

請求項1:

リポタンパク質リパーゼ(LPL)をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルス

【要旨】

裁判所は、

「本件優先日当時,遺伝子治療は,遺伝病に対する原因療法として有力な手段であり,かつ,成功治験例が存在することは周知であったところ,引用例1には,遺伝病の一種であるLPL欠損による家族性高カイロミクロン血症症候群について,遺伝子治療の可能性が示唆されているのであるから,引用例1に接した当業者は,当然,かかる疾患について遺伝子治療を試みるものということができる。そして,家族性高カイロミクロン血症症候群の原因であるLPLをコードする核酸配列も,本件審決が指摘するとおり~であったことからすると,引用例1に接した当業者が,家族性高カイロミクロン血症症候群の遺伝子治療の実現のために,引用例2及び3により開示された知見を組み合わせて,相違点の構成,すなわち「リポタンパク質リパーゼ(LPL)をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルス」の創製を着想し,具体化に向けた努力を行うことは,当業者における通常の創作能力の発現というべきである。したがって,本件補正発明は,引用例1ないし3に基づいて,当業者が容易に想到し得るものということができる。」

と判断した。

この点について、原告は、

「引用例1は,遺伝子治療に関する将来の可能性を示唆するにとどまり,本件優先日当時,LPL欠損症の遺伝子治療は時期尚早とされていたのであるから,引用例1の記載からは,LPL遺伝子を遺伝子治療に用いようとすることを動機付けられるものではない」

等主張した。

しかし、裁判所は、

「確かに引用例1の文言自体は,「未来の遺伝子治療の可能性の基礎を与えるであろう」とするにとどまるもので,短期間において遺伝子治療に係る技術が確立することが期待できないかのように解する余地はあるものの,先に指摘したとおり,本件優先日当時,欠陥組換えウイルスを用いた遺伝子治療の研究が進められており,一部の遺伝病(血友病B,家族性高コレステロール血症,ADA欠損症)においては,人間を対象にした成功治験例が報告されていたのであるから,かかる技術水準を前提とすると,引用例1に接した当業者が,上記文言から,将来における実現に係るLPL遺伝子を使用した遺伝子治療の実現可能性を期待するものということができるから,引用例1の上記文言自体は,LPL遺伝子を遺伝子治療に用いることの阻害要因となるものではない。

~また、~本願明細書において,その製造方法及び使用方法については開示されているものの,当該ウイルスを具体的に製造できたこと及び当該ウイルスが遺伝子治療に使用するウイルスベクターとして有用であることを示す具体的な結果も記載されていない以上,本件補正発明は,LPLが関与する疾患の遺伝子治療のウイルスベクターとして使用するために,自己複製できないように改変されたウイルスにLPLをコードする核酸配列を導入するという着想を示したにすぎないものであって,同発明が,従来技術からは予測不可能な効果を有するものであるということもできない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

判決内容について特にコメントする点はない。

ところで、本件Aventisの出願は、欧州(EP0763116)にて下記クレームが成立した。

Claim 1: Defective recombinant virus comprising a nucleic acid sequence encoding all or part of the lipoprotein lipase (LPL) or of a derivative thereof.

しかし、Amsterdam Molecular Therapeutics等の異議申し立てがあり、下記のように補正された。

Claim 1: Defective recombinant virus, excluding phagemid CDM8, comprising a nucleic acid sequence encoding all or part of the lipoprotein lipase (LPL) or of a derivative thereof.

Amsterdam Molecular Therapeuticsは、Lipoprotein Lipase Deficiency (“LPLD”)の遺伝子治療薬Glybera® (alipogene tiparvovec; AMT-011)を欧州にて承認申請(marketing authorisation application (MAA) )していたが、2011年6月23日付でEuropean Medicines Agency(EMA)から現時点では承認できない旨の通知を受けている。Amsterdam Molecular Therapeuticsの2006年のAnnual reportによれば、上記AMT-011のFTOを確保するため、(恐らく上記欧州特許に関して)Aventisとライセンス契約をしたようである。

“Finally, in 2006 AMT continued to widen its IP portfolio significantly. Both the signing of the Aventis license as well as the Targeted Genetics License give AMT freedom-to-operate in respect of AMT’s lead product AMT-011.”

このような背景からすれば、Aventisが本件日本出願も知財高裁まで争ってでも権利化を目指そうとしたことに納得できる。

参考:

コメント

  1. Fubuki Fubuki より:

    MIT TECHNOLOGY REVIEW 2017.04.25 「世界一高価な遺伝子療法処方薬、需要不足で販売中止」
    https://www.technologyreview.jp/s/38985/the-worlds-most-expensive-medicine-is-being-pulled-from-the-market/
    「世界一高価な遺伝子療法処方薬「グリベラ」は、今年9月を最後に販売中止になることが決まった。希少疾患の治療に効果のある遺伝子治療薬はそもそも需要が少ないとはいえ、価格設定を誤ればそもそも患者に選ばれない問題を浮き彫りにした。」

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