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2012.08.28 「ファイザー・プロダクツ v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10352

単回投与の進歩性: 知財高裁平成23年(行ケ)10352

【背景】

「マイコプラズマ・ハイオニューモニエを用いた単回ワクチン接種」に関する特許出願(特願2003-509957、特表2005-515162、WO2003/003941)の拒絶審決(不服2008-6757号)取消訴訟。争点は進歩性。

本願補正発明1:

マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mycoplasma hyoneumoniae)の感染に起因する,ヒト以外の動物における疾患または障害を治療または予防する方法であって,3~10日齢の動物に不活化されたマイコプラズマ・ハイオニューモニエ ワクチンの有効量を単回投与することを含む,前記方法。

審決が認定した引用発明の内容並びに本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおり。

引用発明の内容:

マイコプラズマ・ハイオニューモニエによる感染に対してブタを免疫する方法であって,少なくとも,マイコプラズマ・ハイオニューモニエによる感染に対してブタを免疫するに有効な量の,バイナリー・エチレンイミンで不活性化された病原性の高いマイコプラズマ・ハイオニューモニエ分離株,および生理学的に許容し得る担体を含有するバクテリンの1回用量をブタに投与して,マイコプラズマ・ハイオニューモニエ感染に対してブタを免疫することを含む免疫方法。

一致点:

「マイコプラズマ・ハイオニューモニエの感染に起因する,ブタにおける疾患または障害を治療又は予防する方法であって,ブタに不活化されたマイコプラズマ・ハイオニューモニエ ワクチンの有効量を投与することを含む,前記方法。」である点。

相違点1:

本願補正発明では,投与されるブタについて,「3~10日齢」のものに限定されるのに対し,引用発明では「3~10日齢」に限定されていない点。

相違点2:

本願補正発明では,ワクチンの投与回数が「単回投与」に限定されるのに対し,引用発明では「単回投与」に限定されていない点。

【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)

1. 取消事由1(引用例記載の発明の認定の誤り)について

裁判所は、

「引用例に,少なくとも,バクテリンの1回用量をブタに投与する免疫方法が記載されている旨を認定した審決に誤りはないというべきである。」

と判断した。

これに対し、原告は、

「①本願の優先日において,不活化ワクチンの接種により免疫を得るためには複数回のワクチン投与が必要であり,2回目のワクチン投与によって得られる抗体は,1回目のワクチン投与で得られる抗体に比べて,格段に優れた特徴を有することは技術常識である,②引用例の実施例には,バクテリンを1週齢と3週齢とに2回,不活化ワクチンをブタに投与する免疫方法のみが開示されており,不活化ワクチンを単回投与する免疫方法は記載されていない」

として、審決の引用例記載の発明の認定の誤りを主張した。

しかし、裁判所は、

「免疫を付与し維持するために追加接種が有効であるという一般論としての技術常識が存在するとしても,それが,引用例の記載の「1回用量をブタに投与」を除外して,実施例に記載された2回投与の発明しか把握できないほどの絶対的な知見とは認められない。~「2回目のワクチン投与によって得られる抗体は,1回目のワクチン投与で得られる抗体に比べて,格段に優れた特徴を有する」との技術常識が存在するとしても,~当業者は,2回以上のワクチン投与が必須であるとは考えず,生体防御に足りる免疫が付与できる最低限の接種回数を採用することがあるものと解される。したがって,原告主張の上記①の技術常識があるとしても,審決の引用発明の認定に誤りとする根拠になるとはいえない。

また,~この実験において1回目のワクチン投与により得られた抗体価が小さかったことは,1回目のワクチン投与量を評価するための材料とはなり得ても,単回投与を否定する根拠にはなり得ない。」

として、引用例の実施例の記載をみても審決における引用発明の認定が誤りであるとは認められないと判断した。

2. 取消事由2(相違点に関する容易想到性判断の誤り)について

原告は、

「本願の優先日において,①生後間もない動物においては,抗体等の減少及び抗体機能の効率がよくないことにより,体液性免疫不全が生じるほどに免疫機能は低下し,感染症等の病気にかかりやすくなっているとの技術常識,及び,②生後間もない動物においては,母親由来の抗体により,ワクチンの働きが阻害されるとの技術常識があり,上記の2つの技術常識は,当業者において,引用発明から本願補正発明を想到することを阻害するから,相違点に係る本願補正発明の構成が容易想到であるとはいえない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「甲3ないし甲5は,原告主張の技術常識を裏付けるとはいえない。むしろ,生後間もないブタは,発達途上のため成体ブタには多少劣るとしても,免疫系が機能することを示すものと認められるから,原告の主張は理由がない。したがって,甲3ないし甲5によっても,3~10日齢の動物に単回投与するという本願補正発明の構成を選択することを阻害するとまでは認められない。

本願の優先日当時において,生後間もない動物において,母親由来の抗体によりワクチンの働きが阻害されることが一般論としてあるとしても,他方で,母親由来抗体の影響を予測することが困難であるとの技術常識もあったということができる。したがって,原告主張の技術常識が,3~10日齢の動物に単回投与するという本願補正発明の構成を選択することを阻害するとまではいえない。」

として、原告主張の技術常識が当業者において引用発明から本願補正発明を想到することを阻害するとはいえず、相違点に係る本願補正発明の構成が容易想到であるとはいえないとの原告の主張は理由がない、と判断した。

【コメント】

欧米で下記クレームで成立しているが、本事件での引用例(WO92/03157)は、欧米の審査段階では引用されなかった。審査における調査の質は日本のほうが優れている。のかも?

EP1474067(B1)

1. Use of a Mycoplasma hyopneumoniae bacterin for the manufacture of a vaccine for treating or preventing a disease or disorder in an animal caused by infection with Mycoplasma hyopneumoniae for administration to the animal at from 3 to 10 days of age, an effective amount of a single dose of the Mycoplasma hyopneumoniae vaccine.
異議申立の後、審判に係属中のようである(T0619/12)。本事件での引用例は、異議申立人によって引用されている。

US6,846,477(B2)

1. A method of treating or preventing a disease or disorder in an animal caused by infection with Mycoplasma hyopneumoniae (M. hyopneumoniae) comprising administering to the animal at from about 3 to about 10 days of age, an effective amount of a single dose of a Mycoplasma hyopneumoniae vaccine, wherein said M. hyopneumoniane vaccine comprises an inactivated M. hyopneumoniane whole cell preparation and wherein said single dose of the M. hyopneumoniane vaccine contains at least about 1×108 color changing units (CCU).
米国の審査では自明性に関するOffice Actionは出なかったようである。本事件における引用例は、米国の審査で引用されることはなかった。

投与の回数について争われた他の事件として下記がある。

参考:

  • 動物用医薬品レスピシュアワン®(RespiSure-ONE®; 一般的名称: マイコプラズマ・ハイオニューモニエ感染症(油性アジュバント加)不活化ワクチン(シード))
    日本で認められている用法用量は、「生後1~10週齢の子豚に2mLを頚部筋肉内に注射する。」
  • RespiSure-ONE® Product sheet

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